Episode5 Jaguar bomb~私のアイデンティティー~
【ユウ! そっちの状況は?】
「悪い、蒼! ちょっと取り込み中!」
学校内で暴れるヒュメラを、ユウキは迎撃していた。
授業中だが先ほどの爆破で、近くの人間がパニックを起こした。
蒼に避難誘導を頼みたいが、コミュ障の彼女には負担が大きい。
更にこのヒュメラの変身者は、厄介な能力を持っていた。
彼が指を鳴らすと同時に、後者の壁が爆発する。
「爆弾生成異能力。お手製でなく、体の一部が爆弾って訳か」
『そうだ! この異能力とコネクタの力で! 俺は先輩たちの意志を継ぐ!』
ジャガーヒュメラは、ユウキへ突進してきた。
その強大な牙で、彼をかみ砕こうとする。
ユウキは側転で回避。ジャガーは壁を砕く牙を見せた。
「とんでもないパワーだな。噛まれたら体が千切れそうだ」
『この力で俺は、歪んだ基盤を破壊する! 才能がいらない世界を作る!』
このヒュメラの力は、全てが破壊に特化した力だ。
特殊性はないが、この思考との相性は最悪だ。
計算なしに破壊を繰り返し、被害を拡大させる。
「歪んだ地盤は、リセットするしかない。全てを無に還し、次の世代に託す」
『なに……!? なぜ俺達の言葉を知っている!?』
「才能なき者の初代リーダーで……。僕の親友に口癖だった」
ユウキの言葉に、ジャガーヒュメラは動きを止める。
ユウキも腕を下ろして、戦意を弱めた。
「だから僕は言った。託したところで、別の歪んだ地盤が出来るだけだ」
『なんだと……?』
歯を食いしばり、ヒュメラは明らかな敵意を見せた。
自分達の原点が、否定された気になったのだろう。
「人は変わることが出来ても、変えることはできない。豹変したアイツを戻せなかったように」
才能なきもののリーダーは、もういない。
あの爆破事件が起きるもっと前に、居なくなった。
いつしか彼の言葉だけが、歪んで解釈されるようになった。
「大声で叫ぼうが、力でねじ伏せようが。他人の意志を変えることはできない」
ユウキは右腕を、前に突き出した。
サイキック能力を使い、爆破で崩れた瓦礫を操る。
「だから僕は決めた。容赦はしないと」
ユウキは瓦礫を一カ所に集めて、ジャガーに落とそうとする。
意図に築いたジャガーヒュメラは、自慢のパワーで対抗しようとする。
瓦礫に気を取られている隙に、ユウキは剣を投擲した。
足元に剣が刺さった事で、ジャガーヒュメラは動揺する。
その結果、落下する瓦礫を止めることが出来ない。
「お前らが何を思い、言おうが自由だ。意見だけなら、勝手だからね」
ジャガーヒュメラが腕で瓦礫を押さえる隙に。
ユウキは瞬間移動で、ヒュメラの前に現れた。
その瞳にはどこか、深い深い闇の様なものが宿っている。
「でも僕の大事なものに、危害を出すなら……」
ユウキは右腕で、ジャガーの首を掴んだ。
サイコガントレットで腕力が強化されている。
震え始めて、口を閉ざしたヒュメラを見つめる。
「理由を無視して、全力で潰す!」
ユウキはヒュメラを、頭上に投げ飛ばした。
瓦礫の集まりに叩きつけて、球場の塊を散らばらせる。
バラバラになった瓦礫を、再びサイキックで浮かせる。
彼は剣を構えて飛び上がり、瓦礫を足場にする。
乗った瞬間に蹴って、反動でジャガーヒュメラに近づく。
すれ違い様の斬撃を、何発も叩きこんだ。
「僕は敵に同情しない。そう言う人間さ」
ユウキは瓦礫に足を乗せると同時に、分身剣を生成していた。
彼の着地と同時に、分身剣が瓦礫から飛び出す。
一斉に無数の剣が通り、ジャガーの体を切り刻んだ。
「これ以上、アイツの言葉を腐らせてたまるか……!」
瓦礫を持つのを止めて、ユウキは剣を構えた。
十分な攻撃を加えたが、更なる追撃に入る。
落下するジャガーヒュメラを、剣で貫こうと準備すると。
廊下の窓ガラスが割れて、蒼がこの場に到着した。
背中に青く光る機械の翼を装着して、空を飛んでいた。
「ユウ、落ち着いて。また頭に血が上っているよ」
「大丈夫。殺意までは、抱いていないから」
「はぁ……。やっぱり過去の傷を消すことなんて、不可能なんだね」
蒼の呆れた言葉で、ユウキも冷静さを取り戻した。
瞳から闇が消えて、剣を下す。
ジャガーヒュメラは、地面に落下した。
「無線で大体状況は分かったよ。慌てて来て、正解だったみたい」
「悪いな。僕にとっては嫌いなタイプの、敵だったから」
ユウキは銃に持ち替えた。威力を抑えた銃弾をセットする。
相手のダメージを最小限にして、コネクタを破壊するつもりだ。
蒼が止めなければ、死なない程度に痛めつけていたかもしれない。
【やれやれ、正直もう少し粘っていただきたかったですね】
「この声は……。やっぱり黒幕はお前か」
ジャガーヒュメラの中から、緑の粒が飛び出し。
九頭へと姿を変えた。ヒュメラはスマホを持っていたのだろう。
「あ~、そう言えばコイツ。データ化で自由に移動できるんだっけ?」
「まあ出口は、外の人間がロックを解除する必要があったみたいだけど……」
