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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第三章 王都動乱ー準備ー
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第24話 白い衝撃

 決別するために、もう使うまいと思っていた。


 戻る手段さえ思い付かない、いや、戻る手段があったとしても戻らないであろう、『あの世界』で培った技術。


(それをまさか、こうも簡単に使っちまうとはな……。もっと他に方法はあった筈なのに、体が勝手に反応していた。自分の体も思い通りに制御できないとは、未熟だなぁ、俺)


 そう思った番野の脳裏を、ふと、ある少女の顔が過ぎった。


 その少女はまるで、『番野護つがのまもる』という存在を認めようとしなかった家族の中で唯一認めてくれた、姉のようなーー。


(クソッ。何だって余計なもんまで思い出してしまうんだ)


 そこまで考えて、番野は首を振ってそれ以上考えないようにした。これ以上、決別した筈の『あの世界』での出来事を思い出さないように。


(まだ、まだ未練が残ってるっていうのか? あんな場所に。俺を認めてくれた、たった一人の人間の存在さえ許さなかった『あの世界』に……? )


 気付けば、固く、固く握り締めた拳からは、ポタリと紅い雫が滴っていた。


 短かめに切り揃えられている爪が、無意識のうちに引き出された尋常でない握力によって、皮膚に食い込み、肉を裂いたのだ。


 番野は、掌から滴り落ちる血液を見て初めて自らの掌から伝わる、掌を無造作に針で刺されたような鋭い痛みを感じた。


 神経に響かないようにゆっくりとした動きで手を開き、傷口を見た番野は、それなりの深さで抉られているそれに、げんなりと肩を落とした。


「あーあー、こりゃ少し長引きそうだな。どうにかして消毒しないとーー」

「あ、いた! 」


(げっ、もう来たのか。あいつらに気付かれたら面倒な事になりそうだぞ)


 後ろから響いてくる足音と聞き覚えのある声を聞いた番野は、急いで手に付着した血液を服で拭って振り返った。


 すると突然、振り返った番野の鼻先にビシッと人差し指が突きつけられた。


「うっ」


 番野は、そのあまりの勢いとタイミングに思わず狼狽うろたえる。


「ねえ。そういえばついさっき、勝手にどっかに行きません〜とか何とか言ってなかったっけ? 」

「ああいや、何つーか、ははっ……」

「あ"? 」

「ごめんなさい」


 美咲の有無を言わせぬ圧力に気圧された番野は、一瞬前まで浮かべていた薄ら笑いを消すと、素直に平伏した。


「ところで、番野さん」

「はい。何でございますでしょうか? 」

「なんですか、その変な日本語は? あ、いえ、それよりーー」


 すると、土下座をするように地面に座っている番野を見下ろしていた夏目は、その視線を付近に転がる憲兵に移して言った。


「ここに倒れている二人の憲兵。もしかして、やったのは番野さんですか? 」

「ああ。確かにこれをやったのは俺だが、間違っても『殺って』はないからな? それは断じて違うぞ? 」

「いつですか!? 」

「え、は? 」


 突然詰め寄られて目をぱちくりさせる番野に、失礼しました、と謝った夏目は、次は控えめに言った。


「あなたがこの人達を倒したのは、いつの話ですか? 」

「そうだなぁ。だいたい、今から三、四分ぐらい前じゃないかな。でも、それがどうしたんだよ? 」

「まずいですね……」

「何がまずいって言うんだよ? 」

「…………」


 あごに手を当てて渋い顔をする夏目に、それとは逆の緊張感のない態度で問う番野。


 それもその筈。今の夏目と番野とでは、思考の中心に据えている物事が全く異なるからだ。


 何も言わない夏目に、番野は声をかける。


「おい、夏目ーー」

「二人共」

「な、なんだよ」

「どうしたの? 」


 番野の言葉を遮るようにして言った夏目は、額に汗を浮かべ、鬼気迫る様子で続ける。


「今すぐ、ここから離れましょう……! 手遅れになる前に……!! 」


 そう、夏目が言い切った直後だった。

 三人の視界が一斉にホワイトアウトした。

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