Episode1 Dog Fire~異能の番犬~
スランプリハビリのための作品。特撮風に作るつもりでやっています。
基本2~3話完結。縦軸はなく、アクションしつつキャラクターのわちゃわちゃを楽しむ小説です。
「今日も一日、何も起こらない~」
夜間警備の仕事をしている、男性が見回りをしていた。
重要な施設の警備員と、一見重要そうな任務だが。
こういう場所はセキュリティが高い。不審者など、数年出た覚えがない。
今日も歌いながら、適当に仕事を終えようとしていると。
物音が建物の裏から聞こえてきた。
動物か何かと思いつつも。万が一があったら、終わりだ。
「誰か居るんですか? ここは立ち入り禁止ですよ」
ライトがないと先が見えない場所だったはず。
だがその場所には、明かりが灯されている。
光源は動いているように見えた。
警備員がゆっくり近づいて、確認すると。
獣の鳴き声が、施設に鳴り響く。
「グルル……!」
「ひ、ひぃ! じ、地獄の番犬だぁ!」
鳴き声の周辺に、巨大な火柱が上った。
***
「ふぅ……。やはり長旅は疲れますね……」
キャリアケースを引いた少女が、住宅街の民家に辿り着く。
金色の髪の毛をなびかせ。水色のワンピースに付着した落ち葉を掃う。
まるで童話から出た、幻想的な雰囲気な少女だ。
インターホンを鳴らさず、鍵を開けて入る。
我が物顔で無言で、玄関に侵入する。
「ユウ、お姉ちゃんが帰ってきたよ。荷物運びなさい」
少女、冬木アリスは奥にあるリビングに声をかけた。
同時にキャリアケースが独りでに宙に浮かび。
リビングの方まで飛んでいった。アリスもそれを追いかける。
リビングではソファーで、一人の少年が寝ころんでいる。
気だるそうな表情で、右手を挙げていた。
「姉ちゃん……。ここ、僕の家。姉ちゃんは世帯じゃない。OK?」
文句を言いながらも、アリスの弟。冬木ユウキは丁寧に荷物を運ぶ。
可愛げのある弟を、アリスはそっと頭を撫でる。
「憧れの一人暮らしなのに。家で一人になれた事がないな」
ユウキは起き上がった。開いたスペースに、アリスが座る。
アリスはジッと、奥の部屋を見つめる。
「居候がすぐ来たからでしょ? 嫌なら追い出せば?」
「パートナーを追い出せるかよ。姉ちゃんはいい加減、家賃払え」
ユウキが一人暮らしを始めてから、アリスも実家を出た。
だが色々面倒になったので、結局この家に勝手に住み着いた。
暫く長期出張をしていたが、家の様子は変わっていない。
「それで、部隊長研修はどうだった?」
ユウキが本を読みながら、質問する。
アリスは所属する組織の部隊長になるため。
二か月間、専用の研修を受けていた。
「やたら気合が入っていましたね。今度新設される部隊の隊長を選別しているようです」
「新部隊? あぁ……。いよいよ本腰入れるのか」
「本郷氏?」
ユウキは無言で姉の頭を叩いた。
アリスのボケは、一々ツッコミ入れてはキリがない。
「お前達、今日は非番ではありませんでしたよね?」
アリスが荷物を片付けながら聞く。
「ああ。任務中。とある事件の捜査を始める様にと」
「それで本部隊に追い出されたと? 貴方達はまだどこにも編成されていませんからね」
「そうそう。今日は縄張り意識の強い人達だったよ」
合同捜査の部隊を見せながら、ユウキが溜息を吐く。
スマホに似た特殊なデバイス。これは防衛軍と言う組織に配られるものだ。
二人共ここに所属しており、激しい戦闘を何度もこなしてきた。
防衛軍は対象への武器攻撃が許された、治安維持部隊だ。
最近は凶悪犯より、人智を超えた敵との相手が多いの。
「どんな任務ですか? 私も協力しますよ」
「帰ってきたばかりで、疲れてんだろ?」
「いや、破壊不足で寧ろ有り余っています」
「そうか。二度と元気にならないでくれ」
ユウキがデバイスを操作して、任務の概要を教える。
とある施設が、焼け焦げた跡が、画像で写される。
「これは防衛軍の研究施設ですね……。研究棟が丸々焦げていますが」
「防火対策がされた建物が、僅か一時間でこうなったそうだ」
「なるほど。確かに"普通の人間"の仕業ではありませんね」
わざわざ侵入をアピールしたいのか。
敷地の真ん中の建物に、被害を出している。
単に防衛軍への嫌がらせではなさそうだと、アリスは思った。
「ここ数日、何件も似たような事件が多発してる」
ユウキは複数の画像を、デバイスに表示した。
四軒もの建物が、焦げ跡になっている。
「真っ赤に燃える犬がどの現場でも目撃されているそうだ。そいつを犯人と見ているよ」
「へえ。軍の実験動物が逃げたのか。異世界からまた魔物でも来たのか」
「あぁ……。そうか。姉ちゃんは知らないんだったね。これは……」
ユウキが説明仕掛けたところで、扉が開いた。
扉から腕だけが飛び出して、クネクネしてる。
「DNAコネクタ関連。そう言いたいんだね?」
少女の声が、部屋の奥から聞こえる。
先ほどアリスが口にした、居候者だ。
「DNAコネクタ?」
「姉ちゃんが研修中に出回り始めた兵器だよ。コイツは……」
「ユウ、ストップ」
ユウキが説明をしようとすると、居候者が止めた。
先ほどと声色が代わり、冷静な感情が薄い声だ。
「君は早く、次の襲撃予測地点に向かった方が良い」