九頭の異能力は、既に調査が進んでいる。
彼はスマホやパソコンからしか、ネットワークに出入りできない。
他者のデバイスに入るには、一度ロックを解除してもらう必要があった。
既に報道で顔を公開していたので、協力者が出来るとは思わなかった。
だから居場所を特定したら、逃げられないと思っていたのだが。
「おかげで逃亡先でも、結局戦う羽目になりそうですよ」
「才能なき世界を利用したのか。確かにこいつらなら、法より力を選ぶだろうな」
「ええ。おまけに毎回邪魔をする、君への嫌がらせにもなります」
九頭はDNAコネクタを、懐から取り出した。
自分に使用して、以前の蛇になるのかと思ったが。
彼はコネクタを倒れている、ジャガーに刺し込んだ。
「私、商品の価値を上げたものでね。二つ以上のコネクタを刺し込めば、人はどうなるのでしょうか?」
ジャガーヒュメラは雄叫びを上げながら、姿が変貌していく。
足が変貌して、増殖を始めた。体も肥大化して、天井を突き破る。
八本の足を持つ、十メートル級のヒュメラに変貌する。
「ほう! タコとジャガーの性質を持った、特殊なヒュメラになるのですね! まあ……」
『ガアアアア!』
ヒュメラは頭を抱えながら、足を動かした。
人の言葉を発しなくなり、瞳の色も赤く染まっている。
「彼如きに、制御は不可能な様ですが」
「協力の報酬が裏切りか? 酷いな。非難する権利は、僕にないけど」
ユウキは九頭に向かって、剣を構えた。
この男は危険だ。ただコネクタを売るだけでなく、人体実験も行う。
今度見失えば、次に手がかりを得るまで被害者が増える。
「私に構っている暇はあるのですか? このタコ君。全ての足から、爆弾を生成できるようですが?」
「はぁ……。放っておくと、校舎を吹き飛ばしかねないな……」
一つ一つの爆発は弱いが。同時に爆破したら、被害は甚大だ。
まだ避難どころか、状況把握すら学校側は出来ていないだろう。
真っ先に対処すべき敵は、ヒュメラである。
「ユウは九頭に集中して。ヒュメラは私が対処する」
「……。大丈夫なのか?」
ユウキは心配の声を上げる。学校、才能なきもの、連鎖爆破。
どうにも嫌なものが、揃っている。
「うん。私も成長しているから。今度は怪我なんて、させない」
蒼のさり気ない頷きを見て、ユウキは微笑んだ。
あの時見た強がりも緊張も、今の蒼にはない。
ユウキもサムズアップを返して、九頭へ向かった。
九頭を逃がさないかは、ユウキを信じるしかない。
蒼は不安を見せずに、懐からデバイスを取り出した。
「アンタのおかげで私は、アイデンティティーを形跡出来た。それを見せるよ」
蒼はホルダーから二丁の銃を取り出した。
背中の装置で飛行して、上に伸びた足に向かう。
同時に窓から新しい影が、校舎の中に入ってきた。
「マックスくん! 起動!」
影の正体は以前開発した、マックスくんだった。
本来は装着するアーマーだが、事前に命令するとオートで戦える。
簡易な判断しか出来ないが、暴走するヒュメラなら十分だろう。
「ずっとユウ達に戦闘力で遅れていたの、気にしていたからさ」
蒼は二丁拳銃を使って、上部の足を校舎から切り離した。
爆弾生成前に建物から離せば、爆発の心配はない。
「どうすれば良いか、ずっと悩んでいたら。ユウが短所無視で、長所を使いなよと教えてくれた」
命令されたマックスくんが、下方向の足を攻撃する。
巨体に見合わない速度で、マックスくんは走り回る。
背中のカッターを取り外して、足に向かって投げ飛ばす。
「ユウは、いつも私を助けてくれる」
八本の足を迎撃した蒼は、マックスくんの元へ向かった。
アーマーの上部から入り、マックスくんを装着する。
「同じミスはしない。最後の起爆剤は、お前自身だよね?」
蒼はアーマーの腕を、ワイヤ付きで伸ばした。
強力なパンチがヒュメラに炸裂し、上体を倒させる。
「私の攻撃力不足を解消するためにどうすれば良いか。その答えがこれだよ」
蒼はマックスくんで、高く飛びあげた。
倒れかけるヒュメラを掴み、校舎の外へ投げ飛ばす。
自身の異能力。戦いの衝撃を吸収して、一気に吐き出す力を発動した。
普段は光線にして、なにかを媒体に放つのだが。
今回の蒼はマックスくんにエネルギーを送り込んだ。
「ユウは私の友達じゃなくて。恩人で、大事な人だから。絶対に役に立ちたい!」
全てのエネルギーを足に集めて、蒼は蹴りを銜えた。
強力な衝撃がヒュメラの体を刺激して。
体内のエネルギーを一気に放つ。体そのものが巨大な爆弾となっていた。
「これが私の戦い方!」
蒼はマックスくんのボディを使って、爆発のエネルギーを吸収した。
爆散したのはヒュメラの体のみ。
破損したコネクタが地面に置いて、使用者が元の姿で気絶する。
膨大なエネルギーを取り込んだマックスくん。
それを放出するため、蒼はエンジンを起動した。
マックスくんは空中で高速移動を行い、有り余るエネルギーを消費する。
「これが、私の長所を活かした戦い方! 私のアイデンティティー!」」




