9話:嘘をつかない勇者
そんなことを思い出しながらも、藍騎は、先ほどの「自分は勇者」発言は、冗談ではなく本気だったのだが、まあ、一般人からしてみたら、おかしな発言である。
「それで、歌姫さん。あなたは、何でここに居るのかしら?」
それは、エルフの姫がこんな都会にいるのは何故かと言う問いだった。
「えっと、通訳してもらえる?藍騎」
シルフィリアは、謎の言語が自分に向けられたものだと解釈し、藍騎に言った。藍騎は、当然、そのつもりで、
「えっと、何でここに居るのかって聞いてる」
とセルヒ語でシルフィリアに聞いた。
「何故って言われても、分かんないわよ?」
「何故って言われても、分からないって言ってます」
通訳しなくては、会話すら儘ならないこの状況に、藍騎は嘆く。
「あ~あ、アルがいてくれれば、通訳系のアイテムくらい出てきそうなもんだが……」
ここにはいない姫の顔を思い浮かべながらの発言だ。ちなみにセルヒ語である。
「いないもの強請ってもしょうがないでじゃないの」
当然の言葉がシルフィリアから発せられる。無いもの強請りをしたところで、この場の解決にはならないだろう。
「それで、分からないと言うのは、どういう?」
分からないってどういうことかのやり取りをしていたと勘違いした香織は、何か結論が出たと思いはなしかけた。藍騎は、それを理解し、
「いえ、ダメ見たいですね。言ってることが支離滅裂で、意味不明です」
「そう?困ったわね。お姫様なんでしょ。どうやって国まで送り届けるのよ?」
それは当然の疑問だが、藍騎には一つわかることがあった。それと同時に、あれは、こうなることを知っていたのではないのかと考えていた。
「どうやってって、女神様に頼むしかないんじゃないですか?」
そう、四年前、こちらの時間で四日前。藍騎を異世界へと連れ遣った女神。彼女なら、シルフィリアを元の世界に帰すことが可能だろう。そして、別れ際の、「また会う時まで」。まるでこうなることを予期していて、再び藍騎が女神と会うことを示唆しているかのような台詞。
「女神って、それこそ冗談の中の冗談じゃない」
香織は、眉を顰めた。
「眉間に皴がいってますよ。美人な顔が台無しになっちゃってますよ」
「なっ……」
香織は頬を真っ赤に染めるが、藍騎は微塵も気にしていない。まあ、それが藍騎と香織の関係であるのだが。
「それで、女神ですけど。まあ、あれが女神かどうかは断定できませんが、自称女神に異世界移動能力があるのは確かですよ」
藍騎にもたった二度、それも声だけの存在であるあれが女神とは断定しかねる。しかし、あの存在が、藍騎を異世界へと誘ったのは事実である。
「そんな存在がいるものかなの?」
常識外の存在。しかし、
「ええ、いますよ」
藍騎は微塵も嘯くことなく言った。常人なら隠したり誤魔化したりする話であることを、まったく隠さないのは、藍騎が知っているからだ。香織に嘘は通じないことを。
「そう、じゃあ、いるのね」
香織は、藍騎の言葉をありのままに受け止めた。
「ちなみにさっきの勇者って言うのも本当なのね?」
「はい、そうです」
全てを肯定する藍騎。




