Episode3 Spider Judgement~再生と糸~
「マスター、いつもの」
日が沈み、閉店間際のカフェのカウンターで。
アリスは注文をしていた。今日はスーツ姿で、正装している。
店じまいまで愚痴る声などが、このカフェでは響いている。
仕事終わりや休日。大事な話をするときはここで過ごす。
それがアリスの日課だった。
「はい、キャラメルマキアートとデラックスプリン」
アリスの目の前に、カップと大きなプリンが置かれる。
相手が来る前に食べるのは、本来ならマナー違反だが。
気を遣う相手でもないし、客でもない。
アリスがプリンに口をつけていると、店のドアが開く。
ラストオーダーぎりぎりで、シルクハットと黒いスーツの男性が入店する。
髭が似合う、イケオジと言いう言葉が似合う男性だ。
「相変らず、甘いものに甘いものを重ねているな」
男性は静かに、威厳のある声を出しながら。
アリスの隣に座る。ブラックコーヒーだけを注文する。
「寝る前にブラックはおすすめしませんよ。隊長」
「生憎俺の夜は長い。お前こそ、虫歯になるぞ。それから……」
帽子で顔を半分隠して、男性はアリスを見る。
「もう隊長じゃない。ただの隠居人だ」
「アドバイザーとして、仕事が残っていると聞いていますが?」
「だとしても、もう戦えない。俺にとっては、終わったも同然の仕事だ……」
男性は右腕を……。義手を見つめながら呟いた。
和久利根。元防衛軍の部隊長であり。アリスの上司でもあった人物だ。
彼女を新部隊の隊長に、推薦した人物でもある。
「どういう風の使いまわしですか? 急に"お前のお祝いがしたい"なんて」
「俺だって、元部下を労うくらいする。あと、風は使いまわせねえ。一方通行だ」
コーヒーを口にしながら、クールにツッコム姿は様になっている。
義手を器用に使いこなして、自分のものにしている。
新装備が来ても、真っ先に使いこなしたその腕は衰えていない。
「解散してから、みんな元気にしているかとか。考えるようになっちまった」
「和久隊長は仕事ばかりで。私生活がありませんでしたから」
和久は殆ど休暇をとらなかった。
プライベートもジムで鍛えているしか聞かない。
それをほど、仕事人間と言う人物だった。そんな人が、二度と戦えなくなった。
「俺も年だな。人生を振り返るのは、死ぬ間際って決めていたんだがな……」
「隊長……。何って言ったらいいか……」
和久の切なそうな表情を見て、アリスはなにかを言おうとした。
だがその言葉は、突然響いた窓ガラスの割れる音で消える。
破片ともに、二足歩行の巨大トカゲが店に入る。
タダのトカゲでないことは、装備を見て分かった。
背中に二つの砲台を背負い。右手にガトリングガンを装着。
店内を見まわして、客の一人に銃口を向けた。
「ヒュメラ……!」
アリスは咄嗟に、カバンに触れる。
この中には装備品が入っている。
目線からヒュメラの狙いを読み、男性客の前に出ようとした。
『邪魔をするな』
ヒュメラは店内に、ガトリングを乱射した。
わざと外れるように撃つ、威嚇射撃だったが……。
「アリス……!」
アリスは和久に突き飛ばされた。
弾丸が彼女にのみ直撃する軌道で、飛んできたのだ。
万が一和久が庇わなかったら、直撃していただろう。
アリスが倒れている隙に、ヒュメラは男性客を掴んだ。
そのまま店の外に飛び出して、彼を連れ去る。
「まちなさい……!」
アリスはカバンを持って、店の外に飛び出した。
既にヒュメラの姿は消えている。
見通しの良い道で、隠れる場所などないのだが。
「ひゃああああ!」
悲鳴が街中に響いた。声の方向へアリスが駆け付けると。
そこには血だらけになって、倒れた先ほどの男性客が倒れている。
***
「被害者は犯罪グループの人間。それも幹部だったみたいです」
次の朝。事情聴取など、警察への対応が終わったアリスは直ぐに調査を開始した。
恋歌に被害者の情報を調べてもらい、ヒュメラの正体を探る。
「不良にお金払って、生徒を斡旋しいてもらったり。閉鎖空間を利用する組織みたいです」
「オブラートに包んで、クズみたいな連中だな。動機から絞り込めないか……」
恋歌の言葉を聞いて、ユウキが返答する。
被害者はあまりにも、恨まれ過ぎている。
正直、誰に殺されてもおかしくない人間だ。
「ここ最近、グループの人間が何人も殺害されています。コネクタの疑いもあったようですけど」
「私はトカゲ人間を見ましたから。DNAコネクタは確定でしょう」
アリスは分かりやすく、不機嫌だった。
目の前でまんまと犯行を行われたのだ。
被害者がどんな人間であれ、悔しさを感じる。
「それに奴は只者ではありません。重火器を慣れた動きで操っていましたから」
