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四宝姫伝  作者: 桃姫
2章
21/37

21話:ロゼリア

 学校に鞄を置きっぱなしなのも忘れて、藍騎は、家に帰った。時間としては、午前の授業中だろう。

「ただいま」

ドアを勢いよく開けて最初に出迎えたのは、母親だった。

「あら、藍騎……。犯罪よ」

早々にそんなことを言われてしまった。まあ、服も身体もボロボロの少女を抱えて帰ってきたら、誘拐を疑われても仕方がないかもしれない。

「違ぇから。ちょっと、フロの準備頼む」

戦いでボロボロになっている上に、ずっと囚われていた所為か、随分と肌が汚れているように見える。

「分かったわよ。でもね、藍騎」

一泊空けて、いやに真剣な顔で母親は告げる。

「一緒に入っちゃダメよ」

「当たり前だ馬鹿野郎」

もとより一緒に入る気など皆無だった藍騎は、突然真面目な顔で何言ってるんだという顔をしながら早口で言った。幾許か焦りがあったのかもしれない。藍騎は、母親に早くフロを沸かしてくるように言って追い払った。

「おっ、おい、フロなんて入らないぞ……」

ロゼリアは言う。

「とっ、特に一緒になんてぜってぇー入らねぇぞ!」

「元より入る気ねぇよ!」

顔を真っ赤にしたロゼリアの言葉に藍騎は激昂した。いや、恥ずかしくて叫んだのか。とにかく大きな声で叫んでしまった。それは、いくらこの状況とはいえ、判断ミスだった。何事かと、姫二人が駆けつけるのは時間の問題になるだろう。そのことに気がついた藍騎は、ロゼリアとあの二人を合わせるのはまずいと思い、駆け足で階段を、ロゼリアを抱えたまま上がり、自室に入り、鍵をかける。

「なっ、なんだよ急に」

ロゼリアの焦った声。藍騎は、

「静かにしてろ」

と言う。

「おっ、おい、そっ、そんな……。やるなら、こう、もっと雰囲気を」

「ん?何言ってんだ?」

ロゼリアの勘違い。藍騎は、素で分からなかった。ロゼリアは、このタイミングで愛する人同士がするようなことをすると勘違いした。まあ、タイミングや藍騎の説明足らずで仕方がないだろう。

「静かにしてろよ。もうじきアルとシルフィが来るだろうから」

「えっ。おい、ちょっと待て。アルカディアとシルフィリア?」

轟々と右手に炎を燈すロゼリア。

「あちっ、急になんだよ?」

「ふんっ、あたしの目的はあいつ等の宝石。むしろ必然だろ?」

藍騎から飛び離れたロゼリアは、「ゲヘナ」を取り出していた。

「おいおい、危ねぇな」

藍騎は「コールブランド」を取り出している。ただでさえ狭い部屋で、二人が剣を出すとかなり狭い。剣を振るうことは儘ならない。

「ちっ、ここは止めとくか」

「そうだな」

互いに環境を理解し、剣を収めた。

「藍騎、どうかしたの?」

「藍騎~、何事?」

そこに二人の姫がやってきた。

「いや、何でもねぇよ」

藍騎は、ドアの向こうにいる二人にそう言った。二人は、納得できないと言うように唸ったが、結局ドアの前から去っていった。

「それで、どうすんだ?」

どうするかと言うのは、ロゼリアの処遇の話だろう。これから、ロゼリアをどこに住まわせるか。

「いつまでもここに居るのは無理だろ?」

「そうだな」

ここに居れば、いつかは、二人の姫と鉢合わせることになる。そうなれば、揉め事に発展するのは目に見えている。いつまでも二人と会わせないというのも無理な話だろうが、とりあえず、この混乱した状態での再会は避けるべきだ。

「住む場所を探さねぇとな」

「っつっても、そんな都合のいいところないだろ?もしかしたらあたし以外の四律魔典が来てるかも知れねぇが……」

「お前以外の四律魔典って」

頬を引きつらせながら、もう二度と会いたくないロゼリア以外の三人の顔を思い浮かべる。そして、その四人に共通して言えるのが、

「アホばっかだろ?どうすんだよ」

「あっ、アホゆーなっ!アホって言ったほうがアホだろうが!」

藍騎の知っている「四律魔典」は、武力担当過ぎて、頭脳がいまいちと言う印象が強い。まあ、参謀もいたのだが……。

「まあ、その話は置いておこう。こっちも、セイとリンが来てる可能性があるからな」

「セイリスとリンテス、か……。けっ、あの水ババアだけは、許さねぇ」

水ババアとは、無論ロゼリアの誇張である。セイリスは、ババアと言われるほど年を取っていない。ただ、見た目が二十代のためロゼリアがそう呼んでいるだけの話だ。

「ババア呼ばわりしてやるなよ。ピチピチの二十三の女を」

「ふんっ、ババアだろうがっ!『趣味は園芸ですのよ』とか言う奴だぞ!」

別に園芸は、高齢の趣味と言うわけではない。それにロゼリアがその台詞を言われたのは、馬鹿力によって地面に埋まったロゼリアに「趣味は園芸ですのよ」と言って、たっぷり水をかけた時の話である。実際にセイリスの趣味は園芸ではない。

「どう言う判定だよ」

そう藍騎が言った時に、一階から、母親の「お風呂沸いたわよ~」と言う間延びした声が響いたのであった。


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