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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第七章 リュミエール皇国
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第119話 さらなる進撃

「おおおおおおおおお!!」


 番野は、遠くそびえる皇城に馬を走らせる。

 ただ一心にそこを見て、ただその一身を投じる。

 しかし、敵がそれをそう簡単に許す筈がない。


「ッ……!?」


 番野の向かう五〇メートル先。そこに、突如として純白の装備を身に纏う大軍が姿を現した。


(この数、目視できるだけで一〇〇〇人はいるんじゃないのか!? 一体、今までどこに隠れてやがった……!!)


 チッ、と舌打ちをして、番野は馬から飛び降りる。この数に、慣れない騎馬一騎で突っ込んでも即座に討ち取られると判断したからだ。

 番野の騎馬は、そんな騎手の判断を理解して後方に戻って行った。


(つくづくよく訓練された賢い奴だ。俺なんかにここで使い潰されるより、もっと良い相棒に使ってもらった方がアイツも幸せだろう)


 着地する刹那、騎馬の後ろ姿を見た番野はそんな事を思った。次の瞬間、落馬に近い衝撃が番野の身体を襲う。

 しかし、番野は当然のように受け身を取り、身体を地面に転がすことで上手く衝撃を全て逃した。そしてすぐに立ち、剣を構える。


「うぉぉおおおおああああ!!」


 番野は雄叫びを上げ、リュミエールの重装兵団に向けて走り出した。


『ッッ……!!』


 瞬間、重装兵団の間に緊張が走った。

 番野は一層剣を持つ手に力を込めた。

 激突する。


「邪魔だああああああッ!!」

『ぐわあああああ!!?』


 その一撃は、盾で防いだ重装兵と後ろの一〇人前後を諸共吹き飛ばした。

 すると、その威力を見た他の重装兵がざわざわと囃し立てる。


「な、なんて力だ……!」

「こいつだ! ソーサレア様の仰っていた少年だ!」

「あの、『警戒すべき少年』か!」

「ーーッ!!」


 番野は、彼らの話を尻目に次々と斬りかかる。包囲されないように、細かく俊敏に動く。敵が陣形を立て直さないように、息つく暇も無く状況を変化させる。

 しかし、


(クソッ。やっぱ堅い! 全力で切ってるのに、全然切れねえ!)


 番野の剣は全て盾に阻まれ、吹き飛ばせはするものの、敵の兵力を削ぐには至っていない。


(だが、切れないなら切れないなりにやり方はあるってもんだ!)


 その時、番野は何を思ったか剣を納めた。


『ッ……、おおおおおお!!』


 その予想外の行動に一瞬面食らったリュミエール兵。だが、今が好機と見て即座にファランクスを組み直して襲い掛かる。


「敵将、討ち取ったーー」


 猛烈な勢いで突き出される槍の穂先が番野の体を串刺しにする、ーーその刹那。

 兵士達の視界から番野の姿が消えた。


「なっ、どこに……っ!?」

「すぅぅぅぅ……」


 その呼吸音は、自身の斜め下から聞こえた。


「まさか……!!」


 番野は、槍が当たる瞬間屈んで、死角となる盾の陰に潜んで槍を躱したのだ。


「くそっ……!」


 気付いた兵士が槍の角度を変えて突き下ろすように構えるが、もう遅かった。


「でやあああああああ!!」


 突きを満足に打てるギリギリの低さまで態勢を落とした番野は、大きく咆哮して渾身の突きを繰り出した。その瞬間、生身と金属がぶつかり合ったとはとても思えない轟音が辺りに響いた。


「ぐ、ぬおおっ……!?」


 盾でそれを受けた兵士が耐える。多少仰け反りはしたが、吹き飛ばされることはなかった。


「フフ……」


 にやり、と兵士は笑みを浮かべる。

 勝利したと確信したのだろう。


「ふ……」


 しかし番野も、笑った。


「これはただの突きじゃない。こいつの真骨頂はこっからだぜ!」

「なに?」


 その時、兵の持っている盾が中心から大きくへしゃげた。


「が、あばはぁッ……!!?」


 それと共に盾を持っている兵士の腕がメチャメチャに折れ、口から血を吐いて倒れた。


「ふぅぅぅ……」


 残心。ゆっくりと息を吐く。

 番野は騒つくリュミエール兵を睨み、再び拳を構えて言った。


「『武修創己流(ぶしゅうそうきりゅう)打式・《貫掌打(かんしょうだ)》』。これはただの突きじゃねえ。突きの衝撃を防具で留めず一〇〇パーセント貫通させる、対防具用の技だ。アンタらの鎧盾がどれだけ頑丈だろうが、これを食らえばコイツと同じ目に合うぞ」

