第25話 襲撃者
「ぐあ、あぁッ……! 」
(なん、だ、今の光は!? )
予期せぬ出来事に反応が間に合わず、極大の光をもろに目に浴びてしまった番野は手で目を覆ってその場に膝を着いた。
(まずいぞ……。目が完全に潰された。こんな状態じゃ防御も迎撃もロクにできやしないッ)
番野は、急に強い刺激を受けたせいで生じた頭痛と明滅する視界を少しでも和らげるために目頭を押さえる。
(ぐ、……。せめて、誰か一人でも……)
「おい。二人共、無事か……? 」
「ごめん。私、もろに見ちゃった……。沙月ちゃんは? 」
「わたしはギリギリ目を閉じるのが間に合ったんですが、それでも少し目の前がチカチカします」
二人の状態を聞いた番野は、クソ、と拳を膝に打ち付けた。
(今のところはまだ近くに襲撃者の気配は感じられないが、安心はできない。今の攻撃で、どこにいるかは知らないが、『そいつ』が俺達の位置をほぼ正確に捕捉している! )
番野は、いち早く状況を確認するため、閉じようとする瞼を無理矢理開こうとする。しかし、強烈な刺激を受けた瞳は、これ以上の刺激を受ける事を頑なに拒む。
尚も試すが、それでも瞼は開こうとしない。
こうなったら指を使ってでも、と番野は考えた。
しかし、そんな奇行に走ろうとした番野は、待てよ、と再び思考を開始する。
(俺達の位置をほぼ正確に捕捉してるってことは、『そいつ』はレーダーでも使ってない限りは必ず俺達が見える場所にいるということになる。
その場所が建物の屋上とかなら、まだもう少し時間は掛かるかもしれない。
だが、もしも『そいつ』が既に俺達のすぐそばにいるとしたら? 気配を消して、俺達のすぐ横で武器を振りかざしているとしたら? )
「だとしたらとても危険な状況だね。今の君らは」
「がーーッ!!? 」
三人以外の、誰ともつかない声がした直後、声に反応して顔を上げた番野の顔面を何かが殴り飛ばした。
番野は、アスファルトの上を二回程後ろに転がって体を起こす。
(やっぱりそうだったか……!! クソ。何で殴ってきたのか知らないが、おかげで頭がハッキリしたぜ!! )
番野は、ようやく元の視界を取り戻した目を開く。
次の瞬間。その目が、振り下ろされようとする剣を捉えた。
番野は咄嗟に腰に差してある剣に手を伸ばすが、動作に焦りが有るのと無いのとでは動きに歴然とした差が生じる。
その証拠に、振り下ろされる剣には一切のブレが無く、剣を取ろうとする番野の手は焦りのあまり空を切った。
(間に合わないっ……!! )
番野は、高速で振り下ろされる剣を体を横に捻って紙一重で躱すと、次の攻撃を予測してさらに地面を転がる。
すると、直後に響いた快音がその予測が正しかった事を証明した。
しかし、一瞬の暇も与えず、襲撃者は番野に鋭い攻撃を仕掛ける。
(この野郎。誰だか知らないが俺ばっか狙いやがって。だが、俺がもう回復してるってことは、もう大丈夫だろう)
今まさにこの体を貫かんと差し迫る剣の切っ先、その向こう側を見た番野は、冷や汗混じりに笑うと、思い切り叫んだ。
「夏目ぇぇええええッ!! 」
「ーーッ!? 」
襲撃者は、突然大声で叫んだ番野に驚いて一瞬動きが止まる。そして、その展開は番野の思い通りだった。
「行きますっ!! 」
「……消えた」
何が起こったか分からない、と言いたげな声が、薄暗い路地裏に響く。
襲撃者が、自分の後方から響いてきた幼さの残る少女の声を聞いた一瞬後には、既に目の前から標的の少年は塵一つ残さず消えており、後方にいた二人の少女も同様に消えていた。
取り逃がした。
一体如何なる現象が起こってこうなったのか皆目見当もつかないが、とにかく自分は、絶好の機会であったにも関わらず標的を取り逃がした。
襲撃者は、その麗しい金髪を指先で弄って気を紛らわす。
元はと言えば、閃光で怯んでいる隙にさっさと済ませておけば良かったとも思う。
しかし、相手がまだ少年だった事が、いきなり始末できなかった理由かもしれない。
だが、それはこちらの事情であって、『上』には全く関係の無い事だ。
(これは、帰ったら始末書かな……)
はあ、と息を吐いて倒れている二人の部下を起こすと、襲撃者は気怠そうに呟いた。
「やれやれ。憲兵団長として、上にどう説明したものかな……」