Episode4 Game Hedgehog ~データ化能力~
「久しぶりに見ましたね。あっちの人格」
アリスは遠目で戦いを観察していた。
近接攻撃が全て効かない以上、自分は不利だ。
「エルはデスゲーム専門の、ゲーマーだからね」
「リアルな戦いが、最大のデスゲームってことですか」
夏樹恋歌は二重人格者である。
データを得意とした恋歌としての人格と。
状況判断が得意な"エル"としての人格が存在する。
『まさか……。アンタがあの有名なゲーマーだったなんてね……』
ハリネズミは体の針を、一斉に放出した。
一本でも刺されば、ゲームのデータが注入される。
針が多過ぎて、普通に回避するのは不可能だ。
「こんな弾幕、薄すぎるぜ!」
恋歌もとい、エルは鎌の持ち手と、刃の部分を動かした。
刃の先端に持ち手がくっ付いて、弓の形に変形した。
三枚のメダルを出現させて、弓に向かって投げつける。
「ディバイトウィンド! ブォン!」
エルの弓に、光の矢が装填された。
弦を弾き、手を離すと同時に矢が分裂を始める。
矢が針を相殺する。ハリネズミの針を破壊してく。
「触れてデバフなら、触れずに攻撃してやるまでだ!」
エルはハリネズミの胴体を確認した。
飛んだ針は、新たに生えてくることはない。
針を飛ばせる量に、限界があると分かった。
二枚のメダルを出現させて、再び弓に投げつける。
弓は緑の風を纏い、周囲のものを吹き飛ばした。
「サイクロンスプリーム!」
エルは弓から竜巻を放った。
緑色の回転する風が、ハリネズミを吹き飛ばす。
ハリネズミは体を崩し、飛んだ先で針が壁に刺さった。
エルは武器を鎌に戻し、三枚のメダルを投げつけた。
鎌が赤紫の光を帯びる。
「針の無い所なら、防御力が低いはずだぜ!」
エルは鎌を投げ飛ばした。
空中で回転しながら、鎌はハリネズミの胴体を切り裂こうと近づく。
『くっ!』
鎌が当たる直前、ハリネズミは緑色の粒になった。
そのまま吸われるように、空中に投げられた何かに吸い込まれる。
ハリネズミを完全に吸収したなにかは、携帯だった。
「自分の携帯を犠牲に、ネットワークに逃れやがったか」
エルは瞳を閉じて、上体を前に倒した。
目を開けると瞳の色が元に戻り、雰囲気が大人しくなる。
戦いが終わって、恋歌の人格が表に出たのだ。
「これを解析すれば、犯人の正体が分かるかも」
「奴の携帯なら、マズいかもね……」
静観していたユウキが、近づきながら言った。
毒は引いたが、体力が回復する訳じゃない。
体をふらつかせながら、携帯の画面を見つめる。
「正体がバレても問題ないってことかもしれない」
「犯人の目的は達成されたか。もう達成間近という事ですね……」
ユウキとアリスは、手がかりとして薄いと考えていた。
恋歌もここで逃げられたのは、痛手と分かっている。
それでも彼女は、携帯の情報を探ってみた。
犯人を捕まえるというよりも、その正体を知る為に。
本名が分かれば、ゲーム内のアカウントも知ることが出来る。
「携帯の持ち主は、"九頭祥吾"。ゲーム会社の人間ですね」
恋歌は検索能力と携帯の情報で、持ち主の特徴を探った。
まずは警察のデータと、照合してみる。
その中の情報を閲覧して、恋歌は息を飲み込んだ。
「九頭祥吾は、最初の被害者だ……。まだ病院で眠っている……」
「という事は、この携帯は被害者から盗んだものってことですね……」
携帯が本人のものでないなら、手がかりにならない。
確かに被害者を襲うには、一度実体化する必要がある。
彼らから携帯を盗むことなど、容易な事だ。
「まだ手がかりならあります……」
恋歌はゆっくり深呼吸をする。
この先を口にするのは、気が重い。
ネットだけとは言え、繋がりを否定することになる。
「奴は私達の作戦を、知っているような態度でした」
「確かに。実体化した割に冷静だったし。こっちへの対応も完璧だった」
「つまり……。私が連絡したフレンドの中に。あのハリネズミが居るってことです」
恋歌が遊んでいたゲームは、五対五の対戦ゲームだ。
両陣営がフレンド。恋歌を除けば容疑者は九人。
アカウント名が分かれば、運営会社に連絡して情報を得られるだろう。
この九人の中で、被害者全員とネット面識がある人物が犯人だ。
犯人は対戦中に、襲っていたのだから。
「でも九人とも、操作されてましたよ? あの状態で潜んでいたなら……」
「あ……。確かに一人棒立ちになりますね……」
プレイヤーがコントローラーを握っていない。
なのでゲームの世界に入ったら、キャラクターが動きを止めるはず。
だが実体化ギリギリまで、キャラは動いていた。
今回もクローズドサーバーで、フレンド対戦を行った。
部外者は対戦サーバーに、アクセスできないはずだ。
「恋歌……。九頭祥吾の異能力を調べてくれないか?」
「え? うん。でもその人、被害者じゃ……」
「凄くバカバカしい予想なんだけどさ……」
ユウキは二人に自分の意見を、説明した。
***
真夜中の病院。九頭祥吾の病室に、一人の男性が侵入した。
手には刃物が握られており、音を立てぬようゆっくり近づく。
九頭のベッドの前で、彼はニヤリと笑った。
「九頭祥吾さ~ん。診察の時間ですよ~。起きてくださ~い」
挑発するような口調で、男性は刃物を構えた。
九頭は目をつぶりながら、動く気配がない。
