Episode3 Spider Judgement~罪と罰~
「俺は絶対生き延びてやる……。怪物なんぞに、殺されやしない……」
廃線された線路のトンネル。そこがグループのアジトだった。
リーダーの男が、罠を用意して周囲を警戒している。
幹部クラスが全員、未知の怪物に殺された。
物音が聞こえたので、そちらを振り返る。
誰も居ない。警戒して、ゆっくり音の方へ近づくと。
背後から糸に縛られた。リーダーはトンネルの外へ連れ出される。
『貴様の様な奴に、生きている資格はない』
蜘蛛人間がリーダーを引きずる。
『貴様がやってきたことに比べれば、些細な犯罪だ』
蜘蛛人間、和久は異能力を発動しようとする。
致死量の電気を流して、トドメを刺すつもりだ。
「犯罪は犯罪だぜ。大小もねえ」
青い剣が飛んできて、蜘蛛糸を切り裂いた。
和久は溜息を吐きながら、バックステップをする。
直後に立っていた場所に、飛び蹴りが来る。
『ファミレスで君達を始末出来なかったのは、大きかったな』
冬木姉弟が同時に、線路上に立つ。
和久はこの状況が想定出来たからこそ、二人を始末しようとした。
「う、うわああああ!」
リーダーの男が、トンネルへ走った。
「お~い、そっちにはトカゲが居るぞ」
「ユウ、追いかけて両方捕まえなさい。こっちの蹴りは私が……」
「OK! 一人でやれんだな? 愚問だけど」
ユウキは答えを聞かず、リーダーの男を追いかけた。
アリスは剣を構えて、和久と向き合う。
『やはりお前には、俺の正義は理解出来ぬか……』
「法は法、罰は罰です。一つでも例外を許せば、裁きの意味がなくなります」
『ほざくな、若造が!』
アリスは剣を地面に刺して、中指で和久を指す。
「隊長……。和久利根。さあ、お前の行き先を決めてやろう」
『俺の行き先は、地獄のみだ!』
両者は互いに向かって、走った。
和久が放つ蜘蛛糸の弾を、アリスは構わず走って回避。
距離を詰めたところで、剣を振り下ろす。
『蜘蛛の武器は、糸だけでないぞ』
和久は腕をクロスさせて、剣を防御した。
背中の足を動かして、アリスに突き刺そうとする。
『この足一本一本が、強力な武器だ! ブォ!』
足が動ききる前に、アリスは回し蹴りを行った。
和久は側面に飛ばされ、大きく怯む。
「道具や能力だけに頼るなって、教えてくれましたよね?」
アリスは一枚のカードをスキャンした。
左手に炎のエネルギーを溜めながら。
剣を和久に向かって、投げつけた。
頑丈で重層なアリスの剣は、並の人間には受けきれない。
怯んだ和久も防御しきれず、大きく仰け反った。
「ウェイ!」
アリスは手に溜めた、炎を解き放った。
火球弾が飛ばされて、和久の体を吹き飛ばす。
即座に剣を回収し、追撃にかかる。
『やはり……。爪が甘いな』
光の反射で隠れていた、蜘蛛糸が姿を現す。
電気を帯びながら、アリスの進行方向に張り巡らされている。
「甘い。チョコレートより甘い」
アリスは再び、手の甲から火球弾を放った。
熱の影響で、蜘蛛糸が溶ける。
『まだエネルギーを、残していたのか!?』
アリスの地体強い一撃が、和久に炸裂する。
体に深く切り傷を作り、和久は吹き飛ばされた。
膝をついて、体勢を整えている。
アリスはその隙に、三枚のカードをスキャンした。
【アクセル、ライトニング、エッジ】の力が融合されて。
新たな技、【ターボスラッシュ】が発動する。
『まだだ……! まだ俺の正義は……!』
高速で近づくアリスに、和久は蜘蛛糸を吐こうとした。
だが口に向かって、三発目の火球弾が飛んできた。
最初のものより威力は低い。だが蜘蛛糸を溶かすには十分な火力だ。
打つ手なしの和久へ、アリスが近づく。
雷を帯びた剣を構えて。すれ違いざまに斬撃を加える。
「ウェエエエエエエイ!」
加速が入った、強力な一撃が和久を切り裂く。
大きな切り傷を作り、蜘蛛人間は静かにアリスへ振り返った。
なにも出来ず、悲鳴と共に彼女の背後で爆発した。
ヒュメラは元の和久利根の姿に戻る。
彼は膝をつきながら、体を抑える。
「なぜ……。俺が……。正義が負ける……?」
体からコネクタが外れて、刺し込み口が壊れる。
和久は地面に倒れて、気を失った。
「行き先は監獄に決めてやりました」
アリスは空しそうな表情で、和久へ振り返る。
「私刑の正義は、必ず暴力の正当化になる。父が教えてくれた言葉です」
***
トンネルに逃げた男は、即座に反対側からトカゲに襲われた。
尻もちをついた状態で、トカゲに銃口を向けられる。
「これが本当の鉄拳!」
サイコガントレットだけが空中を飛び、トカゲを殴り飛ばした。
ガントレットはユウキの腕に戻り、装着される。
「ロケットパンチならぬ、サイコパンチだ」
『お前、なぜ邪魔をする!? コイツが何をしたのか、分かっているのか?』
「ああ。知ったうえで、守っている」
