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四宝姫伝  作者: 桃姫
1章
7/37

7話:歌姫とマドンナ

 軽い無駄話を話しながら、屋上の鍵を無理矢理破壊した。

「と言うかどこから入ったんだ?お前」

藍騎は、疑問を投げかけた。屋上への扉には鍵がかかっていたし、シルフィリアが藍騎と同じように登ってくるのは不可能だろう。

「それが、気づいたらここに居たのよ。誰も助けに来ないから、国歌を歌って、私はここにいると知らせてたんだけど」

どうやら前に藍騎が召喚された時とは、逆の要領で今度は、シルフィリアが藍騎の世界に来てしまったようなのである。理由は定かではないが、とても大事であるのは間違いない事実である。

「他の姫さんたちも来てるのか?」

藍騎の問いかけにシルフィリアは眉を顰める。

「それは私以外の娘に会いたいということかしら?」

「違ぇよ!何でそうなるんだよ」

藍騎とシルフィリアは時々話が噛み合わないことがあるが、それは、やはり、鈍感とツンデレの相性があまりよくないからなのだろう。

「セイもリンもアルも世間知らず過ぎるからもし来てたら大変なことになるだろう?」

「……まあ、確かに、あの三人は、箱入りの中の箱入りだからね」

ここに居ない三人を頭に浮かべながら話を進める。

「まあ、アルは箱入りと言うより幽閉だろうがな」

「幽閉って誤解を生むような言い方よね」

少々特殊な事情を持つ姫の話をしながら屋上から下階への階段を降りる。

「しかし、どうするかな?」

藍騎が今困っていることは、主に三つ。一つは、授業を抜け出したことに対する説明。これは、トイレとでも言い訳すればいいか。もう一つは、シルフィリアと自分に関する説明。藍騎自身、説明や解説が苦手どころか、コミュニケーション能力の不足を自分でも理解できているほど。しかし言いよどむと怪しまれそうだと言う葛藤をしているのは、シルフィリアの知る余地の無いことである。もう一つは、シルフィリアと自分の関係を誤魔化せたとしても、シルフィリアの耳をどう誤魔化すかと言うことである。あの尖った耳は嫌でも目立つ。「エルフ」と言う概念が、ゲームやライトノベル、アニメ、小説、漫画などで一般的な知識となっている藍騎の世界では尚更のことである。

「あら、藍騎。人が近づいてきてるわよ」

その言葉で我に返った藍騎は、咄嗟に身構えた。そして、足音、足音から歩幅、歩幅から体格、体格から性別、性別から知り合いかどうか、と言うのを瞬時に判断する。

「この人は、まあ、大丈夫か」

この判断の仕方は、山、洞窟、森、音の反響する場所で幾多の敵を倒した藍騎ならではの能力であり、四年の月日が生み出したものである。

「知り合い?」

「ああ、まあな。あの人のことだからサボったついでに屋上の歌姫と御対面、何て考えていたんだろうよ」

そして、階段を上がってくる女性の顔が見える。香織だ。

「どうも、祷村先輩」

「あら?紫藤君。ここで何をしているの?授業中よ?」

その言葉をそっくりそのまま返したいと言うのが藍騎の心情だが、それを言わなかったのは、訳がある。香織は、授業免除されているので授業を受けようが受けまいが関係ないのだ。

「ちょっと、屋上の歌姫様を救出に行っていただけですよ」

普通に藍騎の世界の言葉で話したためシルフィリアは、きょとんとしている。

「あら、興味深いわね。歌姫さん、そこに居るの?」

「あ、はい。ほら、シルフィ」

藍騎は、自分の後ろに匿っていたシルフィリアを前に押し出す。

「あら、ふ~ん。なるほど、興味深い服を着ているわね」

そう言ってシルフィリアの服を触る。

「この生地、シルク?違うわね。興味深いわ。色合いも染めたものよね。機械染めじゃないわね?手染めじゃないとこの色合いは出ないわ。それに、この縫い方。見ない糸の縫い方ね。それにこれ、この宝石、きれいな碧色ね」

彼女は、一般人とは耳の形状の異なると言う事実より、異国の服に興味を示した。

「まあ、王国の特別製だからな」

ボソッと呟いた藍騎の声は、香織には届いていない。もとより他人に聞かせるために発した言葉ではないから当然なのだが。

「それで、歌姫さん。そのお耳はどういうことかしら?整形手術?」

ようやく興味の矛先が服から耳へと向かった。

「それは、本物ですよ」

「本物?と言うことはエルフか何か?」

エルフと言う単語にシルフィリアも反応する。藍騎から聞いていた、唯一の藍騎の世界の単語なので唯一意味が分かったのだろう。

「まあ、言うなれば、エルフの国のお姫様ってところですかね?」

「本当の姫ってこと?藍騎君って何者?」

心底不思議そうに藍騎を見る。

「そうですね~、言うなれば、勇者ってところですかね?」

さらりと告げた藍騎の言葉に失笑する香織。

「ちょっと、このタイミングで冗談?まったく、そう言うところは、会ったときから変わらないんだから」

笑いながら香織は言った。


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