第15話 視線の先、そしてーー
少女は、美咲が巨大な氷柱の裏に隠れたところで氷の短剣の掃射を止めた。
さらに強力な魔法を行使して氷柱ごと番野達を吹き飛ばすためではなく、様子を見るために。
(わたしのフロスト・スピアを即席の盾にするとは、なかなか機転が利くようですね。
何を話し合っているのか知りませんが、ここはひとつ待ってみるというのもまた面白いでしょう)
それから間もなくして、盾から悠然とした足取りで出て来た番野と美咲に、少女は期待半分、慢心半分といった調子で言った。
「話し合いが終わったようですね。この状況を打破する策は浮かびましたか? わたしに届く策が」
「はっ。まるでもう勝ったような言い方だな」
「当然です。わたしとあなた達の状態、そしてこの状況を見れば一目瞭然でしょう」
「…………」
無言で歩く二人を見て、少女はますますその慢心を膨らませる。
(あの人達の事です。降参はしないでしょうが、しかし、わたしに届くための手段を二人は持っていない。わたしの勝ちは確実です。これで師匠も……)
番野と美咲は、少女の真下辺りまで歩いて来る。そして、歩みを止めたところで番野は不敵に笑ってこう言った。
「白と青の横縞か。よく分かってるじゃないか」
「?? 」
始め、少女は番野が何を言い、その後ろでなぜ美咲が額に手を当てて呆れたように首を横に振っているのか分からなかった。
だが、番野の目線の先を考える事で、ある事に気付く。
(よく見るとあの人の目、わたしではなくもっと下を見てる……? それに白と青の横縞って…………、ッ!! )
「てっきり縞パンってのは二次元にのみ許されたレア装備かと思ってたが、現実でもなかなか合うもんだな。これは認識を改めないといけないかもしれない」
「ひっーー!!? 」
一瞬で、ぼんと顔を真っ赤に染めた少女は、何やらうんうんと頷きながらあごをさすっている番野に噛み付くような勢いで言う。
「し、死んでくださいっ!! 」
「ちょっ、そりゃあんまりだろ!?」
その時、自分の周りに、言い知れない何かが急速に凝縮されていくのを感じた番野は、すかさず剣を構える。
「来るぞ。美咲、絶対タイミングずらすなよ……! 絶対だぞ……! 」
「はぁ……。分かってる、分かってるわ……」
「フッ。まあこの際どうしてお前が俺に対して呆れた態度を取っているのかはあえて追求しないでおくよ」
顔を真っ赤にした少女は、乱暴に右手を掲げる。
「起ーー」
「……来るぞ!! 」
番野の声と、少女の右手が振り下ろされたのはほぼ同時だった。
「爆!! 」
直後、番野と美咲を起点とした、広範囲に渡る爆発が巻き起こった。
少女は確信する。
(終わりましたか……)
だが、その確信は、思いもよらぬ方向から聞こえた声によって崩された。
「なあ、いつまで下向いてるつもりだ? 」
(正面……っ!!? )
自分の正面、約三mの位置に二人を捉えた少女は、急ごしらえのフロスト・スピアを形成する。
しかし、急ごしらえとはいえ、その槍の穂先はまっすぐ目標に向いていた。
「残念でしたね! あなた達は空中で自由に動く術を持っていない! 」
「そうかな? 」
そう言った番野は、剣を盾にし、氷柱を防ぐ。
「ぐおっ……!! 」
だが、それだけでは終わらない。
「美咲ー!! 」
「ええ!」
番野の背後にいた美咲が、番野の肩を経由し、氷柱に剣を突き刺して支えとした。
少女は驚愕に目を見開く。
「そんなーー」
美咲は、そんな少女を尻目に突き刺した剣を思い切り蹴って一気に距離を詰め、少女へ向けてその手を伸ばす。
「はあああああ!! 」
対する少女は慌てて短剣を形成しようとするが、間に合わない。
「アイタッ!!? 」
そして、年相応の可愛らしい悲鳴を最後に、試験は終わりを迎えた。