8話:マドンナとの出会い
――二千十四年四月七日月曜日。藍騎は、立原高校に入学した。桜が既に散っていて、少し暑い日のことだった。
「あ~、暑い~」
クラス中でそんな声が上がるほどに暑かった。昨日までが涼しかったから尚更暑く感じるのだろう。
「キミ、大丈夫?」
そんな中、暑さで机に付していた藍騎に一本のペットボトルが差し出されていた。制服のリボンの色を見るに、学年が一つ上だと言うのを藍騎は理解した。ちなみに、学年の色分けをするリボンは、胸元についている、このリボンは、男子は、胸ポケットから見えるようにし、女子は、指定のネクタイの代わりにつける。つけているのは、新入生が、周りを理解できるゴールデンウィークごろまでとなっている。
「あ、ありがとうございます」
藍騎は、そのペットボトルを受け取った。そして、飲もうとキャップを捻り、軽い力でクルッと回った。つまり、そのペットボトルは開いていたのだ。
「えっと、これって」
と、言いながら藍騎は、ペットボトルをくれた先輩の方を見る。すると、美しい顔が間近にあって、思わず、身体を引いてしまう。椅子に座ったまま身体を引いたため、バランスを崩し、大きく揺れながら、後ろに倒れそうになる。しかし、結果、藍騎が倒れることは無かった。
「大丈夫かしら?」
先輩が抱きとめてくれたからだ。結果として、クラス中から注目を集めたが、仕方の無いことだろう。
「あ、ありがとうござい、ます……」
藍騎の声が徐々に小さくなっていったのは、抱きしめられているため、胸部が密着し、それを意識してしまったからである。
「ごめんなさいね、驚かせてしまったみたいで」
藍騎としては、役得であったのだが、こうも素直に謝られてしまうと、そう言った思いも吹き飛んでしまう。
「いえ、大丈夫でしたんで」
そんな藍騎の言葉に被さるように、他方向から声が飛んでくる。
「祷村、お前いつまで下級生と抱き合っているんだ?」
呆れたような声。高校生とは思えない大柄な男だった。残念ながら学年を確認するためのリボンが見えない。
「ああ、岸谷先輩じゃない。どうかしたんですか~?」
藍騎を抱きしめたまま、男と話す。
「まったく、お前って奴は……。おい、そこの下級生。大丈夫か?まったく厄介な女に気に入られてしまったようだな」
岸谷と言う男に告げられた言葉に藍騎は、はにかみ、
「まあ、役得なんで」
と返事をしたのだった。
これが、祷村香織と紫藤藍騎の出会いである――。




