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四宝姫伝  作者: 桃姫
プロローグ
2/37

2話:クラス

 そうして、教室に何とかたどり着いた藍騎。生徒手帳で自分のクラスと教室の場所を確認する辺りが、編入生や新入生のようだった。ともあれ、たどり着いた教室の戸を開けると、

「あら、紫藤君、今日は早いのね」

と言う声をかけられた。声をかけてきたのは、いかにも普通な感じの女子生徒。「誰だ?」と言う声を出してしまっては不思議に思われると思い、藍騎はその言葉を飲み込んだ。

「おはよう」

そして、無難な挨拶の言葉を選んだ。

「ええ、おはよう。どうしたの?少しボーっとしているようだけれど?」

藍騎は疑問に感じていた。

(俺って女子に話しかけられるようなことってあったっけ?)

彼の感じた疑問は、当然だ。彼は、女子からはあまり話しかけられない。普段は、席で本を読んでいたし、部活も無所属のため足早に帰宅をしていた。むしろ自分から話しかけるなよと言うようなオーラを出していたのかも知れない。

「もしかして、たったの六日程度会っていないだけで忘れちゃった?」

藍騎は内心、「六日どころか四年だけどなっ」と思っていたが、口に出したのは別の言葉だった。

「いや、ほら、俺物覚え悪いから」

「まったく、私は、妙子よ。赤坂妙子(あかさかたえこ)

妙に古風で、今時珍しいとも言える妙子と言う名を聞いて藍騎は噴出しそうになったが、それをかろうじて堪えた。藍騎は、自己紹介で和風な名を聞くのが久しぶりだったのがあり、少し違和感を覚えてしまった。それもそのはずで、彼が四年間暮らしていた異世界では、洋風の名前が基本な上に、そもそも言葉からして違った。藍騎も最初の一年間は苦労したのである。

「思い出したかしら?貴方の妹さんの親友の赤坂芳恵(あかさかよしえ)の姉の妙子よ」

藍騎の妹には、親友と呼べる人間が沢山いる。コミュニケーションが苦手な藍騎と違い、まるでそう言うことが苦にならない、誰とでも打ち解ける正確の妹が気に入っている親友の中に、芳恵と言う人物がいたことは、どうにか思い出せた。そして、この妙子のことも、その妹経由で知り合ったのをどうにか思い出せたようだ。

「ああ、そういえば……」

「物覚えが悪いとかのレベルじゃないわね……」

呆れ顔の妙子を尻目に、古い記憶を振り絞って思い出した自分の席に着き睡眠をとることにした。


 しばらくして、寝ている藍騎に拳を振り下ろそうとしている人物がいた。そして、振り下ろされた拳は、藍騎が無意識のうちに掴み取っていた。

「ふぁあ~、眠ぃ」

「おう、紫藤!腕を上げたな!まさか、我が拳を掴み取るとは」

暑苦しいがっちりとした肉体の男が、藍騎に言った。

「ん?岸谷先輩か」

岸谷晃一郎。空手部主将にして藍騎の先輩である。藍騎が唯一と言っていいほど覚えていた強烈なキャラクター性を持つ。強靭な肉体は印象的だが、藍騎の中では、それほどでもないという位置付けになってしまっているのは、異世界の武人達があまりにも卓越した肉体を持っていたからである。

「ハッハッハ!休みの間に鍛錬を積んでいたか!喜ばしいことだ!我が空手部に入部を決めたのだな!」

「決めてねぇよ!」

思わず強気な口調でツッコミをいれてしまった藍騎。彼はよく、岸谷に空手部に誘われていた他、多くの運動部に誘われていた。

「ほう、反抗的な感じ!面白い!」

何故か、岸谷は、藍騎に攻撃を仕掛けた。どうやら、反抗的な態度と戦闘開始がイコールになっているのだろう。

「遅ぇ」

藍騎には、岸谷の拳なんて、蝿が止まるほど遅く感じる。

「うおぉ!」

迫る拳を受け流しバランスを崩させる。

――ガシャン

机と椅子を巻き込みながら岸谷は床に倒れた。流石に鍛えているだけあって、何のダメージも無いようだ。

「ふぁあ~、眠ぃな」

藍騎は、まだ寝足りないようで乱れた机と椅子を直して席に着いた。残された岸谷は呆然としていたが、藍騎のクラスに人が増え始めたのを切欠に帰っていった。

「凄い」

そう呟いた妙子の声は、誰にも届かなかった。

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