第13話 魔法幼女、現る。
試してやる。
そう、完全に番野と美咲を見下したような態度と声で少女は言った。
(試してやる、か。まあ、普通の子供がそんな事言ってるんなら『子供の冗談』で済ませられるんだがなぁ。あんなトンデモマジック見せられた後じゃ、あんまり冗談には聞こえないな)
番野は、もしあの攻撃をまともに受けていたら、と想像して、表情には出さないまでも内心で冷や汗を流した。
(いくら範囲が狭いとは言え、たったの1撃で灰も残らない焦土と化してしまう攻撃だ。これは、意地でももらう訳にはいかない)
番野は、また同じ攻撃が来た時の対応を考えながら、その思考時間を伸ばすために少女に話しかける。
「なあ。テストって言ったが、一体どんなテストをするつもりなんだ? 流石に何の教科のテストをするのか先に言ってくれないと、対策の立てようがないぜ」
「そういえばそうですね。何のテストをするのか言うのを忘れていました」
「あ、は? 」
予想外の返答に、番野は一瞬、思考が停止しそうになるが、頭を振ってなんとか思考を戻す。
少女は「わたしとした事が」と、俯いて小さく呟いた後、前を向いて言った。
「わたしに1撃当ててみてください。もちろん、手加減無しで」
「ほうほう。それは随分と簡単な、って、何? 」
「ちょっとそれは」
本気で自分を攻撃してみろと、突然言い出した少女に番野と美咲はうろたえるが、そんな2人を気にする事なく少女は続ける。
「と言っても、わたしだって痛い思いをするのは嫌ですから、ただで攻撃を受けるつもりはありません。わたしの『魔法』。これらをかいくぐってみてください」
(魔法……? )
ピクリと眉を動かした番野は、『魔法』という1単語からいくつかの候補を連想する。
(ハッ……! もしかしてこいつ……)
そして、擁立したいくつかの候補の中から、コンマ1秒程度の脳内会議で1つの結論を出した番野は、ビシッと少女を指差して言った。
「まさかお前、魔法幼女なのーー」
しかし、その言葉は、突如として起こった番野を中心とした爆発によって、最後まで続けられる事は無かった。
「番野君っ!! 」
美咲が叫ぶ。
すると、もうもうと立ち上る爆煙の中から、腰に1本の剣を携えた《勇者》が現れた。
服の所々が焦げているものの、体には一切傷のない番野は、少女に困った子供に注意するような口調で言った。
「人が話している途中に口を挟むのはマナーが悪いって、学校で習わなかったのか? 」
「無傷、なんて……」
少女は驚愕した。そして同時に番野に対しての認識を改める。
(なるほど。見た目で判断してはいけないということですか)
「習ってないんなら、俺がここで教育してやるよ。お嬢さん」
「結構です! 」
少女は、番野に同じ攻撃を放つ。
が、
「よっ」
番野は、まるでその攻撃を予測していたかのような自然な動作でそれをかわした。
(見切られてた!? )
いや、そんなはずはない。と、少女は先の思考を否定する。
(あの『魔法』に呪文の詠唱はいらない。それはつまり予備動作が無い事と同じ。なのになぜ、あの人は予備動作の無い、発動の早い『魔法』をあそこまで完全に避ける事ができるというのですか!? )
そこまで考えて、少女は次の動作に入りつつある番野を見て、次の行動に移る。
「これはどうです!? 」
番野は、自分の四方に展開された炎を確認した。
「1点でダメなら四方を固めるか。けどーー」
四方を固められても、上へ逃げれば攻撃は当たらない。そう考えた番野は、しかし、その考えは浅はかだった事に気付く。
「上、からも……? 」
「フレア! 」
少女の一言と共に、5つの炎が起爆する。
その直前、番野の背後の炎を両断し、包囲を崩す《勇者》が現れた。
「後ろに跳んで! 早く! 」
「分かった! 」
番野は、美咲に言われた通り後ろに跳ぶ。
そして着地と共に、目くらましの代わりとなっている爆炎を突っ切る。
「ーーなっ!? 」
「予想外だったか? 」
少女の目前まで接近し、その手を頭目掛けて振り下ろす。
「アレ? 」
が、その手は呆気なく空を切った。
消えたのだ。
(なるほど転移魔法も使えるのか。とすると、どこに転移したのか……)
周囲を確認しようとする番野だが、上から聞こえてきた幼くもしっかりとした声が、それは不要だと告げる。
「少し、あなた達を侮り過ぎていました。ここからは、先程までのようにはいかないと思ってください」