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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第七章 リュミエール皇国
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第120話『青髪の魔法戦車』

「…………」


 番野は戦場を駆ける。進路上にいる敵分隊を撃破しながら、激しい戦場を一直線に。


(様子見すらもしねえ。普通は敵の戦力や動きぐらい見るもんだが、相変わらず滅茶苦茶な戦い方をする奴だ)


 そんな番野の様子をずっと傍らで見ていた八瀬は、馬に揺られながら僅かな不安を抱いていた。


(あんだけ動いておいて、肝心な時にスタミナ切れ、なんて事態だけは避けて欲しいもんだが……)


 八瀬は、横目で番野の表情を見る。見る限りでは疲労している様子はまったく無い。彼の視線は、《英雄》が待ち構える城にのみ向けられている。


(このまま、想定外の事態が起きなければ良いんだが……)


 八瀬は、その胸中に僅かな不安を残す。

 その時、八瀬率いる一団の両翼から声が上がった。


「東に敵二個小隊発見! こちらに向かって来ます!」

「お、同じく西にも敵の小隊! こちらは一個、同じく我々に向けて進行中!」

「チッ。挟まれたか……!」


 その急な報告に、八瀬は顔をしかめた。


(こんなだだっ広い平原であれだけ暴れりゃ目立つのも当然か……!)


 一瞬内心に後悔の念が浮かぶも、今はそれどころではない。八瀬は瞬時に思考を入れ替えて指示を飛ばす。


(ヒト)から四〇(ヨンマル)! 俺と共に西を迎撃! それ以降は番野と東を迎撃しろ! こうして向かって来るということは、確実に他の敵部隊も俺達を狙ってる! お前ら! 敵に包囲されたくなければ、早急に撃破しろ!!」

『はっっ!!』

「了解っ!!』


 番野は、次に着地する左足に力を込める。


「ッッッ!!!」


 そうして、体の方向を変えて地面を渾身の力で踏み抜いた。その瞬間、爆音が響き、それと共に番野は搔き消えるような速度で東の敵二個小隊に襲いかかった。


「打ち抜く!!」


 番野は固く拳を握る。そして、先のスピードをそのままに先頭のリュミエール兵に狙いを定めた。


「ひっ、ぐ……!!」


 その兵士は一瞬怯えた素振りを見せるも、すぐに盾を構えた。


「せえええああああああ!!」


 気合一閃。固く握り締められた拳が直撃する。


「バ、か……があああああッッ!!?」


 そして直撃した瞬間、鋼鉄製の盾が鋭い不快音と共に真ん中からひしゃげ、番野の攻撃を防いだ兵士は凄まじいスピードで吹き飛ばされた。


「くっ、……バケモノめ!」


 その光景を目の当たりにしたリュミエール兵らは一斉にざわつき始める。


「どうした。もしかして、あの魔女さんからもらった情報とはまるで違うって?」


 そう言いつつ、番野は剣を抜き目の前のリュミエール兵を斬る。


「ぐあっ!?」

「そりゃあ、当然だ」


 一歩。また一歩と、確固たる意志を纏うその足を踏み出す度に、場の緊張が重みを増していく。剣に滴る血を一息に振い落す。そして番野は、恐怖にたじろぐリュミエール兵らを見据えて言った。


「あの時とは潜った場の数と、何より覚悟が違う。俺は、勝つためにここに来てんだ。お前らがどんな覚悟でここにいるのか知ったことじゃねえが、俺は構わず進む。もしも俺の前に立ちはだかるって言うなら、殺してでも押し通る」

「っ……」

「ぐ……」


 番野の鬼気迫る雰囲気に、リュミエール兵は冷や汗を垂らしてジリジリと後退していく。

 すると、そんな集団の中から一つの声が上がった。


「ほう。よく吠えたものだ、少年よ」

「……っ」


 それは男らしい低い声ではあるものの、戦場の喧騒の中でもよく通る張りのある声だった。

 リュミエール兵は、慌てて道を開けるように二方向に広がった。そこを、青髪短髪の長身の男が勇ましく通り抜ける。


(こいつ、やるな……!)


 その逞しい体躯と地を踏みしめる足の運びを見た番野は、剣を持つ手に力を込めた。

 男は自身の身長よりも長大なハルバードを地面に突き、声高に言う。


「我が名は、ルキウス=エスカレドス! リュミエール皇国軍魔剣士隊総隊長にして、祖国に仇為す者共を葬る者なり!」


 その男は、ルキウス=エスカレドス。武芸だけでなく魔法にも秀でたその才覚と、魔法を組み合わせた多彩で大破壊力の攻撃方から、またの名を『魔法戦車(マジックチャリオット)』と呼ばれる。

 そして、ルキウスはハルバードを番野に向けて宣言した。


「ツガノマモル! 私は、貴様の進撃を止めるため、ここに立ち塞がろう! 名乗りは必要無い。掛かってくるがいい!」

「なら、押し通るだけだ!」


 番野は腰を落とすと、剣を霞の構えに構えた。


(変わった構えだ……)


「ふーーッ!!」


 そして、地面を爆裂させ、一直線に飛び出した。


(この一撃で、測ってやる!!)


