Episode4 Game Hedgehog ~ゲームの世界~
「ジョークロンさん、ナイス!」
夏樹恋歌は自室で、ゲームをしていた。
ボイスチャットをしながら、チーム戦を楽しんでいる。
ゲーマーでもある彼女は、プライベートはゲームしかしない。
ネットゲームで対戦することは、彼女の生きがいだ。
居候ゆえ生活費が浮くので、課金も躊躇いない。
【サイカーさん、リュウさん! 一気に攻めますよ!】
チームリーダの声が、ヘッドホンから聞こえる。
加工されているが、隠せるのは性別くらいだ。
テンションの上昇が、恋歌にも伝わって来る。
キャラクターを動かして、一気に勝負を仕掛ける。
相手の体力から、この一撃で勝負が決まるはずだった。
【うっ! ぐわぁ!】
ヘッドホンからその悲鳴が聞こえた瞬間。
声の主のアバターが、ゲームから消滅した。
切断を意味するメッセージと共に。
「カツミさん? どうしたんだろう……?」
通信障害で切断してしまう事は、よくあることだ。
だが最後に聞こえた悲鳴が。全員の動きを止めた。
***
「恋歌……。そんな私用で、動ける訳ないでしょ……」
アリスは呆れながら、恋歌の意見を却下した。
彼女から昨夜の出来事を聞き、調査を頼まれた。
同じ場所に住んでいるので、仕事前にも依頼されたのだが。
「あの悲鳴は普通じゃありません。しかもあの後、二人も同じ現象が起きました」
「まあ、事件なんでしょうけど……。それは普通の異能力事件じゃないですか?」
アリスが退けている理由は、DNAコネクタ関連でないからだ。
彼女達の部隊は、コネクタ犯罪の対策班である。
普通の異能力犯罪は、他の部隊や警察に任せている。
「マッチングではなく、フレンド戦でした。しかもクローズサーバー」
アリスが助け船を求めて、ユウキの顔をチラ見する。
読書中のユウキは、溜息を吐いて立ち上がった。
「知り合いだけで、部外者が立ち入れない対戦ってこと」
「あ、ああ……。なるほど……」
アリスは微妙な表情で、頷いた。
恋歌は机を叩いて、彼女に食い下がる。
「顔も本名も知りませんが、前のゲームからの付き合いです。不正を行う人たちには思えない」
「でも実際不正は起きている訳で……。コネクタと関連が……」
「今任務抱えてないじゃないですか! 良いでしょう?」
アリスは微妙な顔をした。確かに任務はない。
コネクタ対策班を増やすため、現在様々な研修が行われている。
小規模の事件は経験のためと、別の部隊が敢えて担当するのだ。
現在自分達が担当するような事件は、発生していない。
暇と言えば、暇なのだが。
「恋歌。警察の資料にアクセス。ゲームタイトル、昏睡状態、副作用で検索してみて」
「え? うん。ちょっと待って」
恋歌は能力を使って、データにアクセスしてみる。
すると、いくつかのデータが、該当する。
「プレイヤーが数名、原因不明の昏睡状態で。コネクタ使用の副作用が確認された……」
「でもコネクタ自体は、発見されていない。これはもう、僕ら案件だ」
目を丸くしながら、ユウキを見つめるアリス。
「なぜお前がそんな情報を? 恋歌への愛ゆえ?」
「黙れ。親友の友達が、有名なプレイヤーなんだ。この間、実際に現場に立ち寄った」
「否定はしないのですね。しかも微妙に遠い関係なのが、怪し……」
ユウキはアリスの後頭部を、本で叩いた。
「データに関する異能力者が、ゲームを使って悪さしているってこと」
「でもなんでヒュメラに? 私もデータに関する能力はあるけど、コネクタは必要ないよ?」
「似た異能力者と戦ったことがある。人間の姿だと、ゲームでは人型キャラと扱われる」
恋歌は『あっ』っと、何かに気づいた。
ゲームに詳しくないアリスが、解説を求める顔をする。
「グラフィックがないから、画面に表示されないってこと?」
「姉ちゃんにも分かるように言うと。ゲームの中だけ、透明になれるってこと」
ユウキは溜息を深く吐いた。
恋歌の説明もだが、普段ゲームをやらないアリスに説明が面倒だ。
「えぇ……。そんなことの為に、コネクタを使います?」
「昏睡者の症状からして。多分嫌がらせが目的じゃないんだろう」
ユウキの口ぶりから、独自に事件を追っていたらしい。
当然だ。彼は必要以上に人へ干渉しないが。
仲間を苦しめる人間に、一切の容赦をいれないのだ。
「私、罠を仕掛ける。そいつはゲームで襲い掛かるんでしょ?」
「でも、透明なんですよね? 来たところでどうやって……」
恋歌が珍しく、自信ありげに笑った。
アリスも思い出す。彼女の本当の異能力の事を。
あらゆるデータにアクセスできるのは、能力の一部でしかない。
「データへの干渉と、現実世界へ実体化が可能。それが恋歌の能力でしたね」
「はい。ゲームには入れませんけど。見えない敵の察知と、それを可視化出来ます」
ここ最近実戦をしていないので、恋歌も忘れがちだったが。
彼女も本来は戦う側なのだ。アリスに戦い方を教わった、弟子とも言える。
「直ぐに準備しますね。フレンドたちにも協力をお願いします」
恋歌は駆け足で、ヒュメラの対策を行った。
普段は安楽椅子タイプだが、偶に活発的になる。
「はぁ……。アドバイスしたものの、家主に一言許可が居るでだろう……」
