26話:赤坂妙子
放課後の学校、藍騎の教室にて。
「まったく、紫藤君ってば、バッグも置きっぱなしでどこに行ったのかしら……」
そんなことを妙子がぼやくと、担任教員から、
「赤坂、お前、紫藤とは知り合いだよな。何か今日こられないらしいから、バッグとプリント、届けてくれ」
「え、はい、分かりました」
妙子は、妹に二、三度連れられ藍騎の家に訪れているので場所も分かっている。適任だろう。
妙子は、ゆるりとした足取りで自転車置き場に行き、自転車で学校から藍騎の家に向かった。
「あ、赤坂です。紫藤君はいらっしゃいますか?」
インターフォンでそう告げる。普通なら、家族との区別を考えて下の名前である「藍騎君」と呼ぶべきなのだろうが、勝手知る仲。紫藤家に男の子は藍騎しかいない。よって「紫藤君」で十分に通じるのだ。
「はいは~い、妙ちゃん。いらっしゃい」
「どうも、萌黄さん」
妙子は、藍騎の母親に挨拶をしてから、バッグを差し出す。
「これ、紫藤君のバッグです。今日のプリントも中に入れておきました」
「あらあら、ありがとうね。あ、そうだ。上がってお茶でも飲んでいってよ」
これまた、いつものこと。断っても無理矢理上がらされるのを知っている妙子は、断らず、
「お言葉に甘えて」
と静々と家に上がりこんだ。
そう、上がりこんだ、まではよかったのだ。上がって目にした光景に妙子は目が丸くなった。唖然とした。呆然とした。言葉が出なかった。一瞬、呼吸するのも忘れていた。それほどの光景が妙子の眼前にあったのだ。正確に言えば、エルフと淫魔を髣髴とさせる二人の美少女が優雅に紅茶を飲んでいたのだ。
「えっ……あっ……」
妙子は、未だに上手く言葉を発せないでいる。何を言えばいいのか分からない。情報量の多さに処理しきれていない。疑問が大量に出てくる。何故こんなところに美少女がいるのか。何故こんなにも美少女なのか。この美少女は誰なのか。この美少女と藍騎の関係は何か。など、様々な疑問が脳裏を飛び交い、結局、どれも答えは出なかった。
「ん?あら、貴方は?」
「お~?誰、誰?」
シルフィリアとアルカディアが妙子に気づき声をかける。
「あら、この子は、妙ちゃん……こと、赤坂妙子ちゃん。藍騎の同級生で、瑠凪の親友のお姉さんなのよ~」
藍騎の母親が呆けている妙子の代わりに妙子を紹介をする。
「そう、藍騎の同級生なのね」
なにやら複雑そうな顔を浮かべるシルフィリア。
「何、シルフィ~、嫉妬?嫉妬なの?同じクラスってだけで」
アルカディアがにやけながらシルフィリアに言う。シルフィリアは、バッと顔を真っ赤に染めるのであった。藍騎の母親は、お茶を切らしてたと、近所のコンビニにお茶を買いに行ってしまった。
「え、えっと……」
未だに状況を飲み込めていない妙子の元に、何やら大きな声が届く。
「ふざけんなっ!フェルア何かと一緒にされてたまるか!」
「一緒にしてねぇよ!寧ろ、フェルアの方がマシだわ!」
「それこそふざけんな!お前は、あれの正体を知らないからそんなことが言えるんだ!」
「正体ってなんだよ!」
少女の声と思われる声と妙子のよく知る同級生の声。そして、轟々と言う炎が燃えるような音。そして、ガタンやバキッなどの破砕音が聞こえ、階段をゴロゴロと転がる音。そして、妙子の背後のドアが吹き飛んだ。幸い、妙子には当たらず、掠めて窓ガラスを突き破り、外に出た。慌てて背後を振り返った妙子が見たのは、炎を素手に纏った少女とそれに応戦する同級生。
「ウラアアア!」
「効くかよっ!」
バコッ、スカッ、ドンッ。様々な擬音とともに飛び交う拳と炎。先ほど同様、あまりにも非現実的な光景に、妙子は思わず、夢でも見ているのではないかと自分を疑ってしまったほどである。無論、妙子の目の前で繰り広げられているのは、紛れもない現実である。
「あちっ、って、おう、妙子、来てたのか」
攻撃を防ぎながらも会話する藍騎に呆気にとられ、返事を返せなかった。
「あ!ロゼリーじゃん!」
アルカディアがロゼリアに反応を示した。シルフィリアは、苦々しげに顔を歪めていた。
「変な略称使うなよ、アルカディア!」
「ロゼリー可愛いじゃん!」
炎をお構いなしに抱きつくアルカディア。振りほどこうとするロゼリア。
「テメェら、暴れんなよ!家が壊れる」
一番暴れていた藍騎に言われたくはないはずだが、藍騎が怒鳴ると静かになる。
「まったく……。あ、そういえば、妙子」
急に話を振られて慌てる妙子。
「えっ、なっ、何?」
「ん?何慌ててんだ?まっ、いいか。それで、何で妙子がここに居るんだ?」
アルカディアとロゼリアとシルフィリアが口論を始めたが、それをお構いなしに、藍騎は妙子に話しかける。
「あ、えっと、鞄を届けに来たの。プリントもついでに」
「おう、そうなのか、アリガトな」
その後、お茶を買ってきた藍騎の母親が、家の惨状に驚いたのは、明白で、妙子を含めた全員で、片付けをしたのであった。