「ヒュメラ側も危険人物の可能性があるって訳か。それは放っておけないな」
ユウキは右腕にブレスレットを、装着した。
蒼が修理したばかりの、彼の装備品だ。
「ここでジッとしていても、仕方ない。僕ちょっと、出て来るよ」
まだ調査の任務は来ていないが。
他の任務がない場合、独自の判断が許されている。
アリスはユウキの肩を掴んだ。
「私も行きます。現場監督が必要でしょう?」
「任務じゃないのに、隊長が出張ってどうすんだ? 上司からの指示に……」
アリスが頑固な時の表情を見せたので。
ユウキは溜息を吐いた。
「運転、よろしく」
ガレージに向かい、アリスのバイク乗る。
ハッチを開いて、山に隠された出口から街へと向かった。
***
調査と言っても、なにか手がかりがあるわけでもない。
犯人の特定が難しいなら、次の被害者候補を探す。
組織の人間がターゲットなら、幹部を張っていればヒュメラは現れる。
そう推測して、勢いよく調査を始めたものの。
二人はファミレスで昼食中、溜息を吐いた。
「進展なしだ……。これじゃあ、格好がつかないよ、姉ちゃん……」
「ユウ、冷静に考えてみたのですが……」
アリスはカップを置いて、息を吐いた。
「付け焼刃の捜査で分かるような幹部なら。とっくに逮捕されていますね」
「ああ! それ言っちゃう? それ言っちゃうんだ!」
ユウキも薄々それは、理解していた。
そもそも報復を恐れてなのか、誰が被害を受けているかも分からない。
今回のヒュメラは明確な目的があり。それを終えれば、去っていく。
「今回は大変そうだな……。偶然、遭遇するとかないかな?」
「ユウ、始まったばかりで、偶然に頼っては終わりですよ」
二人がそんな会話をしていると。昨夜の様に、店の窓が割れた。
まるで再放送でも見ているかのよう、トカゲ人間が窓から入って来る。
パニックの中、同じようにターゲットを探している。
「姉ちゃん! 偶然あったよ! ほら、ご都合主義!」
「タイミングが怖いくらいばっちりですね……」
ヒュメラは同じように、まずは威嚇射撃をする。
アリスは昨夜不覚をとったものの、今回はユウキが居る。
彼に弾丸は通用しない。サイキック能力で銃を受け止めて、構わずに飛び掛かる。
「ヘイ、トカゲさん! サプライズなら、笑えるものにしてくれよ!」
ユウキは膝蹴りでヒュメラを怯ませた。
ガトリングが装着した腕を掴み、床に銃口を向けさせる。
「やっとフルスペックで戦えるぜ。Are you ready?」
ユウキは右腕を振った。ブレスレットが変形して。
機械の義手が、右腕に装着される。
サイコガントレット。スピードタイプのユウキが、パワー補助のために使う武器だ。
「GO!」
ユウキが拳を握ると、右腕に青い光が集まる。
青く光る分身の腕が、肥大化した状態で重なった。
念力をエネルギーに変換して、腕の分身を作る。
ガントレットの基本技である、ブレイカーだ。
ユウキは分身の腕で、ヒュメラの腹部を殴った。
「流石、蒼だな。修理を頼んだのに。前より改善されているぜ」
『貴様……! 邪魔をするなぁ!』
憎悪の籠った声と共に、背中から砲弾を放つヒュメラ。
二発放たれた弾は、ユウキと男性客にそれぞれ向かった。
「おい、そんな物騒なもの。持ち運び許可されねえだろ?」
ユウキは念力を使って、砲弾を受け止めた。
そのまま弾丸を、押しつぶす。
「やっぱり、復讐が目的か……」
『うるさい! お前に何が分かる!』
ヒュメラは地面を走って、ユウキに近づいた。
尻尾を振って、彼を弾こうとする。
ユウキは右腕で、あっさりと薙ぎ払いを受け止めた。
「一度やってみたかったんだよね。尻尾振り回すやつ!」
ユウキはヒュメラの尻尾を握ると、投げ飛ばそうと準備する。
だが尻尾がトカゲの肉体から分離して、空振りに終わる。
「ああああ! 尻尾がぁ! 千切れたぁ! バタバタ動いているぅ!」
「ユウ、相手はトカゲですよ? 当たり前でしょ?」
アリスは呆れた目線で、ユウキを見つめた。
ヒュメラは動物の特徴が、そのまま適応される。
炎の犬も嗅覚と聴覚が、犬と同等まで拡張された。
「僕の夢をよくも……! これでもくらえ!」
ユウキは千切れた尻尾を振り回した。
ヒュメラの側面に当てて、その体を転倒させる。
「アンタの復讐は、これでチェックメイトだ。恨まないでくれよ」
ユウキはトドメを刺すため、右腕にエネルギーを溜めた。
しかし……。全くの別方向から、彼の腕に白い糸が絡まった。
糸が電気を纏い、ユウキの右腕を痺れさせる。
「ぐっ……! なんだ……?」
糸が飛んできた方向を見ると。そこには別の怪物が居た。
蜘蛛の様な足が背中から生えている。人型のヒュメラだ。
新たな蜘蛛のヒュメラは、男性客を糸で拘束していた。
「ヒュメラが……。二体……?」




