5話:シルフィリア
シルフィリア・イリス・シンシアと言う女性は、碧色の髪と瞳を持ち、見る者全てを魅了する美貌を持っている。それほどの女性が目立たないわけが無い。そして、立原高校は、今、その女性のことで話題が持ちきりになっていた。
「おい、屋上の歌姫を知ってるか?」
「ああ、知ってる。めっちゃ美女らしいな」
「近くで見てぇよな」
などと男子を中心に話題になっている。当然、同じ男子である藍騎の耳にもその話は入った。
「なあ、その屋上の歌姫ってのは?」
「なんだよ紫藤しらねぇのか?昼休みに屋上で歌ってる美女を見た奴がいたんだよ。それも何人も」
「屋上?」
訝し気な顔をする藍騎。それもそのはず。屋上は、通常は入れないように固く施錠されている。誰も入れないはずなのだ。
「どんな美女だよ」
「何でも緑色の髪をした綺麗な人って噂だぜ」
それを聞き藍騎の顔に驚きの表情が出る。そして、授業開始のチャイムとともに屋上から藍騎にとって聞きなれた歌が聞こえてきた。シンシア王国歌だ。一般人には慣れないフレーズの音楽。知らないリズム。それがアカペラで聞こえてくる。それでもその歌が美しいと思えるのは、おそらく音楽が世界共通のように扱われる所以だろう。まさしく世界を隔てても美しい歌声は美しい。美しいリズムは心を揺さぶる。授業が始まったにもかかわらず、誰もがその歌声に聞き入っていた。藍騎以外。
「あのじゃじゃ馬姫め、屋上かよ……」
藍騎はそう呟いて、授業が始まっているにもかかわらず、廊下に走り出た。そして、開いた窓から身を乗り出し、足を枠にかけ近くの雨樋のパイプを伝う。藍騎は木登りの要領で、と思ってやっているが、実際、あまり掴むところや凹凸のないパイプを登るのは難しいのだ。これは、異世界での冒険の経験がある藍騎だからできることなので一般の人は真似しないように。
「よう、シルフィ」
屋上によじ登った藍騎は、それほど久しぶりに会ったわけでもない異世界の姫に話しかけた。
「あら、藍騎」
碧色の髪をした姫は、先ほどまで歌っていた歌を止め、藍騎に話しかけた。その容姿はエルフと表記すれば分かりやすいだろうか。尖った耳と美しい姿、長い碧色の髪。肌は白磁のように白く、唇は赤く熟れた果実のようで。大きな目を縁取るように伸びるまつげは長い。瞳は、まるで全てを包む翠嵐のように深い碧。四肢の長さはバランスが取れている。体のラインも人が思うおおよその理想の体型と呼べるに相応しいものだ。まるで凄腕の人形師が作った人形のように、全てが完璧な姿。
「相変わらずのエルフ耳だな」
藍騎は褒め言葉とも言えない褒め言葉をシルフィリアに投げかけた。
「その、エルフだったかしら?初めて会った時も同じことを言っていたわよね……。妖精って意味だったかしら?」
そう、藍騎は、初めてこのシルフィリア・イリス・シンシアと言う女性に逢ったときに、「エルフ」と言う言葉を発していた。