「早く起きないと……。これを使いますよ?」
男性は刃物を持ち上げた。
先端を九頭の胴体に向ける。
「良いんですか? 本気ですよ?」
男性は刃物を強く握りしめて、ゆっくり振り下ろす。
その瞬間、九頭の腕が僅かに動き出した。
「やっぱり。やらないと分かっていても。声だけなら怖いよな?」
男性……。ユウキは病室の電気をつけた。
ベッドで寝ていた九頭は、舌打ちしながら起き上がった。
「昏睡状態って、そりゃそう見えるよな?」
ユウキはデバイスの画面を、九頭に突きつける。
そこには個人の異能力データが、表示されていた。
「意識がネットワークに飛んでいたんだから」
ユウキは中指を、九頭に向けた。
九頭はニヤリと笑いながら、懐からコネクタを取り出す。
「アンタは被害者と偽って、ゲームのサーバーに意識だけを飛ばしたんだ」
「僕の異能力は、意識をデータ化して、ネットワークに送ることだからね」
「お前はデータ化した後で、コネクタを使ってヒュメラになったんだ」
ユウキは当初、ヒュメラになってからデータ化したと思っていた。
だがハリネズミの能力を知れば、逆だと分かった。
現実世界からもアイテムを持ち運べるなら、ゲーム内でヒュメラ化も可能だ。
「僕達が戦ったのは、アンタの意識だけがヒュメラになった存在だ」
「そう。彼女が実体化能力を持っていたから。都合よくつかわせてもらったよ」
「クローズドサーバーに入れるのも、立場を考えれば当然だよ。なあ、運営さん?」
九頭は元気そうに、立ち上がった。
点滴を引き抜いて、コネクタを構える。
「凄いよ。携帯落としちゃったとは言え、良く気づいたね……」
「九頭祥吾。僕はずっと前から、お前を追っていた」
ユウキはデバイスの画面を切り替えた。
そこには今までの事件の、犯人の顔写真が乗っている。
「和久を除き、今まで手ごわいヒュメラ達にはある共通点があった」
「全員とあるゲームをプレイして……。そこのメッセージからコネクタを知ったですね?」
「認めるんだな? アンタの正体がただのゲーム運営じゃなくて……」
ユウキは九頭を睨みつけた。
「DNAコネクタの売人だ!」
「そこまで捜査が進展していたとは。偽装が裏目に出ましたね」
九頭は自分の体に、コネクタを刺し込んだ。
緑の光がコネクタから溢れて、肉体を変化させる。
「ですが半分外れです。私は"彼女"の代わりに、キャラクターを操作していただけで……」
九頭の体は、巨大な蛇の形へと変化した。
病室の天井に当たるほどの、巨体だ。
『私自身は貴方と戦闘した事はないのですよ』
蛇の目が赤く光る。周囲の小物が、宙に浮かんだ。
窓ガラスが勝手に割れて、小物がユウキに飛んでくる。
『彼女の計画は最終段階を迎えました。もうここに用はないです』
蛇は割れた窓を通って、外に出ようとした。
その後ろ姿を見て、ユウキはニヤリと笑う。
「お前さ。重要参考人を前に……。なんで僕が一人で来たと思う?」
***
ゲーム会社のオフィス。誰も居ないくらい場所で。
一人の女性が、パソコンを操作していた。
「残念ですが、アップデートは先延ばしになりますね」
女性にライトの明かりが向けられた。
恋歌とアリスが、女性と向き合う。
「道理で上手いと思ったんですよ。カツミさん」
「ふっ……。ルナさんも、開発者について来るとは中々ですよ……」
「最初の悲鳴は演技だったんですね? みんなの気を引くための」
恋歌が事態に気づいたのは、悲鳴がきっかけだ。
当然チームメンバーは全員、動きを止めた。
止まったキャラに触れて、アクセス先に移動するのは容易だろう。
「貴方はプレイヤーから、技術の記憶をデータにして、奪った」
「なるほど。プレイヤーが昏睡状態なのは、データを抜かれたから」
「ユウに針が刺さったのに、意思があるのは。彼がプレイヤーじゃなかったから」
恋歌は悲しそうな表情で、女性を見つめる。
女性は腕を握りながら、体を震えさせる。
「なぜですか? 開発者である貴方が……。なぜこんなことを?」
「ゲーム開発は……。綺麗ごとだけでは出来ない……」
女性は手を広げた。ハリネズミのコネクタが握られている。
「一生懸命作っても、少しでもバランスに不備があれば文句言われる……」
女性はDNAコネクタを、体に突き刺した。
肉体が変異して、ハリネズミの姿になる。
『無限の要求に応えるために……。こっちは毎日残業尽くしなのに!』
ハリネズミは、一斉に針を飛ばした。
針は恋歌達でなく、会社の壁に突き刺さる。
針を媒介に、オフィスの様相が変わり始める。
「ほう。無機物にもデータ転送が出来るようになりましたか……」
「行きましょう、アリスさん。九頭が足止めされている今なら、カツミさんは逃げられません」
「ええ。まさか、データ転送とデータ化移動が別人の能力とはね……」
ハリネズミとの戦闘後、ユウキ達は相談し合った。
その結果、肉体をデータ化させる能力と、データを送り込む能力は別物と判断。
彼女の能力はデータ転送で、データ化して移動は別人がさせていると推理した。
ユウキが調査依頼した九頭の能力こそ、データ化してネットを移動できる力だ。
それは自分だけでなく、別の人物にも可能だ。
「それじゃあ……。ハードモードを攻略してやるぜ!」
「音速以下のハリネズミ。お前の運命を、決めてやろう!」