『くっ……』


 しかし、それで引き下がるリュミエールではない。


「囲め! 八方を抑えて、奴の逃げ場を無くせ! 残りは後続の迎撃に当たれ!」

「あ。……はっ!!」


 番野の威力に動揺していた兵士達だったが、隊長らしき人物の指示を受け、すぐに番野を取り囲んだ。


「フフフ。いくら貴様と言えど、八方から一度に攻撃されたのでは対処しようがあるまい!」

「っ……」


 隊長らしき人物が、自信に満ちた表情で言い放つ。

 すると、番野はそれに対して笑みを浮かべて答えた。


「……そうかな?」

「何を強がりを……! かかれえっ!!」

『うおおおおお!!』


 隊長らしき人物の号令で、番野の周囲を囲む兵士が同時に槍を突き出した。

 ただ、この時、番野だけが『その存在』に気付いていた。


「せぇぇええあああああッッ!!」


 雷の様な気合い。紫電を纏い、只真っ直ぐに全てを貫くその様は、まさに迅雷の如し。


「『紫電一閃』!!」

『ぐわああああああ!!?』


 その凄まじい突撃は、番野を取り囲んでいた兵士達を吹き飛ばし、軽々と包囲を破壊した。


「ありがとな。アンタが来てくれて助かったぜ、シュヴェルト」

「そうか? 私にはそんな危ない風には見えなかったがな。だが、その謝辞は受け取っておこう」


 番野に礼を言われたシュヴェルトは、薄っすらと笑って武器を構えた。

 すると、彼女の姿を見た隊長らしき人物が、濃厚な敵意を滲ませた表情で彼女に言った。


「来たか、『雷竜』。あの時、我らの仲間を五〇〇人も惨殺した『血濡れの少女』。またもや我々の血を欲して出て来たか……!」

「…………」


 シュヴェルトは、それに対して初めは無言で応じた。

 その事件は王国憲兵団長に就任する切っ掛けとなった物であるが、彼女にとっては非常に苦い記憶の筈だ。そこを掘り返された彼女が激憤するのではないかと一瞬ヒヤリとした番野だったが、シュヴェルトは至って冷静な顔付きをしていた。

 シュヴェルトは、思いの外淡々とした口調で彼に返す。


「残念ながら、貴様の期待には添えそうにない。私はこの場に血を求めて来たのではない。守りに来たのだ。国を、仲間を」

「フン。あれだけの力を持っていながら、友人も、何もかも守ることもできずに自分だけのうのうと助かった者が何を守ると? 巫山戯たことを抜かすな!」

「……ああ。確かに私は、あの時何もできなかった。あの時の私は、覚悟が無かった。何かを守り、そのために自らが傷付く覚悟がだ」


 シュヴェルトの言葉が、徐々に熱を帯びる。それと共に空には雷雲が立ち込み始め、戦場に暗闇が生まれた。

 リュミエールの重装兵らが動揺する中、彼女と対峙する隊長らしき人物は臆する事無く問うた。


「今は、その覚悟があるとでも?」

「そうだ。今の私には、その覚悟も、それを為すための力もある。そう言っている」


 彼は、その言葉を笑って吐き捨てた。


「ハッ。良いだろう。なら守ってみせろ! 我らの猛攻を、できるものならな!」

「ああ。任せておけ……!」


 彼の言葉に答え、シュヴェルトが剣を地面に突き立てたその時。空を覆う雷雲から雷が一筋降り、シュヴェルトに落ちた。

 だが、それは落雷ではない。雷竜(シュヴェルト)の怒りそのもの。


「な、……なん……」


 眩い光の中から現れたシュヴェルトは、黄金色の雷を全身に纏っていた。そして、彼女は剣を抜き、隊長らしき人物に視線を移した。


「来い。私に見せてみろ。貴様らの猛攻とやらを」

「貴様……!!」


 そうして、シュヴェルトは視線を動かさぬまま番野に言った。


「行け。君はこんなところで無駄に力を使ってはいけない。この場は私達に任せておけ」


 シュヴェルトが言うと、ようやく追い付いた後続の憲兵団らが『応!!』とむさ苦しい返事をした。

 それに加え、番野の横に付けた八瀬が番野を叱責した。


「先行し過ぎだ馬鹿野郎! こういうのはな、足並み揃えねえと全部瓦解しちまうんだよ!」

「あ、ああ。悪かったよ」


 番野が申し訳なさそうに言うと、八瀬は頷いて馬の向きを変えた。


「そんじゃ、ここはこいつらに任せて行くぞ。沙月と石川、その他一〇〇人ほどは俺と来い。ーー番野、馬は?」

「いらねえ。走った方が早い」

「失礼なことを言う奴だぜ。だが、余計な力を使うなって言われたんじゃねえのか?」

「抜きで走る。心配すんな」

「まったく」


 さほど嫌に思っていない様子で八瀬は頭を掻いた。そして手綱を引き、番野に再度呼び掛ける。


「よし。行くぞ!」

「ああ! ありがとう、シュヴェルト!」

「大丈夫だ」


 一言、礼を言って番野は走り出した。

 今度は一人先走らず、八瀬の騎馬と並走する。しかし、視線だけはその先を見据えていた。

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