「ん? どういうことです?」
「恋歌がゲームするのは、僕の家だ。そこで犯人を実体化させるから……」
アリスは今日のユウキに、溜息が多いのになっとくした。
***
恋歌は自室にこもり、ゲームを開始した。
フォロー役として、ユウキとアリスも同席。
犯人が実体化したら、即戦闘に入るつもりだ。
「恋歌、無理すんなよ」
ユウキが心配する声をかけた。危ないだけじゃない。
クローズドサーバーに、犯人は入ってきた。
そこにアクセスできるのは、フレンドだけだ。
例えネットワークに入れる能力があったとしても。
サーバーが繋がってなければ、入ることは出来ない。
犯人はフレンドの誰か。恋歌が拘る理由はそれだろうと、ユウキは考えていた。
「ユウ、もう来たらしいよ」
「早いな……。やっぱり……」
先ほどフレンドに、メッセージを送った。
犯人もそのメッセージを見た。だから素早く、対応してきたのだろう。
「今から……。今から実体化させるよ?」
恋歌がパーカーを掴みながら、二人に確認する。
二人共頷いて、戦闘態勢に入った。
恋歌が異能力を発動して、パソコンの画面が強く輝く。
『なるほど。ルナさん。貴方、女性だったんですね?』
パソコンから粒子が飛び出し、部屋の中央に集まる。
粒子が結合した結果、茶色いハリネズミが姿を現した。
鳥やトカゲと違い、大きさ以外はハリネズミに近い姿だ。
「驚かないんですね? 突然、現実世界に戻されても……」
恋歌は苦しそうに、ハリネズミを見た。
このヒュメラは、最初から罠があることを知っている。
否定したい疑惑だが、これで確定した。
『残念です。こんな事になって……。貴方は……』
「おい、勝手に完結すんな。お前の相手はこっちだ」
ユウキが装備を構えて、ハリネズミを指す。
『悪いけど、まだ捕まらない。やるべき事があります』
「それを完遂させる気はない。事情なんて、知らないからね!」
『こちらも、事情を話す気はない』
ハリネズミは身体の針を、飛ばした。
ユウキは分身剣で迎撃して、針を切り落とす。
「場所を変えよう。僕の家を壊されたくない」
ユウキはこの場の人間を、瞬間移動させた。
誰も居ない広場に出て、被害を抑える。
「ちなみに移動したのは。またゲームに逃げられないようにするためだ」
『私に勝つつもりで? 残念だけど、ニュービーでは無理ね』
「人生というゲームなら、常にハードモードで攻略しているぜ」
ユウキは素早く距離を詰めて、ヒュメラに剣を振り下ろす。
金属音と共に、彼の腕は弾かれた。
筋肉が振動して、思わず剣を離しそうになる。
「堅ぁ! その針、ダイヤモンドかなにか?」
『違う。レジェンダリーだ』
「はあ? ゲームじゃなく、現実だぞ?」
ユウキの左腕が、突如剣に引っ張られた。
重量に引かれて、地面に剣が突き刺さる。
「ウェ!? 重ぉ! なんで!?」
ユウキは剣を持ち上げようとするも、微動だにしない。
ハリネズミが勝ち誇った笑い声をあげる。
『私はデータ化するだけじゃない。データを現実に持ち込み、肉体を通して送ることも出来る』
ハリネズミから一本の針が、飛び出した。
ユウキの足に刺さり、緑に光を注入する。
ユウキは目を大きく開きながら、膝をついた。
『毒付与のデータだ。ゲームのものだから、死には至らん』
「こいつ……。ゲームの力を現実でも使えるってことか……」
ユウキの体を支える力がなくなっている。
ゲームの毒状態は、体力を徐々に減らしていく。
現実の毒と特性が違い、戦う力を奪っていく。
『針を刺す必要はない。私に触れた瞬間、データ転送を行える』
「近接攻撃は、全部ダメって事かよ……」
『安心しろ、命を奪う気はない。少し眠っていて欲しいだけだ』
ハリネズミがゆっくり、ユウキに近づく。
ユウキは抵抗する力すら、急激に失われているようだ。
次の針攻撃を回避する力は、残されていないだろう。
「ユウ、これ飲んで」
恋歌が飲み物を取り出して、無理矢理彼に飲ませた。
ユウキはむせて、咳を出す。
「おい、これじゃあ"飲んで"じゃなく、"飲め"じゃないか」
「ゲームを使う敵なら、私の得意分野。ここは私に任せて」
恋歌はアリスに目線を送った。
アリスは隊長として、頷いた。
「ゲーマーとして、ゲームを悪用する人は許せない」
恋歌は両手を前に突き出した。
彼女の手に、ドットの様な粒が集まる。
粒が集合仕切ると、一本の鎌が召還された。
召還と同時に周囲に強い風が吹いて。
恋歌の瞳が赤色に変化した。
彼女は雰囲気の変わった、自信ありげな笑みを向ける。
「残機ゼロで、攻略してやるぜ!」
『な、なんだ? 雰囲気が……』
恋歌はその場で鎌を、振り回した。
その軌道と同じ斬撃が、ハリネズミを切り裂いた。
斬撃は強度の高い針を、何本か折る。
『なっ!? レジェンダリーのデータを含んだ針を……?』
「この武器は、"俺"がプレイするゲーム、最強の装備だ」
恋歌は空間に出現した、メダルをキャッチした。
コイントスの要領で、鎌に向かってメダルを投げる。
「お前と違って転送は出来ないが。自分のデータなら、実体化も出来る」
恋歌は親指を立てたピースをした。
「"ランカーゲーマーL"の力、見せてやるぜ!」




