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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第2章 アウセッツ王国
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第12話 小さな試験官

 俯き気味になっていた視線を前に戻す。


(あれ? あそこに立ってるのって……)


 ふと、目に映った“それ”を確認するため、美咲みさきは目を凝らした。


 すると、美咲はその視界に、広大な草原でぽつんと佇む1人の子供を捉えた。しかし、全体を覆うようにしてローブを着込んでいるため、性別までは分からない。


「迷子かな……? 」

「いやいや、さすがにもう迷子にはならないだろ。城壁も見えてるんだしさ」

「違う。そうじゃなくって、あそこ。あそこに子供がいるでしょう? 私はその事を言ってるの」

「ん〜? 」


 と、番野つがのは美咲の指差す方向を目で追う。


「…………。あ、本当だ。美咲、俺、ちょっと行ってくるわ」

「いや、それはダメ! 」


 声を強くして引き止める美咲に、番野は納得いかないといった調子で言う。


「は? 迷子かもしれないんだろう? だったらまずは声を掛けてやるのが普通じゃないのか? 」

「そうなんだけど、ね? 私はここで、君に今の自分の服装を見直してみる事をオススメします」

「あ……」


 そう。美咲が番野を引き止めた1番の理由が番野の服装だ。


 服装が、パンツと体を覆うマントのみの男子高校生が見知らぬ子供に声を掛ける。たとえ本人が善意でやっていたとしても、はたから見れば、これは事案以外の何物でもない。


 そこに気付いた番野は、無言で美咲に道を譲った。

 美咲は子供の下にさっさと歩いて行き、番野はその後ろをついて行く。


 子供の前まで来た美咲は、その場に屈んで自分の目線を子供の目線に合わせると、優しい声音で言った。


「ねえ、君。もしかして、迷子? 」

「いいえ」

「じゃあ、お父さんかお母さんが近くにいるって事で良いのかな? 」

「親はいますが、“この世界にはいません”」

「え? 」


 突拍子もない事を言われ、困惑する美咲。そして、それを当然のように言ったローブの子供。


 通常であれば、子供のおかしな冗談に反応できず困惑する少女という、面白おかしい場面になる筈であるこの状況下で、ただ1人、番野だけは別のものを感じていた。


(何か、変だ。コイツが言っている事以上に、全体的な雰囲気が……)


 そして直後、ローブの子供が「フッ」と小さく笑ったのをきっかけに、番野はそれが何であるかを理解した。


 途端、無意識のうちに自分の体が動いていたのを知覚するのに、番野は数瞬を要した。


「おおおおおおおおお!! 」

「え、ちょっと!? 」


 番野は、子供の前にしゃがんでいた美咲を抱きしめるようにしてその場から飛び出した。


「ちょっと、急に何するのよ! 」


 番野の取った行動の意味が分からない美咲は、自分を抱きしめている状態の番野に抗議する。

 しかし、番野はそんな美咲とは打って変わって、緊張した面持ちで言った。


「……あそこ、見てみな」


 番野の目線を追った美咲は、先の番野の行動の意味を知る。


「な……」


 先程まで自分がいた場所。そこだけが、ピンポイントに焦土と化していた。

 誰が、という疑問は途端に確信へと変わる。


「お前か。あの竜を俺達に差し向けたのは」

「ええ、そうですよ。あの竜は、わたしが生み出したものですから」


 悪びれもせず、あっけらかんと言い放ったローブの子供は、そのままの調子で続ける。


「でも、まさか倒されるとは思っていませんでしたよ。そして、先程の攻撃も。絶対に不意を突ける、最高の作戦だと思っていたのですが……。勘の良い人ですね、あなたは」

「それはどうも。危険を察知するのには自信があるからな。んで、そんな事よりお前、何が狙いだ? 」

「狙い、ですか。そうですね……。強いて言うなら、試験、といったところでしょうか」

「試験、だって? 」

「はい」


 そう答えると、ローブの子供は、頭を覆っていたフードを脱いだ。


 すると、それまでフードによって隠されていた、年相応の少女の可愛らしい顔と、窮屈きゅうくつに収められていた長い金髪が露わになった。


「女の子、だったのか」


 少女は、無表情ながらも、楽しげな口調で言う。


「これから、あなた達が“師匠”の仲間にふさわしいかどうか、テストをします」

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