Episode3 Spider Judgement~蜘蛛の罠~
「ブワァ!」
ユウキは蜘蛛のヒュメラに、壁に叩きつけられた。
想定外の襲撃によって、追い詰められている。
蜘蛛は電気の異能力者なのか、糸に電気を纏わせる。
口から出す、球体の蜘蛛糸が電磁弾の様に飛んでくる。
ユウキは銃で、糸の弾を撃ち落す。
「不意打ちなんてしやがって……。この野郎!」
ユウキは念力で、落とした剣を引き寄せた。
蜘蛛人間をついでに切り裂こうとしたが、回避された。
「鳥人間よりは、強いらしいね。ん? どわぁ!」
ユウキの足に、千切れたトカゲの尻尾が絡みついた。
右足を強引に引っ張られて、彼は転倒する。
「あのトカゲ野郎……。千切れた尻尾を操れるのか……」
転倒した瞬間に、蜘蛛がネットを発射した。
ユウキの足に絡まって、即座に電撃を放つ。
「中々の連携ですね。どうやら、明確な共犯関係なようで」
二体のヒュメラの戦いぶりを見て、アリスが感想を口にする。
他の客は全員避難させたものの。
捕らわれた男性客は、蜘蛛の傍にいるので中々助け出せない。
「ユウ、お前はトカゲの相手をしなさい。蜘蛛は私が対処します」
「了解だ。流石に今回は一人じゃ厳しいな」
ユウキは足に絡まった尻尾に、銃弾を放った。
尻尾は溶けるように消滅する。
「実戦は半年ぶりですが。訓練は続けていたので、大丈夫でしょう」
アリスは右手首に、黒い長方形の機械を装備した。
ポケットからAと書かれたカードを取り出して、機械に挿入する。
「変……。身!」
「しねえよ! 鎧を着るだけでしょ!」
アリスの体に光の粒が集まっていく。
粒が触れたところに、鎧が生成されていく。
金色の鎧を身にまとい、手に金色の蝶々が集まった。
蝶々は重なり合った後、同じ色の剣に変化する。
アリスは大型の剣を、地面に突き刺した。
中指で蜘蛛人間を指して、ニヤリと笑う。
「さあ、お前の死にざまを、決めてやろう!」
アリスは蜘蛛人間に走った。
近づけまいと、蜘蛛糸の弾を吐く蜘蛛人間。
アリスの腰のホルダーから、一枚のカードが飛び出した。
カードはアリスの剣に空いた、穴に入り込む。
剣から音声が響き、『スペード二、アクセル』と言い放つ。
アリスは速度を上げて、蜘蛛糸弾を回避した。
「愚かな弟が、頑張って手の内を暴いてくれましたからね」
「誰が愚かだよ……。調子に乗って、こっちの情報ばら撒くなよ?」
アリスは高速移動で、蜘蛛人間を切り裂いた。
手ごたえはある。蜘蛛人間は後ずさりをしている。
「お前、誰にものを言ってるのです?」
「悪魔、鬼、サディスト」
軽口を叩きながら、ユウキはトカゲ人間を圧倒してる。
タイマンなら、どちらも苦戦する相手ではない。
「さっさと終わらせて、お仕置きしますか」
アリスは別のカードを、ホルダーから取り出す。
剣にスキャンして、『スペード六、ライトニング』を使用する。
手に電気を纏い、拳を蜘蛛人間にぶつけた。
「電気には電気で対抗です」
手の甲から電気光線が放たれる。
蜘蛛人間は吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。
『流石だな、アリス……。お前は、気持ちいくらい、想定通りに動いてくれる』
蜘蛛が叩きつけられた壁に、張り付いた。
その直後、店内の床全域に電気が流れた。
「があああああ!」
「ひゃああああ!」
ユウキとアリスは同時に、痺れた。
今までとは桁違いの、電気の威力だった。
トカゲ人間も分かっていたかのように、天井に張り付いていた。
『お前達はもう、蜘蛛の巣に絡まったんだよ』
「事前に蜘蛛糸を、全域に張り巡らせていたのか……」
「ありえません……。私達が来るのを、想定していたかのような……」
アリスは先ほど、蜘蛛人間に名前を呼ばれてハッとした。
トカゲ人間の装備を見る。防衛軍で見たことのある装備だ。
電気の異能力使いに一人だけ。アリスがここで食事を取ると、予測できる人間がいる。
「まさか……。隊長……。なんですか?」
蜘蛛人間は俯いた後、体からコネクタを外した。
書き換えられた遺伝子が戻り、人間の姿へ変化する。
和久利根の姿に戻る。
「お前は変わらねえな。目の前で事件が起きれば、後先考えず首を突っ込む」
「隊長……。まさか……! 昨夜カフェに呼び出したのは……!」
「お前に関わってもらうためだ。コイツを見な」
和久は蜘蛛糸で縛られた、男性客を踏みつけた。
すると男性客は、トカゲの尻尾に変化する。
「体の見た目を変えて、自在に操る。それがトカゲの能力か……」
ユウキはもがきながら、和久を睨んだ。