トカゲは砲口から、火炎放射を吐き出した。
通常の弾丸はユウキに通用しないと、学習したのだろう。
『正義の裁きを邪魔するな! 正義の妨害もまた、悪だ!』
「正義でも悪でも良いけど。お前、自分がなにしたのか分かってる?」
ユウキは正面に、四本の分身剣を作った。
十字に分身剣を重ねて、扇風機の様に回転させる。
炎を風で吹き飛ばして、トカゲ人間に近づく。
「答えはどうでも良いけどな!」
十字の分身剣を、ユウキは飛ばした。
火炎放射を飛ばしながら、剣がトカゲを切り裂く。
体に切り傷が出来るが、即座に再生する。
「尻尾以外も再生? ワンちゃんと同じで、変異体か。斬撃は有効じゃないね」
ユウキは剣を納めて、格闘戦に移行した。
トカゲ人間を蹴って、怯ませた後。
サイコガントレットで、連続で打撃を与える。
トカゲは砲口をユウキへ向けて、煙を放った。
至近距離でスモーク弾を放たれて、ユウキは後ずさりした。
「あああ! モクがぁ! モクが目に入ったぁ!」
目をつぶりながら、ユウキは首を振った。
目つぶしに成功したトカゲ人間は、リーダーの男に走った。
「悪いな、嘘だ!」
ユウキはテレポートを使って、トカゲの前に移動した。
左手でトカゲを受け止めて、右手に力を籠める。
サイコガントレットが、青い光を放つ。
「再生能力持ちには、コイツが効くんだ! バスター!」
ユウキは右の掌を、トカゲ人間につけた。
強烈な光が、サイコガントレットから放たれる。
その直後、トカゲ人間が仰け反った。
『何だ? 体が衝撃を吸収しない……。内部から殴られているような……』
トカゲ人間の体が、膨れ上がっている。
膨大なエネルギーを体内に打ち込まれて、体が崩壊していく。
『があああああ!』
トカゲ人間はその場で爆散した。
コネクタが地面に転がり、人間の姿に戻る。
遺伝子の書き換えのおかげで、ヒュメラは爆発しても人間に戻るだけだ。
「正義とかどうでも良いけど。やったことの責任はとれよ」
ユウキは尻もちをついていた、リーダーの男へ振り向いた。
彼はその場から動けずにいた。
ユウキが放った、分身剣が彼の足に刺さっていたからだ。
「アンタも、罪を犯した責任をとれよ」
冷たい眼差しで男を見下げた後。
ユウキは男を殴り飛ばした。
***
アリスは今回の報告書をまとめていた。
正式な任務ではないが、仕事の範囲内だ。
終わったことを上司に報告するのは、彼女の仕事だ。
和久利根と共犯者は逮捕された。
リーダーの男も、余罪を調べられている。
和久たちの罪が、皮肉にも別の罪を暴くことになった。
「隊長たちが良い事したみたいに見えますが、罪は罪です」
たとえ周囲から感謝されようが、正義と言われようが。
やったことの責任は、取らなければならない。
殺人は立派な犯罪だ。その裁きを怠れば、法律に拘束力がなくなる。
「大丈夫ですか、アリスさん? 恩師があんな事になって……」
恋歌が心配しながら、コーヒーを入れた。
アリスは微笑みながら、書類の整理を終える。
「こんな仕事なので。こんな事いくらでもありますよ。もう慣れました」
アリスは本当に気にしていない様子だった。
確かに元隊長の変貌に、ショックはあるが。
割り切らなければ、隊長は務まらない。それを教えてくれたのが、和久だ。
「結局、今回の正義も。悪人を攻撃しただけだな……」
ユウキはソファーで本を読み、皮肉を口にする。
この部隊のみんなは知っている。彼が最も嫌いな言葉。
それが正義と言う事を。
「事件を解決しても、誰も被害者に手を差し伸べない。裁きを望むばかりだ」
「裁きは裁判所に任せましょう。私達の役目ではありません」
アリスも自分達の仕事が、罪人と戦う事だと理解している。
それでも自分達が、正義だとは思えない。正義と名乗ることは出来ない。
あくまで法の番人であり、裁く権利はない。師匠である父の教えだ。
「改めて、私は隊長としての自覚が出来ましたよ。私情を挟む暇がないということが、分かりました」
コーヒーを口につけて、アリスはジッとユウキを見つめる。
「な、なに……?」
「自覚を持ったので、隊長として部下に一言」
アリスは箒を持って、ユウキに近づいた。
「戦闘中にペラペラ喋らない! その根性を叩き直してやります!」
「お、おお……。隊長として、部下の個性を認めるのも大事じゃないかな……?」
ユウキは立ち上がって、アリスから距離を取る。
「ハッキリ言いましょう。喋れば喋るほど、ちょっとイラつきます!」
「おい! 思いっきり、私情が入ってるじゃないか!」
「それは、それ! これはこれです!」
ユウキは基地から飛び出して、逃走した。
アリスも箒を持ったまま、後を追いかける。
「こらぁ! 待ちなさい! 今日と言う今日は……」
「勘弁してくれ! 姉ちゃんが相手だと、ヒュメラと戦うより危険なんだよ!」




