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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第七章 リュミエール皇国
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第114話 講和会議

「ーーッ」


 ガーランドが入室した途端、場の空気が突如として緊迫し、凍りついた。

 その時、番野は自身の肺に空気が詰まるのを感じた。

 極限を超えた緊張感が、会議室の空気を凍りつかせる。


(なんて気迫だ……! アイツ、何も構えを取っていないにも関わらず、身体中から溢れ出てるこの気配の強さ……。間違いなく、俺達と同等以上の力を持ってる……!)


 あまりの緊迫感に、番野は思わず生唾を飲んだ。


「うむ?」


 すると、その音を聞きつけたガーランドが、番野の方に目を向けた。そして、ガーランドは少し何かを考えるように眉を寄せてから番野に言った。


「貴様は確か、あの時一人で我らの城に潜り込んで来たとか言う少年か。俺はあの場にはいなかったから詳しい状況を知らんのだが、よく生き残れたものだな。賞賛に値する」

「なんだよ。随分と上から目線で言ってくれるじゃないか、アンタ」

「血気盛んだな。人が素直に褒めているというのに、それすらまともに受け取る事ができんのか?」

「そりゃこっちのセリフだな。そっちこそ部屋に入ってくるなりすげえ殺気放ってきてよ。ここで戦争でも始めるのかと思ったぜ」

「フン。面白い冗談だ。だが、こちらとしてはあまり無駄に浪費できる程時間に余裕がある訳じゃないのでな。早速だが話をしたい。よろしいですか、女王?」


 番野とのこれ以上の対話は不要だと判断したのだろう。ガーランドは、番野からの視線を切るようにプランセスの方を向き、会議への参加を求めた。

 その要請に対し、プランセスは首を縦に振って答える。


「はい。では、新たに席を用意させますわ。少々お待ちくださいませ」

「御厚情、感謝いたします」


 そう言って、ガーランドはプランセスに深々と礼をした。


 ○ ○ ○


「そちらにお座りなさいませ」

「それでは」


 少しして卓に新たな席が用意されると、プランセスは、ガーランドにそこに座るよう促した。

 そうして、ガーランドが新たに用意された席に腰掛け、敵方の人間を一人加えた異色の会議が始まった。

 緊迫した空気の中、口火を切ったのはガーランドだった。


「では、女王よ。手始めに俺の発言を許していただいてもよろしいか?」

「はい。許可します」

「感謝いたします。これで、俺に託された役目を果たすことができますので」


 ガーランドは、卓に向き直り、続ける。


「では、まず俺から提案したい事がある。この戦争を、講和で終結させようとは思わないか?」

「なっ……」


 ガーランドから発せられた、その予想だにしなかった提案に、番野は思わず息を詰まらせた。


(講和、だって……? なんで、このタイミングで……)


 番野には、何故、今このタイミングでリュミエール側が講和を申し込んで来たのか見当もつかなかった。

 番野は、意見を求めるかのように周囲の顔を順番に見る。すると、顎をさすったり、腕を組んだりといった違いはあるものの、皆一様に何かを思案しているように見て取れた。

 しかし、その詳しい内容までは分からないまでも、リュミエール側に提示する条件を考えているのだろうという事は番野にも分かった。


(だが、こいつらの事だ。そう簡単にこっちの提示する条件を飲むとは考えられない。長期戦になりそうだな……)


 とはいえ、番野の懸念は別の場所にあった。それは、当初の目的である『美咲の奪還』が叶うのかどうかという事だ。

 もし、講和が成立したとしても、その絶対目的が達成されないとなれば元よりなど無くなってしまう。番野のこれまでの奮闘が全て水の泡となってしまうのだ。


「……ッ」


 番野は、「頼む」という思いを込めて八瀬の瞳を見た。


「…………」


 それを受けた八瀬は、一度力強く頷いた。

 そして、八瀬はガーランドと向き合う。


「クロムウェル卿。まず聞きたい事がある。何故、貴公らの国がここで講和の話を持ち込んで来たのか、だ」

「憲兵団長、か。良いだろう。理由は大きく分けて二つある。

 一つ目は、四方四カ国同盟によるリュミエール皇国の通商路封鎖。

 二つ目は、それによる国力の低下かと民の飢餓だ。

 特に、民の飢餓が酷い有様だ」

「まあ、そうじゃろうなぁ」


 ガーランドの言葉を補足するようにファレスが言う。


「元々、ここらの地域は恵まれた土地が少ない。じゃから、儂らは助け合う目的で同盟を結んだんじゃ。無論、お主らを封じ込める意味合いもあったがの。結果、同盟を結んで協力しあった儂らは安泰。しかし、お主らは干上がる寸前まで追い詰められたという訳じゃな?」

「そういう事だ。実際、現状はかなり厳しい。本音を言ってしまうとな、お前達との戦争に確実に勝利しなければならない状況ですらあった」

「なるほどのう。じゃからと言って謝るつもりは無いぞ? お主らとて、度重なる襲撃で儂らの民を殺してきたのじゃから」

「それは当然だ、総司令。俺は、ここに戦争の講和をしに来たのであって、互いの非を認め合って馴れ合う為に来たんじゃないんでな」

「テメェ、何だその言い方は!!」


 ガーランドの挑発的な物言いに感化されてか、突然、ヤングが卓を叩いて怒りを露わにした。

 ヤングは、勢いそのままにガーランドを指差して言う。


「テメェ、戦前講和が何を意味するか分かってんのか!? もしもここで講和が成立すれば、俺らとアンタら、双方の国民が無駄に死ぬのを回避する事ができて、なおかつ土地だって傷付かずに済むんだぞ? だがな、こんなチャンスも言葉一つで台無しになる可能性だってあるんだ。アンタのは、戦いを前にした奴のそれと同じだ!」

「ああ。確かにもっともだ。非常に、“もっとも”な言い分だな」


 ガーランドは、ヤングの言葉を聞いて、“もっとも”と評した上でそれを鼻であしらった。


「ハッ。青いな。ならば、講和が成立しなかった場合はどうすると言うんだ? その時は、戦うしか道が無いぞ? そんな状況を、どうして貴様は“戦いを前にしていない”と言えるんだ?」

「くっ、それは……!」

「そういう事だ。納得がいかぬのならば、戦うか? 俺もちょうど暇していたところでな。まともに議論できん奴は、この場には不要だ」

「ッッ……!!?」


 その時、ガーランドの発する気配が一段と強くなったのを番野は感じた。それは、番野に対して発せられた物ではなかったが、自身に向けて発せられたと錯覚してしまう程に強烈だった。


(俺でさえこうなんだ。まともに当てられたアイツはもうダメだろうな……)


 見遣ると、ヤングが意気消沈といった様子で椅子にもたれかかっているのが分かった。


「さて、邪魔者が一人消えたな。講和の続きをしようか?」


 剣呑な雰囲気が室内に漂う。しかし、まだまだ会議は始まったばかりで、これから次第に加速する。後々に巻き起こる事態を、まだ誰も知る由も無く。

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