 あまりのスピードに、番野の姿はもはや常人では捉えることが不可能となった。しかし、彼を迎え撃つは常識を逸脱した超人。


(動き回って私を撹乱するかと思いきや、直進か。私も舐められたものだな!!)


 見るからに体格差のある相手に対した時の戦法は、素早く動いて相手に捉えられないようするというのが基本だろう。しかし、それに反して番野は体格に有利なルキウスに対して至って直線的な突進を敢行した。

 いや、何か考えがあるに違いない。そう、ルキウスは自身の油断を叱咤した。

 そして、思考に時間は終わりを迎える。


(来るッッ!!)


「おおおおおお!!」


 確かな確信。ルキウスは目を見開き、番野の行動を予測してハルバードを袈裟に振り下ろした。


「ーーッ!?」


 しかし、ハルバードによる一撃は手応えなし。さらに、正面から向かって来ていた筈の番野の姿が視界から消えた。


(バカな! どこに!?)


 その刹那、ルキウスはただならぬ殺気を自身の足下から感じ取った。


(まさかーーァッッ!!?)


 ルキウスは眼だけを動かし、目撃した。番野が、左肩を擦らないかと思われる肌の地面スレスレの超低姿勢で自身の足下から攻撃を狙っているのを。

 番野は、始めからこれを狙っていたのだ。


(そんな大物空振った直後は、必ず脇が隙になるんだよなあ!!)


「ッッッーー!!」


 隙間に潜り込んだ直後、番野は左足を渾身の力で踏み込み、強引に急速停止を図る。それによって地面は深く抉られ、左足に激痛が走る。


(だがーーッ!!)


 ここでは止まれない。いや、止めてはならない。勢いを全て殺してしまうのではなく、勢いを『重さ』に変える。

 突進の勢い全てを一旦左足に集め、今度は左足をバネとして勢いを武器に伝えて『重さ』とする。


「ぐっ、あああああああッッ!!」


 悲鳴のような叫びを上げながら、番野はルキウスの脇腹に斬り込んだ。


「ーーーー」

「なっ……!?」


 が、しかし。番野の斬撃は、何か堅固なモノに阻まれた。困惑を瞳に宿し、番野は斬撃が命中した箇所を見る。


(鎧!? いや違う……)


 剣は、確かにルキウスの脇腹を捉えている。にも関わらず、刃は肉体に食い込みすらせず止まっている。

 すると、ルキウスがゆっくりとハルバードを構え直しながら言い出した。


「残念だったな。私は自身の肉体にとある魔法をかけていてな、生半可な攻撃は一切通さんよ」

「くそっ……!」


 あまりに堅固なルキウスの『鎧』。その攻略法を考えるため、番野は一旦ルキウスと距離を取った。


(あの硬さ、馬鹿げてやがるぜ……! 一体、どんな『魔法』使えばあんな風になるって言うんだよ!)


 一向に思い付かないルキウスの攻略法に、番野は歯噛みする。

 すると、その様子を見ていたルキウスが番野を挑発ように言った。


「先程までの威勢はどうした? もしや、これで降参という訳ではあるまい」

「はっ。アンタの方こそ、そんな御大層な『鎧』着込んじゃって。もしかしなくても、ビビってんじゃねえの?」


 しかし、それに負けじと番野も言い返す。


「…………」

「…………」


 そうして、両者共鋭い眼差しで牽制しあった後。


「「言ってくれる……!!」」


 激しい、怒りの咆哮が激突した。


「その決闘、ちょっと待ったーーーー!!」


 かに、思われた。衝突は、一人の少女の声によって遮られた。


(まさか、この声……っ!!)


 番野が何か確信めいたものを実感した、その時だった。睨みあう番野とルキウスの間に一陣の白い風が舞い降りた。


「…………」


 何者かの突然の乱入に、ルキウスは驚きを隠せない様子だ。しかし、決闘を邪魔されたとあって、彼は不快感と怒りを宿した視線で乱入者を睨みつけた。

 乱入者はその場に立ち上がると、純白のマントを翻し、ルキウスを指差して言った。


「私は、世紀の大怪盗! 《怪盗》、石川つぐめだーーーー!! そこの青髪の兄ちゃん! こっからは、この私と勝負だ!!」

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