第14話 試験中盤戦
先程までとは違う、明らかに殺気のこもった声を聞いた番野と美咲は、何かを考えるより先に反射的にその場から動き出した。
少女は、正面に氷のつぶてを形成すると、それらを番野達に向けて撃ち出した。
「美咲! あのガキんちょ、どうして本気になってんだ!? 」
「番野君があんな煽るような事言うからでしょう!? 」
「いきなり即死レベルの不意打ちが来たから、ついムカッときて」
「大人気ないんだ〜」
「いやいや。いくら大人でもいきなり殺されそうになったらキレるだろ!? 少なくとも俺にそんな包容力はねぇ! 」
上空から降り注ぐ氷のつぶてを剣で砕きながら番野は言う。
すると、その様子を見た少女が氷のつぶてだけでは効果が薄いと判断したのか、別の魔法の詠唱を始めた。
「水よ、我が眼前にて形を成せ。其れは槍。水よ、氷結し槍と成りて、眼前の敵を貫けーー」
「空中に、氷柱ができてる……」
「あれが、魔法……? 」
何がどうなって魔法が行使されているのか見当もつかない番野と美咲は、少女の前に何十本もの大きな氷柱が形成されていく様を見て唖然としていた。
そして、その全てが完成したところで少女は叫ぶ。
「フロスト・スピア!! 」
それと共に、何十本もの凶器が一斉に二人に向けて放たれる。
番野は、迫る氷柱の一本を見据え、迎撃するべく剣を構える。
「当たったら痛そうだな……!! 」
「そうね。だから、一本でも当たる訳にはいかない!! 」
そして、
「はぁっ!! 」
激突する。
(ぐっ……。結構重いぞ、これ……)
番野は、若干押され気味になりながらも、初めの一本を地面に向けて叩きつけるようにして防ぐ。
二本目は払い、三本目は横転して避けた。
さらに立て続けに迫り来る氷柱を弾くないし避けてやり過ごすが、依然として掃射は止まない。
それに、
(あのガキんちょは空中にいるから、俺達がガキんちょに一撃入れるにはどうにかしてあそこまで飛ばないとならない。
だが、たとえあそこまで飛べたとして、俺達にはガキんちょみたいに空中に留まる術が無い。さらにあの氷柱がある。困ったな……)
これについては美咲も同じ事を考えているようで、何か考えはあるかと視線で問いかけた番野に、首を横に振っている。
(こいつは本当に困った。っていうか、これテストだよな? あのガキんちょめ、本気で殺しに来てるぞ……)
「なるほど。これまで防がれるとは、なかなかやりますね。では、こういったものはどうでしょうか? 」
そう言った少女は、再び詠唱を始めた。
「再構築開始。水よ、我が眼前にて形を成せ。其れは短剣。水よ、氷結し無数の短剣と成りて、眼前の敵へ殺到せよーー。フロスト・ダガー!! 」
すると、先程まで絶え間なく射出されていた氷柱が弾け、1本の氷柱から数十の短剣が生み出されていく。
その数は、百や二百どころではない。それを優に越す数の矛先が、少女の手と共に二人に向けられた。
(マズイ。流石にアレは受け切れない……!! )
「美咲」
「なに? 」
「ガキんちょがアレを撃ち始めた瞬間に二手に分かれるぞ。あんなのを全部受け切ろうなんてバカのする事だ」
「同感ね。ところで、あの娘に一撃届かせる方法、何か見つかった? 」
「いいや。だからーー逃げながら考えるさ」
番野が苦笑いを浮かべて答えると、分かった、とだけ美咲は言った。
「もう良いですか? 」
「おう」
「では、行きます……! 」
掃射が始まった。
それと同時に、番野と美咲は二手に分かれて走り出した。
(なるほど。二手に分かれて狙いを分散させる作戦ですか。こうすれば、一人に対するフロスト・ダガーの本数を減らせる。ですが、そう来る事は分かっていましたよ)
不敵に笑う少女に、番野が氷の短剣に追われながら言う。
「おいガキんちょ! お前、テストだって言ったくせに随分な事してくれるじゃないか! 」
「当然です。これくらい対処していただかなくては、“師匠”の仲間にする訳にはいきません! 」
「だから、その“師匠”って誰なんだよ!? 俺達がいつそいつの仲間になりたいって言った!
これはアレか!? 確定イベントなのか!?
さてはお前、俺達が来るまでここら辺を通る見た感じ強そうなやつら全員にあの竜やらをけしかけて、『テストをします』とか冷静な顔で言ってたな!? 」
「ーーッ!! どうして分かったのですか!? 」
「はぁ…………」
ハッと驚いた顔をして言う少女に、番野は、まだ子供だなと思う反面とんだ迷惑お嬢さんだと、これまで突然の襲撃を受けたであろう方々に心の中で手を合わせた。
(それにしてもあのガキんちょ、そこそこ頭も良いみたいだな。たまに入れてくるフェイントのタイミングが絶妙だ……)
傷口がズキズキと痛むのを堪えながら番野は走る。走りながら、思考を巡らせる。
(だが、いくら頭が良くても攻撃が単調的なあたり、やはりまだ子供って事か……)
すると、番野は短剣に紛れて飛んできた巨大な氷柱を剣で打ち落とし、一時的な盾にした。
「あ! 番野君、女の子を矢面に立たせといて何一人で隠れてるの!? 」
「良いから、ちょっとこっち来い! 」
「え? あ、分かった! 」
一瞬集中を切らしたために短剣が肩を掠める美咲だったが、それには目もくれず、飛び込むようにして氷柱の陰に隠れた。
美咲が来ると、番野が右腕を押さえながら言った。
「よお、大丈夫か? 」
「はぁ、はぁ……。まあ、なんとか。番野君は? 」
「いくつか当たったけど、大丈夫だ。それより、ちょいと聞いてくれ」
「なに? 」
興味ありげに身を乗り出して聞く美咲。
その時、襟元から中が見えそうになり、番野は慌てて目を逸らした。
そして、一度咳払いをして調子を整えると、真剣な面持ちで言った。
「策が浮かんだ。これであのガキんちょに一撃お見舞いできるぞ」