Episode5 Jaguar bomb ~決着~
九頭は学校の屋上に、逃亡していた。
誘いこまれている。逃げるなら普通、一階に向かうだろう。
わざわざ逃げ場のない場所に向かうのは、迎撃の自信があるからだ。
「しつこいお方だ。まあ、この展開は予測できましたが」
「戦えば予想外だぜ。素直に降伏してくれたら、お互い時間を無駄にせず済む」
「折角掴んだチャンスを、このまま離すものですか」
九頭はコネクタを、懐から取り出した。
「前と同じ姿か? 一度倒した相手と戦うのは、つまらないなぁ」
「貴方はコネクタの事を、良く分かっていない様で。最も私以外のみんなそうですが」
九頭はDNAコネクタを腕に刺し込む。
また大蛇に変身すると思っていたが、変化が違う。
巨大なのは間違いないが、頭が複数生成された。
『どうやらコネクタは使用するほど。適合率が上がり、進化するようです』
蛇の頭がハつに別れた。八岐大蛇の様な姿をしている。
巨体が校舎内で変身すれば、天井を破壊していただろう。
『異能力にも作用する。これは良い売り込みになると思いませんか?』
「力を得るだけだぞ? そんな商品、実際は売れないだろ?」
ユウキは右手に、青く光る剣を出現させた。
背後に魔人を召喚して、瞳の色を青く光らせる。
「三流セールスマンが、無理すんなって」
『遺言なら先に言うのですね。始まれば言う暇はありませんよ』
「No problem! 死ぬまで口は減らねえつもりだ!」
ユウキは九頭に向かって、駆け出した。
ヒュメラの一つの頭が、赤い光を放つ。
屋上の床が抜けて、浮かび始める。
『では一気に、口数ゼロになってもらいましょうか!』
九頭は二つ目の頭から、破壊光線を吐き出す。
地面を削りながら、光線がユウキに近づく。
『それぞれの頭一つで、私はそれぞれの能力を使えますよ』
「強力だね。上手く扱えればの話だけどな!」
ユウキは右手の剣で、光線を防御した。
押し返しながら、左手の剣を素振りする。
斬撃の威力だけを転移させて、浮いた瓦礫を切り裂く。
距離を詰めて、ヒュメラの胴体に斬撃を与える。
魔人の強大な一撃が、九頭の体を傷つける。
「首が八つでも、体は一つだぜ。注意しな」
『小手調べですよ。貴方に切り札を隠す意味はないようですね!』
九頭は再び目を光らせて、屋上を丸ごと持ち上げた。
上空で屋上をバラバラにして、足場を分ける。
『狭い足場で、蜂の巣にしてやりますよ!』
校舎の方から、緑色の粒子が飛んできた。
粒子は砲台や、飛行兵器の形に姿を変える。
『体だけでなく、ゲームデータも実体化可能になりましたよ!』
「へえ。初めて元ゲーム会社の社員に見えてきたよ」
『本当に死なないと、口を閉じないようですね!』
九頭はデータを操って、あらゆる方向から一斉射撃を行った。
狭い足場で、四方から飛ぶ弾丸でユウキを囲む。
「もしかしたら死んでもうるさいかもね! 化けて出るよ!」
ユウキは指を鳴らした。すると背後の魔人が、ユウキから離れる。
空中を飛び交いながら、両手の剣で弾丸を切り裂いていく。
ユウキも足場を飛び移り、高速で移動を始めた。
分身剣を盾の様に前方に生成。
回転させて、近づく弾丸を防いでいく。
「大した力だけど……。潜り抜けた修羅場が違う」
ある程度防ぎぎった後、ユウキは分身剣を分離させた。
その間に砲台を、魔人が殆ど破壊している。
「コネクタで力を得ても、僕らと戦うのは難しいよ」
分離した分身剣をミサイルの様に飛ばして、九頭の体を切り裂く。
上空から別の分身剣を振らせて、八つの頭に突き刺した。
「つまりコネクタ買って暴れても、逮捕されるだけの未来が待っている」
『まだ余裕ですか! いい加減イライラしますよ!』
九頭は全ての頭を、一カ所に集めた。
口を開いて、一斉にユウキへ破壊光線を放つ。
「売れないと分かったら、損したと思っても、それ以上の損失を防ぐのが一流らしいぜ」
ユウキは放たれた光線に、右手の剣を投げ飛ばした。
魔人と合流して、サイキック能力で浮かぶ。
「お前は時間を損したな。最初に警告したのに」
サイキック能力で加速して、ユウキは両足のキックを放った。
先に投げた剣と、足の裏を融合させる。
「Check Mate」
ユウキの蹴りが光線を貫通して、そのまま九頭の胴体へ向かう。
胴体も貫通して、ユウキは反対側の足場に着地する。
『なるほど……! 進化しても使い手が悪いと! 勉強になりましたぁ!』
九頭のヒュメラは、その場で爆散した。
ユウキは足場をサイキックで、掴んだ。
ゆっくりと、瓦礫を地面に下す。
九頭は地面に横たわり、壊れたコネクタが転がっている。
動けないのか、観念した素振りを見せる。
「やれやれ……。この教訓で商売できるのは、何年さきやら……」
「さあ? 法律に聞け」
***
アリスの報告書作成を、ユウキも手伝っていた。
