④一夜入魂!
——次の日。
僕達は、病院で手当てを受けた後、強盗を撃退したとして、警察署で表彰される事になった。
金一封は出なかったが、高知のお土産品を沢山貰った。
もちろん、親は心配していた。
とにかく、一日でも早く、家に戻って来いと。
それもあって、僕達は警察が手配してくれたホテルに一泊し、飛行機で帰る事になった。
ありがたい事に、その飛行機のチケットも、警察が用意してくれた。
東京に戻るのが、事件の翌々日という事で、少し遅くなるが、まあ仕方ないだろう。
「俺達、凄え! コンビニ強盗やっつけたぞ!」
和也が、昨日の出来事を思い出し、ベッドの上で飛び跳ねた。
そこは警察が手配してくれたホテル。
僕も和也同様、はしゃいでいた。
二人で調子に乗って騒いでいると、ふと和也が何かを思い出したように、黙り込む。
珍しく、神妙な面持ちだ。
「あれ? どうしたの、和也?」
「なあ圭太、一緒に縛られてる時、お前言ったよな。一度でいいから、俺に認められたいってさ」
「そ、そうだっけ?」
僕は気恥ずかしくて、忘れたフリをした。
「……認めるよ。悪かったな。なんか圭太には、つい上からものを言っちゃうんだよ」
「……えっ」
あの和也が、こんな事を言うとは。
長い付き合いだが初めてだ。
「圭太の文章、だんだん上手くなってきてるよ。頑張ったんだな」
これは、夢だろうか。
耳を疑うような言葉だ。
僕は鳥肌が立ち、目頭が熱くなった。
溢れる涙を見られないよう、顔を背ける。
「泣いてんのか?」と和也。
「べ……別に泣いてないよ」
「とにかく、お前は将来、小説家になる人間だ。その第一歩が、今回のノンフィクション小説なんだ。なあ、今から書こうぜ!」
「今から、ここで? もう夜の十時だよ」
「だって、明日は東京に帰るじゃないか。高知にいる間に書きあげようぜ! まだ興奮冷めやらぬ今! この勢いで、一気に書こうぜ! そして新人賞に応募しようぜ!」
僕は、和也の熱い想いを、受け止めた。
小説には、今この瞬間にしか書けないものがある。
あの激闘を忘れないうちに、熱量を持ってペンを走らせるんだ。
「……分かった!」
僕はリュックに入れていた、原稿用紙を取り出した。
僕が前々から送ろうと思っていた、△△社の新人賞は、四百字詰め原稿用紙で、二十枚から三十枚。
ショートストーリーになるが、初めての応募には、丁度良いだろう。
一夜入魂、一気に書き上げよう!
僕は原稿用紙に、今回のヒッチハイクから始まった高知旅行を、余す事なく書き連ねた。
登場人物である僕達の名前だけは、仮名にしておこう。
岡島圭太である僕は『岡本圭地』とする。
和也は『達也』という名前にした。
時計の針は深夜一時を回り、次に見ると四時を過ぎていた。
和也も一睡もせず、隣で熱心に、原稿を読み返してくれた。
あと少しで完成……というところで、和也の助言が入る。
「強盗との激しい闘いをイメージさせるために、原稿用紙をグシャグシャにしようぜ! 所々、破っておこう。より激しさが伝わるだろ?」
「ダメだよ、応募用紙にそんな事をしたら……」
「いいんだって。応募規約に、グシャグシャにしてはいけません、なんて書いてないだろう?」
「そうだけど……」
「とにかく、お前は執筆に専念しろよ! あと、もう少しだろ!」
「……分かったよ」
僕は再び、強盗との熱い闘いを綴った。
そして最後の一行、……圭地と達也は凶悪な強盗を見事に打ち負かし、高知を後にした……と。
「で、出来たぁ。完成だ!」
精根尽き果てた僕は、ドサッと床に倒れ込んだ。
小刻みに震える右手から、ペンが転がる。
「やったな、圭太」
「……うん」
「これは傑作だ。史上最高の小説だ。題名は『高知奮闘記』にしようぜ! 間違いなく賞を取れるぞ!」
眠りに落ちかけた僕は、最後の力で半身を起こした。
「……賞、取れるかな?」
「取れるさ! あとは沢山貰った高知土産を、同封しておこうぜ。例えば、この鰹」
和也は、真空パックされた袋から、鰹の生節を取り出した。
「鰹を入れるの?」
「そうだよ。封筒を開けた瞬間、鰹の匂いが漂ってみろよ。一瞬で高知に来たような錯覚に陥るだろ? 選考委員も、この作者は只者では無いって、一目置くぜ!」
「……そうかな? 魚なんか一緒に封筒に入れていいのかな?」
「だって応募規約に、魚を入れてはいけません、なんて書いてないだろう?」
「……そうだけど」
「大丈夫だって。明日の朝イチ、切手を買ってポストにぶち込もうぜ! 高知から送ったとなれば、よりリアルだろ?」
「……まあ確かに」
「おっ、見ろよ圭太。もう朝だぜ……」
いつの間にか、外は明るくなり、カーテンの柄模様が浮き彫りになっていた。
和也は、そのカーテンを開けた。
「朝日って、こんなに綺麗なんだな、圭太……」
「……うん」
僕は朝焼けの眩しさに、目を細めた。
オレンジがかった金色の光は、小説を書き上げた僕達を、祝福しているようだった。
つづく……
(次回、完結)




