Episode2 Bird Parts~空の奇襲者~
「おう。また明日な」
一人の大学生が、友人と別れて夜道を歩く。
人通りの少ない住宅街だが、家まで五分もかからない。
もう卒業研究は終わっている。就職先も決まった。
卒業まで仲間達と、最後の楽しみを送りたいと思っていた。
そんな一人の学生は。突如膝に痛みが走る。
「痛っつ……。なんだこれ? 鳥の……羽根?」
膝に刺さったものを見つめていると。
羽根が勝手に、膝から抜けた。
ほぼ同時に、空から巨大な影が下りて来る。
『ムカつくね……。幸せそうな顔をしているガキは!』
***
「ほう。ここが私達のオフィスですか。中々ですね」
アリスはキャリアバックを引いて、新部隊の基地に来ていた。
山奥に建てられた小さな建物で、子供の秘密基地の様な小屋だ。
中は探偵事務所の様に、一室のみで。机も一つのみ。
これには理由がある。自分達の装備のため。広さと標高が必要だからだ。
アリスは早速隊長特権で、机に座った。
「姉ちゃん、ここに住む気か? そんな大荷物で」
ユウキがコーヒーを入れる。
現在この場所に居るのは、彼のみだ。
「ええ。一々山登りするの、大変ですし」
「エレベーターがあったでしょ? ガレージに」
「冗談です。持ってきたのは私物でなく……」
アリスはケースを開けて、中身を見せた。
そこには様々な機械が、丁寧に詰められている。
「調査用のガシェットです」
「たった四人の部隊に、この装備か。上層部は深刻に考えてくれるらしいな」
「ところで、他の二人は? まだ時間はありますが、放っておくと遅刻しそうな二人ですから」
アリスが問いかけると。基地が大きく揺れた。
思わず転倒しそうになるほどだ。
「蒼は下で整備中」
「そのようですね……。張り切っているようで」
草月蒼。ユウキの中学時代からの同級生。
機械いじりが得意で、入隊前からユウキの装備を作ってくれた。
大人しい子だが、開発が始まると周りが見えなくなる。
「恋歌はそこ」
ユウキが指した方向へ、視線を向ける。
その先には、グレーのパーカーと青いズボンを着た少女が床に座っている。
随時フードを被っており、ボサボサのロングヘアーを隠してる。
小型のゲーム機で遊んでおり、周りが見えていない。
恋歌はゲーマーであり、熱中するとこうなる。
酷い時は部屋から出ないため、食事を持っていく必要があったらしい。
「それで、ユウはなにをしているのです?」
「掃除用具の確認。ものを散らかす奴が二人も居るからね」
恋歌とガレージを指してユウキが、口にした。
アリスは納得した。ユウキは人と積極的な交流をしない。
でも友達だと思った人物の、世話を焼きたがるところがある。
「部隊の初勤務初日がこれとは。締まりませんね……」
「急遽決まったからね。任務なしでやることが決まっていない」
「では暇つぶしに聞きます。DNAコネクタとは、結局なんです?」
アリスはまだ、DNAコネクタについて知らない。
特徴は教えてもらったが、他の事は教えてもらっていない。
「元々は軍が開発した兵器だったらしいよ。凍結されたけど」
「凍結ってことは、なにか問題があったってことですね?」
「コネクタは人の抑止力を、徐々に低下させる。欲望を抑えられなくなる」
ユウキはDNAコネクタには、消せない副作用があると説明した。
開発段階でそのことが判明し。研究そのものが凍結されたはずだった。
「ネットに設計図が出回ったんだ。素人には無理だけど。材料があれば、プロなら作れる」
「それでは……。コネクタ犯罪をなくすことは難しいですね」
「そう。元の投稿は削除されたけど。とっくに拡散されているだろうね」
アリスは背筋が寒くなった。
炎の犬の事件。犯人は社会を舐めた若者で、逆恨みが動機だった。
そんな人間に、建物一つ壊せる力が簡単に手に入るのだ。
そんな話をしていると。デバイスから任務を伝える、着信音が鳴る。
送られてきた任務は、鳥人間の撃破と言うものだ。
「鳥人間? コンテストの練習でもしているのでしょうか?」
「そっちの鳥人間なら、住宅街にはいかねえな。青春の塊だし」
添付されてきた写真には、死体が写ってた。
全員鳥の羽根で、壁に貼り付けにされている。
被害者は二十代で性別はない。特定地域で起きている以外、共通点もない。
目撃者によれば、最近鳥人間が空を飛んでいる噂があるとのこと。
防衛軍はコネクタ犯罪と判断して、調査を要請した。
「鳥ってことは空中戦になるな。蒼~! 僕の……」
「なんも修理終わってな~い! 本業が忙しくて!」
ガレージから女の子の声が、聞こえてくる。
ユウキは申し訳なさそうな顔で、黙った。
「自力で飛ぶよ。一応サイキッカーですから……」
「現場までは送迎しますよ」
アリスは皮肉の笑みを向けた。
***
アリスが運転するバイク。その後部座席にユウキを乗せた。
現場となった地域に辿り着き、アリスは周囲を見渡す。
短時間で、しかも狭い地域で殺人が起きた。