「なにか、分かったのかい?」
「ええ。私の計算によれば、一時間後に次の襲撃が行われる」
会話をしながらも、居候者は部屋から出てこない。
アリスも事情は知っているが、変な光景と思っている。
「座標を送るけど。君の武器は殆ど修理中だったよね?」
「ああ。本当にヤバかったら、姉ちゃんを頼るけど。まずは僕一人で向かうよ」
ユウキは黒いインナーの上に、青いコートを纏った。
これが彼の仕事服であり、戦闘用の私服だ。
「襲撃された場所に共通点があったけど。説明は後で良いよね?」
「ああ。敵を止められるなら、何でも良いよ」
ユウキはヘッドホンを装着した。
ジャズを駆けて、仕事モードに移行する。
「一応カメラつけておくから。姉ちゃんもモニタリング頼む」
「分かりました。私もいつでも出られる様に、待機します」
ユウキが出発した後、アリスは自分のデバイスを置いた。
画面を切り替えて、ユウキのカメラと連動させる。
部屋は変わっていないが、街の実情は変わったらしい。
「ユウなら三十分ほどで到着するでしょう」
「ねえ、恋歌さん。その間に、DNAコネクタって奴の説明をお願い」
居候者。夏樹恋歌に対して、アリスは聞いた。
彼女はユウキと親しい間柄にある、幼馴染だ。
アリスとも強い繋がりを持つ。
「百聞は一見に如かずです。画面を見ながらの方が分かりやすい。ユウ、そこ右」
恋歌もアリスと、同じ画面を見ているようだ。
ユウキに指示を出しながら、犯人の位置を教えている。
恐らく監視カメラの映像で、特定しているのだろう。
「大胆な事に、街中で既にコネクトしています。会ったらすぐ分かるでしょう」
恋歌の指示に従って、ユウキは直ぐにそいつのもとに辿り着く。
アリスも画面を見ながら、分かりやすいの意味を察した。
明らかに異様な者が、ユウキのカメラに捉えられている。
『コイツは驚いた。本当、ファイアードッグだったとはね』
マイクを通して、ユウキの声がデバイスから聞こえる。
彼の言葉通り、路地裏に炎を纏った犬が潜んでいる。
地獄の番犬の様な見た目が、正直な感想だ。
『姉ちゃん、これがDNAコネクタの力だ』
ユウキは炎の犬と対峙しながら、自分の声をかける。
「生物の遺伝子情報を書き換えて、他の動物の特徴を得るもの……」
部屋の奥の恋歌も、解説に加わる。
「この怪物には、人間としての特徴と。犬の特徴が両方備わっています」
「ん? という事は、コイツは人間が変身した姿なのですか?」
「はい。一カ月前から、この街を中心に、この手の怪物が増えています」
アリスが聞いていないので、範囲はまだ狭い方なのだろう。
DNAコネクタ。別の世界なら、動物に変身した人間を生み出すだけなのだろう。
だがこの世界は普通じゃない。全ての人間が特別な遺伝子を持っている。
「恐ろしい兵器ですよ……。誰でも手軽に、街を壊せる力を得られるのですから……」
「防衛軍が本腰を上げる訳ですね。でも今回の敵程度なら……」
アリスは敵を見て、大体強さが分かる。
今回の敵はさほど強くないと判断出来る。
火力は恐ろしいが、一部だけ破壊して逃げているのは本格的戦いを避けているからだ。
『ヘイ、ワンちゃん! 散歩の時間だぜ?』
ユウキは自分に注意を向けるため、挑発をした。
これが人間なら、大体の心理を掴むことが出来る。
この手のタイプなら、絶対に挑発に乗るだろう。
『悪いが帰る場所は、檻の中だぜ』
ユウキが手を前に突き出すと、青い光が飛び散る。
光は鞘に収まった刀に変化して、ユウキの左手に握られる。
彼のメインウェポンである、名前のない刀だ。
『素直なら、首輪だけで済ますぜ?』
ユウキの挑発に乗って、炎の犬が飛び掛かってきた。
顔にカメラが着いているため、表情は見えないが。
きっとユウキはニヤリと笑っているだろう。
『忠告はした。痛い目見ても文句言うなよ?』
ユウキは刀を鞘に収めたまま、突き出した。
刃がカバーされた状態で、炎の犬の頭にぶつかる。
その衝撃で、飛びついた犬は背後に吹き飛ばされた。
『手の内を堂々とする姿勢は嫌いじゃねえが。調子に乗り過ぎだ!』
ユウキは抜刀した。即座に刀を素振りする。
斬撃の軌道に沿って、光の刃が飛ぶ。
斬撃波はまだ怯んでいる炎の犬に、直撃した。
『世の中、上には上がいると学んでおくんだったな!』
炎の犬は、今の一撃で頭が地面に倒れた。
そのまま頭部が動かなくなる。
「楽勝ですね……。まあ、当然でしょう」
ユウキは今まで、何度も強敵を打ち負かした。
不思議なアイテムを使ったとはいえ、素人に今更負けないだろう。
画面の奥のユウキも、拍子抜けした表情をしていた。
だが事態は二人の予想を外れた方向へ向かう。
火球弾がユウキへ向かって、飛んできたのだ。
それも炎の犬とは、別の方角から。
『なんだ? 共犯者でもいるのか? いや、それより……』
「気絶しているはずなのに、コネクトが解除されていない……」
既にアリスより詳しい二人にも、異常事態のようだ。
飛んできた火球弾は、意外にも威力が高く。
地面に着弾すると、大きな爆発を上げた。
爆炎が消えて、周囲を確認すると。
倒れていた犬が、姿を消していた。
『逃げたのか……? でも他に人の気配なんて……』
「あり得ないよ。確かに気絶していたはず……」




