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四宝姫伝  作者: 桃姫
1章
12/37

12話:アルカディア

シルフィリアを香織に預けて、一旦教室に戻った藍騎は、鞄を持ち、早退する旨を教師に伝え、再び香織と合流してシルフィリアを連れ、藍騎の家に向かった。


 道中、道行く人々の視線が痛いほど突き刺さる。それはそうだろう。シルフィリアの美貌に男は愚か、女までもが、年齢問わず振り向く。まさに老若男女問わず、道行く十人に十人が振り返る。そんな状況をシルフィリアがいるから走るわけにもいかず、歩いて五十分ほどかけて、ようやく、藍騎の家にたどり着いた。

「ここが、藍騎の家なの?」

「そうだよ。狭いところで悪いけど、まあ、向こうに帰れるまでは、うちで暮らしてくれ」

「わ、私は、藍騎と一緒だったらどこでもいいんだけど……」

シルフィリアの呟きは藍騎には届いていなかった。


 藍騎は、慣れた手つきでドアを開ける。四年と言う間があっても、やはり幼い頃からずっと開け続けた感覚は忘れていないのだろう。

「ただいま」

「お帰り、藍騎。お友だちは?」

藍騎は、母親にシルフィリアを見せた。

「……藍騎、自首しなさい」

そして、藍騎の母親は、真面目な顔で告げた。

「藍騎、いくらもてないからって、日本に不慣れで、日本語も分からない外国人さんを騙して連れてきたら犯罪なのよ」

藍騎は、自分の母親から酷い誤解を受けているらしい。しかし、仕方の無いことだろう。これまで人付き合いと言うものが無かった藍騎が、突如、この様な美を象徴するかのような女性を連れてきたのだから。

「そんなことしてねぇから!」

激怒する藍騎。しかし、シルフィリアに裏づけを取ろうにも言葉が通じない。そんな時、奥から妹が顔を出した。

「ちょっと、兄ぃ!何この美少女。アルちゃん並の美少女じゃん!」

「アル、ちゃん?」

思わず聞き覚えのある名に反応する藍騎。そして、瑠凪の後ろから見覚えのある少女が現れる。その少女は、まるで琥珀のような明るい褐色の肌を持ち、藍染のような藍色の髪と瞳をしている。背丈は年齢の割に低いものの、胸は平均を上回ると思われる大きさで、四肢の長さも身長の割に長くてスラッとした印象を受ける。そして、もっとも見た目に分かるおかしな部分は、耳の少し上から生えた山羊に近い形をした角と、大きく露出した服の所為でよく見える蝙蝠の様な羽と鴉の様な羽に、悪魔を象徴するような尻尾である。第一印象は、サキュバスではなかろうか。その妖艶な笑みに男ならば誰もが心を奪われることであろう。そう、この少女こそ、異世界のディスタディア王国の姫、アルカディア・ヘル・ディスタディアである。

「アル!」

「藍騎!」

アルカディアは、藍騎に駆け寄った。そして、抱きつく。

「え、アルちゃんって兄ぃと知り合い?」

「そうだよ~!あたしの愛する藍騎だよ!」

むにょむにょとアルカディアの豊満な胸が藍騎に押し付けられ、藍騎は暫し、この柔らかさを味わっていたかったが、今はそれよりも、別のことだ。

「アル。言葉が通じるってことは、なんかあるのか?」

「はいさ!」

アルカディアは、ポケットから、石ころほどの大きさの宝石を出した。

「あ、間違えた」

「それは、ウリエルだろうがっ!」

アルカディアは、再びポケットに手を入れ、先ほどよりも二周り小さな宝石を取り出す。

「通訳石。これがあれば、シルフィとも話ができるはず……なんだよねっ」

ウィンクをするアルカディア。藍騎は、頬を染めつつ、シルフィリアに宝石を投げ渡した。

「この宝石が、通訳石なの?」

摘むように掲げ訝しげに呟くシルフィリア。それは紛うことなき日本語、に聞こえた。通訳石とは、自分の発する言葉が、相手には、相手の慣れ親しんだ言語に聞こえ、また、相手の発する言葉が、自分には、自分の慣れ親しんだ言語に聞こえると言うものだ。

「えっと、言葉は、通じるのよね?シルフィリア・イリス・シンシアです。今日から少しの間お世話になります」

その発言を聞き、藍騎の母親は、嬉々とした反応をした。

「まあ、まあまあ!嬉しいわ!藍騎がもてもてじゃない!彼女を連れてきたかと思ったら、瑠凪のお友だちに抱きつかれて、ウフフ、藍騎もそう言う年頃になったのね!画面の向こうのお嫁さんを紹介されたらどうしようって日々考えていたけど杞憂だったわ!」

藍騎は酷く心配されていたようだ。

「アルちゃんと兄ぃってどう言う関係なの?」

瑠凪からの疑問の声に、アルカディアが答えた。

「あたしと藍騎は相思相愛、永遠の愛を誓った仲だよ~!」

その発言に、シルフィリアが、目を点にしてから、急速に激昂した顔に変わる。さて、永遠の愛を誓い合ったのは、藍騎の体感で一年前になる。


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