13話:地下牢にて
――ディスタディア王国歴四百四十三年、紅蓮の月。藍騎は、ディスタディア王国の城の中にいた。正確には、囚われていた。
「まったく、世界を救ってやるって言うのに、何で犯罪者扱いされなきゃいけねぇんだよ」
愚痴を零す藍騎。それに対して、言葉が返ってきた。
「お父様は、得体の知れないものを嫌うから……。だから、貴方は捕らえられたんだと思うよ」
暗い声だった。どこまでも暗い声だった。
「ん?お前は?」
「アルカディア。アルカディア・ヘル・ディスタディア」
そう、ほぼ、布切れだけの状態で、牢屋に手首と足首を縛られ壁に縛り付けられている彼女が、ディスタディア王国の姫だった。
「あたしは、お父様と妾の間に生まれた子で、こんな体だから、ここに」
彼女は、背に生えた羽をはためかせる。右に悪魔の羽。左に堕天の羽。それが藍騎の感想だった。ディスタディア王国の人間の特徴は、皆、蝙蝠の様な羽と悪魔のような尻尾を持つこと。しかし彼女は、別の種族の羽が混ざっていた。それ故に、幽閉された、らしい。
「そうか、そいつはつらかったな……」
藍騎は、それしか言えなかった。実の父に幽閉される気持ちなんて分からない以上、アドバイスなんて到底出来ない。だから、彼は、それだけしか言わなかった。
「あたしは、誰にも愛されない。愛されることのない存在なの」
その悲しき言葉に藍騎は心打たれた。だから、告げた。
「誰にも愛されない、か。ハハッ。悪い冗談だぜ、姫さん。今ここに、あんたを世界で誰よりも愛すると誓う男がここに現れたんだからな!」
「あたしのこの醜い姿が、そこからはよく見えないから、そんなことが言えるの。あたしは、あたしは……」
「醜い姿?そんなもん見えないな」
藍騎は言う。アルカディアが哀しいと感じたことが分かる。なぜなら、すすり泣く声が聞こえるからだ。しかし、藍騎は続けた。
「俺がこっから見えるのは、世界一美しいお姫様だけだぜっ!」
アルカディアのすすり泣きが号泣に変わる。嗚咽を漏らしながら、言う。
「ほっ、ほんとう……?」
「ああ、本当だ。醜くなんてない。滅茶苦茶綺麗だ」
「あたしを、愛して、くれる?」
「ああ、愛するよ。何よりも、君の事を」
満月が、雲の隙間から光を放ち、それが、牢屋の窓から二人を照らした。
「俺は、藍騎。紫藤藍騎。この世を救う、勇者様だ」
この後、藍騎は、アルカディアとともに牢を出たのだった。
これが、藍騎とアルカディアの出会いにして、永遠の愛を誓い合った時である――。