辺りは警官だらけなうえ、立ち入り禁止になっている。
住民も怖がっているのか、外を歩く人はいない。
「なんでこの地域限定の被害なんだろう?」
「この地域が余程嫌いか。或いは広範囲を動けない理由があるかですね」
アリスは経験上、後者だと確信を持っている。
この犯人は夜に襲撃を仕掛けるという、特徴がある。
短時間で決まったルールで襲う。
「ユウ。空の索敵出来ますか?」
「気配を辿ることならできるけど。まだ朝だよ?」
「目に入った人間を、手あたり次第と言う訳ではなさそうです。ある程度対象を決めています」
被害者はみんな、一人の時襲われているが。
そもそも二十代限定での被害だというのが、不可解だ。
どう考えても、彼らの年齢を把握しているとしか思えない。
「夜が犯行の実行タイムなら。朝は……」
「ターゲットの選別タイムってことね。まさに高みの見物だな」
ユウキは目を瞑って、サイキック能力を発動した。
空中の気配を感じ取り、人に近いものを探る。
「ビンゴだぜ、姉ちゃん。これだけの警官を見ても、怖気づかず……」
ユウキは拳銃を取り出した。弾丸はユウキが込める分身の非殺傷弾。
サイキック能力で、弾道もユウキがコントロール出来る専用の銃。
サイコガンを空に向けて、引き金を引く。
「空中で制止して、ムカつく顔してやがる」
ユウキが放った銃弾は、空中の存在にヒットした。
謎の怪物、鳥人間は悲鳴を上げながら落下する。
突然の銃声で注意を向けた人々が、鳥人間を見て驚愕する。
『痛ぇ……。イカレテんのか!? 優雅に飛ぶ鳥さんを、いきなり撃つ奴がいるか!?』
「悪いな。鳥さんが不法侵入で困っているから」
『決めた。次はお前を芸術に変えてやるぜ!』
ユウキは腕を振って、剣を呼び出した。
刃先を鳥人間に向けて、右手の中指で指す。
「ノーセンキュー! どうみても僕とセンスが合わなそうだ!」
『お前みたいなガキを見ると……。ムカつくんだよ!』
鳥人間は翼を広げて、羽根を飛ばしてきた。
先端の針の形をした部分が、前方になっている。
「被害者を張り付けた技か。不意打ちじゃなきゃ当たんないね!」
ユウキは剣を素早く振って、飛んでくる羽根を切り裂いた。
分身剣を空中に生成して。一斉に鳥人間に飛ばす。
「ほら、お返しだ」
最初の分身剣が刺さる直前に、鳥人間は体が分解した。
それぞれの体がユウキの背後に回り込み。
合体して再び鳥人間の形になる。
「体を分離させ、それぞれを個別に操る。それがお前の異能力ってことか」
不意を突いたつもりの鳥人間。
ユウキの背後を狙って、羽根を飛ばす。
「よく芸が少ないって言われない? 或いは学習能力なしとか」
『喋るほど、ムカつく奴だな! テメェ!』
ユウキは素早く振り返り、右腕を前に突き出した。
念力を使って、飛んでくる羽根を受け止める。
右手を前に突き出し、羽根を鳥人間へ投げ返した。
『ムカつく……。お前みたいに、持っている奴見ると、腹が立つんだよ!』
追加で羽根を飛ばして、投げ返されたものを相殺する。
ユウキがすかさず飛び込み、剣で胴体を切り裂こうとした。
「鳥かごに入るんだな。逆コンテスト」
ユウキの剣が鳥人間に近づいた瞬間。
鳥人間の周囲に、強力な電磁バリアが発生した。
剣がバリアに防がれて、ユウキは腕に電流が流れる。
思わず剣を離して、後ずさりをする。
電磁バリアは球体状で、鳥人間を覆っていた。
「なんだこれ? 電気の能力……?」
『驚いてくれて良かったよ! この俺様の能力にな!』
電磁バリアから電撃が放出された。
直撃したユウキは背後に飛ばされる。
体が痺れて、膝をついた。
「まさか、アイツ……。異能力が二つあるのですか?」
[それはないです。アリスさん]
通信で恋歌の声が聞こえてくる。
今回はアリスのカメラで、状況を確認している。
[異能力は一人一つまで。このルールは絶対です。過去にも事例はありません]
「でも、実際奴は分離能力と電気の能力を……」
鳥人間から電磁バリアが消えた。
翼をから無数の羽根が、ユウキへ飛んでいく。
ユウキはまだ痺れて動けない。
羽根が足に刺さる。致命傷は避けたが、身動きを封じられた。
痺れが取れたのか、上半身は動いてる。
『じゃあ、俺の芸術になってもらおうか!』
ユウキは銃を構えて、鳥人間に向ける。
だが足に刺さっていた羽根が、銃を持つ手に移動した。
『ああ。銃を持っていたことなら、忘れていないぜ』
「へえ。でもこっちは忘れていたみたいだね」
ユウキが右手の人差し指を動かすと。
先ほど地面に落とした剣が、空中に浮かび。
鳥人間の羽根を切り裂いて、ユウキの手元に戻った。
『ぐっ! 貴様、生意気な!』
鳥人間は思わぬ反撃に狼狽えた。
不利を感じたのか、翼を羽ばたかせて空に逃げる。
暫く警戒していたが、直ぐに視認できない距離に向かった。
「逃げたみたいだね……」
「上出来でしょう。今の不意打ちでは」
アリスはユウキを抱えた。
追跡が不可能な以上、彼の手当てが先だ。
「奴は一体、何の異能力者なんだ?」