体の痺れは激しく、二人共立ち上がることができない。
「なぜですか!? なぜこんな事を……」
「アリス、世の中には救われない人間ってものが沢山いる。それに手を伸ばしている」
「昨夜の被害者は、本物でした。事前に殺していたのでしょ? なんで!?」
アリスは体を震えさせて、過呼吸になっていた。
和久が法を犯して、人殺しなんて信じられない。
他者を守ることに誇りを抱いていた人物が、他人の命を奪うなど。
「戦えなくなって、分かった。世の中には、法や権力では救われない者が大勢居る」
和久は義手をジッと眺めた。
その手を、ゆっくりと握りしめる。
「例のグループだけじゃない。詐欺組織など、掴まるのは下っ端ばかりだ。俺はずっと歯がゆかった」
「隊……長……」
「綺麗なやり方じゃ、救われない人が居る。だから俺は、法を破ってでも、悪を裁く」
アリスは和久の瞳を、ジッと見つめた。
事故の後、消滅していた光が宿っている様に見えた。
生きる意味を、もう一度見いだせたような表情だ。
「これが俺の正義なんだ。だからアリス、悪いが死んでくれ」
和久は再び体へ、DNAコネクタを刺し込んだ。
先ほどの蜘蛛の怪物へと姿を変える。
『お前らが消えれば、コネクタ関連の対策は振り出しだ。時間を大分稼げる』
「お喋りが多いのは、油断している奴の証拠だぜ」
蜘蛛人間にファミレスの机が、飛んでいく。
ユウキが念力で、和久に攻撃をした。
『悪あがきを……!』
「サイキッカーは触れずに、携帯弄れるんだぜ? 知らなかったろ?」
ユウキの傍に、携帯が落ちている。
通話中と表示されている。それに全員が気づいた直後。
店の壁を突き破って、あるものが侵入してきた。
ガレージに置いてあった、広域用のマシンだ。
マシンは砲弾を発射して、蜘蛛人間とトカゲ人間を攻撃した。
『ユウ、修理代って経費から出るよね?』
「こいつらが壊したことにして、弁償してもらおうぜ!」
スピーカーから蒼の声が聞こえてきた。
彼女はマシンの操縦にも長けている。
器用にマシンを操って、二体のヒュメラを轢き飛ばした。
『ねえ、ねえ! これの名前だけど。ブルーアタッカーなんてどう?』
「何でも良いよ……。こいつら、ここで止めるよ」
ユウキは起き上がっていた。アリスはまだ動けないが。
彼は念力で自分の体を、操っているのだ。
その力で短時間なら、空を飛びことも出来る。
『引くぞ。流石にこれは想定外だ』
トカゲ人間は砲弾を放った。
それは途中で破裂すると、強烈な光を放った。
「ちっ……。閃光弾を持っていやがったか……」
素早く動けないユウキ達に、追いかける手段はない。
悔しいが、また探し出すしかないだろう。
「姉ちゃん、大丈夫か? 顔色悪いけど」
二人の痺れはやっと、引いてきた。
強力な電気使いゆえに、一撃でこれだけ動きを封じられる。
正体が分かれば、その強さにアリスは納得する。
「ユウ……。あんな電撃くらって、普通なお前がおかしいのです」
「意外と元気そうだな。皮肉を返せるとはね」
「自分でも怖いくらい、すんなり受け入れていますよ……」
尊敬していた元隊長が、悪事に走った。
ショックではあるが、アリスは納得感がある。
和久は隊長時代から、どこか闇のある正義を抱いていた。
戦士としての誇りが、その闇を抑えていたのだが。
戦えなくなった途端、闇が押し寄せたのだろう。
「しかし困りましたね……。神出鬼没なうえ、今回の様な罠があると……」
「あ、アリスさん。それなんですけど、次の標的なら分かっています」
蒼がブルーアタッカーから、顔を出した。
デバイスを操作して、二人に画像を送る。
「グループのボスです。恋歌ちゃんが頑張って探してくれました」
「でも、和久さんがそれを知っている保証はないぞ?」
「ユウ、隊長はきっと、拷問して情報を引き出しています」
アリスは部下として、和久の事は知っている。
被害者はグループの幹部だった。
彼らから情報を吐き出した後で、殺しているのだろう。
「辛いなら、僕に任せて良いよ。フルスペックなんでね」
ユウキはニヤリとしながら、サムズアップをした。
和久は戦士としての経験は、ユウキよりもずっと上だ。
それでもユウキが切り札を使えば、倒せるだろう。
それでもアリスは、首を振った。
鎧を解除しながら、ユウキをジッと見つめる。
「隊長の不始末は、部下が対処します。例え元隊長であろうとね……」
「姉ちゃん……」
ユウキは彼女の言葉を聞いて、暫く黙った。
やがて決心したかのように、口を開く。
「それって……。姉ちゃんの不始末は、僕らがつけないといけないってこと?」
アリスは無言で、ユウキを殴った。




