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第7話 襲撃した

 月明かりが静かに小屋を照らしている。わたし達はまず、手前側の小屋に奇襲を仕掛けることにした。


「皆さん、準備はいいですか?」


 わたしの問いかけに、デスケとカクロスが静かに頷いた。ぶーちゃんが鼻を鳴らし、その巨体を低く構える。


 わたしはその頑丈な背中によじ登り、しっかりと跨った。硬質な体毛に覆われた首筋を優しく撫でると、力強い鼓動が掌に伝わってくる。

 


 小さく息を吸う。氷のように冷たい空気が肺を満たし、高鳴っていた心臓が少し落ち着いた。


「ぶーちゃん、お願いします!」


「ぶもっ!」

 

 短い応酬を合図に、世界が動き出す。わたしを背に乗せたぶーちゃんが、凄まじい力で大地を蹴った。

 

 作戦の成否は、最初の数秒にかかっている。隣の小屋に気づかれることなく、1つ目の小屋を制圧することができるか。それが全てだ。


 

 想像以上の加速に慌てて背中にしがみつく。景色が暴力的な速度で後方へ吹っ飛んでいく。思っていた10倍は怖い!


「う、うわあああああああああああ!」


 思わず絶叫が漏れる。だが、幸いにもわたしの情けない悲鳴が誰かの耳に届くことはなかった。

 

 風切り音も、大地を踏み砕く蹄の音も、情けない悲鳴も聞こえない。全てが水底に沈んだかのような絶対的な静けさ。


 カクロスの『静寂(サイレント)』だ。風を緻密に制御し、一定範囲内の音の伝播を完全に遮断する上級魔法。


 発動中は戦闘に参加することはできないが、これで隣の小屋に戦闘音が漏れる心配はない。


 

 ぶーちゃんが最高速度に達する。巨岩のような体躯が砲弾となって小屋へと迫り――そして、何の音もなく壁に激突した。


 世界が震えるほどの凄まじい衝撃。脆弱な木造の壁が内側に向かって派手に砕け散り、木片が宙を舞う。壁際にいた男が紙屑のように吹き飛んでいく。


「よし……!」

 

 わたしはぶーちゃんから飛び降りると、吹き飛んだ男に駆け寄り、その茶色い髪に触れた。


「わたし達と共に、邪神ノクヴァルを信仰しましょう!」

 

 わたしの声は誰の耳にも届かない。しかし金色の光が男の体を包み込み、苦悶に満ちた顔が穏やかなものに変わった。すかさず男の口にポーションを流し込む。


 

 人数が圧倒的に足りない。まずは味方を増やさなければ。

 顔を上げ、部屋の中を確認する。残りは……6人か。

 

 魔術師たちが驚愕の表情でこちらを見ている。何かを叫んでいるが、やはり声は聞こえない。パニックになる男たちの頭上から、無数の炎の矢が降り注いだ。


 小屋の外に潜むデスケの援護射撃だ。意識外からの攻撃。直撃を受けた2人が苦悶の表情を浮かべて床に崩れ落ちる。たんぱく質の焼ける嫌な匂いが鼻をついた。

 

 残りの魔術師は咄嗟に魔力障壁(プロテクション)を展開し、炎の矢を弾き返す。しかし、反撃する隙はない。

 

 ぶーちゃんが声なき咆哮を上げ、身体を回転させた。遠心力で薙ぎ払われた巨大な牙が半透明の障壁を突き破り、そのまま男の横腹を打ち据える。


 体がぐしゃりと潰れ、壁を突き破って吹っ飛んでいった。


 

 残るは3人。彼らは恐怖に顔を引き攣らせながらもぶーちゃんから距離を取ると、魔力を練り始める。


 わたしは咄嗟に声をあげようとして、この空間では『声を聞いた相手に好意を植え付ける』ことが出来ないことに気づいた。冷や汗が頬を伝う。


 

「――身構える必要はありません。あなた達は今から、わたしの仲間になるんですよ」


 それでも話しかけた。声は届かなくても、敵の注意をこちらに向けることはできる。


 『洗脳』スキルは、わたしの目を見るだけでも効果を発揮する。即座に好意を植え付けることはできなくても、相手を惹きつけ、思考に隙を作る程度の効果はある。



 胸の前で手を組み穏やかな笑みを作るわたしに、彼らが怯んだような表情を浮かべた。

 

 3人が杖をわたしに向ける。氷の槍、雷の弾丸、闇の刃が凄まじい速度で放たれた。


 ああ、これは勝ったな、と思った。3人共わたしの目を見ている。

 


 ――だから、視界の端で立ち上がった茶髪の男の様子がおかしいことに、彼らは気づけなかった。


 杖先から放たれた3つの魔法が、突如現れた分厚い岩の壁に阻まれ霧散する。


 ポーションが効いたのだろう。茶髪の男は軽やかな動きでわたしを庇うように前に進み出ると、地面に拳を叩きつけた。

 

 瞬間、敵の魔術師3人の足元が陥没し、そこから現れた巨大な岩の腕が彼らの体を掴んだ。


 岩の腕は天井を突き破って空へと伸びていき、そのまま反転。加速をつけて彼らを床に叩きつけた。


 ピシッと、壁に亀裂が走る。柱が折れ、天井が崩れ落ちてきた。衝撃により小屋が倒壊を始めたのだ。


 

 潰れる!!


 わたしはぶーちゃんに飛びつくと、半ば引きずられるような形で外へと脱出した。


 限界を迎えた小屋が瞬く間に崩壊し、石や木片が折り重なっただけの瓦礫の山へと変わる。


 息を落ち着かせて目の前を見ると、無惨に崩れた木材の隙間から血まみれの手が力なく突き出ていることに気づいた。指先がぴくりと動く。

 

「あ……魔術師たちが生き埋めに……」


 

 ……これ、生きてるよね?

お読みいただきありがとうございます!

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