今回彼女は現場に居なかったんので、詳細の説明が必要だ。
まさか九頭が連続爆破犯と、既に共犯だったとは予想外だった。
「売人の逮捕と、進化ヒュメラの討伐。更に……」
アリスはパソコンに、現状を書きこんでいく。
珍しく機嫌よく、コーヒーを飲んでいる。
「法改正により、コネクタ犯罪は減少傾向っと」
「九頭のおかげで、歪んだ商売人も割りに合わねえって気づいただろう」
九頭の逮捕後、コネクタ所持で摘発可能になった。
危険性が周知された事で、今後買う人間は減るだろう。
「でも組織じゃないからな。規模は小さいけど……」
「頭潰して、終わりとはいきませんからね……」
減ったとはいえ、コネクタを開発できるものは大勢いる。
ユウキは根絶は不可能だと、断言した。
法の目を潜って、売買する奴をなくすことはできないと。
「才能なき世界がまさにそれだ。法律でも人を縛ることは出来ない」
「そうでしょうね。だから私達がいるのです」
アリスのチームは、役割が少し変わった。
コネクタ犯罪特化から、今までの業務も行えとのことだ。
ユウキ達の仕事は、強大な力を持つ敵を迎撃することだった。
「きっとこれからも、仕事はいくらでもありますよ。取り合えず報告は終わりです」
「んじゃあ、なにか食べる? 今日は奢る?」
「普通なら喜びますが……」
アリスは残りの二人を、チラ見した。
コミュ障の蒼も、引きこもり気質の恋歌も外食は苦手だ。
親しい関係とは言え、複数で食事は向いてないだろう。
「寿司でも頼もうか?」
「良いですね。ウニを頼みます。ウニを」
「大体ついて来るけどね。ウニ」
ユウキは寿司を買いに、外出した。
彼の後ろ姿を見て、三人とも溜息を吐く。
「無理していますね。あれ」
「私もそう思います。なにかを抱え込んでいる態度です」
三人ともユウキとは付き合いが長い。
だから彼が隠し事していても、直ぐに分かる。
単独行動癖も、独りで抱え込む性格なのも。
彼が奢る日は、大抵自分達のご機嫌を取る日だ。
その必要があるのは、大きな戦いに巻き込まれている時と決まっている。
ヒュメラとは関係ない。話せば長くなる事件だと。
「そう言えば。蒼はどうやって立ち直ったの?」
恋歌がゲームを置いて、質問した。
彼女が仲間になったのは、少し後なので。
再会前の詳細をあまり知らなかった。
「あ~。話せば長くなる方の事件だよ」
「時間あるから大丈夫。みんなが関わった事件を、聞く機会って少ないし」
アリスがパソコンを閉じて、ソファーに向かう。
蒼が立ち直った事件は、アリスにも無関係ではない。
「じゃあ話すけど、寝ないでよ? ある意味じゃ、冬木ユウキ最初の戦いの事を」
「エックス事件。私達にとっては、色んな出会いがあった話ですね」
ヒュメラ事件とは違う。ユウキのもう一つの物語と言えるものが、その場で語られた。
エックス事件、ブラッドローズ事件、人界事件。
簡単には語り切れないほどの、大きな事件を。
***
ユウキは外に出て、夜の丘に向かっていた。
墓石があるわけではないが、花を添えて手を合わせる。
ここが才能なき世界の、初代リーダーが亡くなった場所だ。
「久しぶりに、お前の意志を継ごうとした奴と戦ったよ」
亡き親友にユウキは、語り掛ける。
才能なき世界の始まりと、歪みの始まりを思い出す。
どちらも初代リーダーによって、起きたものだ。
「元々、みんなで傷を慰め合う集団だったのにな……」
ユウキは戦い以外で、珍しく剣を出した。
花を添えた場所に、剣を見せる。
「お前のくれた剣で、約束を守っているよ。僕は戦い続けている」
自嘲しながら、立ち上がる。
花に向かって、サムズアップをして返す。
「だから、安心して眠ってなよ」
ユウキは立ち上がり、その場所を後にした。
階段を下りながら、ふと考える。
誰にも話していない。自分にとって本当の始まりの物語を。
「いつか話すべきなのかもしれない。でも今は……」
ユウキは夜風に当たりながら、口を閉ざした。
コートのポケットに手を入れながら、夜道を歩く。
***
取り合えず最初の事件を話し終えた後。
ユウキはアリス達のもとへ、帰ってきた。
慌てた様子で、同時に興奮しているようだった。
それでも寿司は崩れないように、丁寧に運ばれている。
ちゃんとウニが入っているのが見えた。
「ど、どうしたのですか……?」
「ね、姉ちゃん! 大変だ!」
ユウキは寿司を机に置いて、アリスに詰め寄った。
「変身! 変身する人いた! バイク乗る人!」
「い、いや……。そう言う異能力者もいるでしょう……」
「"変身!"って言いながら、腰のあれを動かして変身してた!」
アリスは溜息を吐いた。ユウキは少し冷めた部分があるが。
こういう部分は、子供の頃から変わっていないのだ。
「本当なんだって! 変身する人が、ヒュメラと戦っていた!」
「はいはい、話聞いてあげるから。寿司食べよう」




