表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/50

第39話 12本の黒い触手

<バロミアの街の領主:ダグラス視点>


「それで、今月の稼ぎはどうなっている? さっさと言え」


 執務室の重厚な椅子に深く身を沈めたまま、俺は目の前の男に問いかけた。


「はっ、はい……。それが……」


 部下はだらだらと脂汗を流し、顔を引き攣らせながら言葉に詰まる。その無様な姿が俺の神経を逆撫でした。


「なんだ、歯切れが悪いな。さっさと報告しろと言っているんだッ!!」


「も、申し訳ございません! 今月の収益は……ゼロ、でございます……」


「は……?」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。俺は眉を顰め、聞き返す。


「今、何と言った? お前は頭がおかしいのか? それとも俺の耳がおかしくなったのか? あのスライム狂いの錬金術師からは、順調に計画が進んでいると報告があったはずだろう!」


 そうだ、計画は完璧だったはずだ。


 まず泉にポイズンスライムの毒を混ぜ、川を通じて街全体に拡散させる。街の連中が体調不良を訴えたところで、一時的に症状を軽減させるだけの低品質なポーションを売り出す。


 病に怯えた愚民どもは永続的にポーションを買い続け、俺は莫大な富を得る。そのはずだった。


「そ、それが……彼女からの連絡が途絶えました。おそらくは泉に現れたというヒュドラの群れに襲われ、死亡したと思われます……」


 部下が震え声で答える。その言葉で、俺は街で耳にした奇妙な噂を思い出した。


 ――泉に現れた100匹のヒュドラの群れを、ノクヴァル教の教祖が素手で殴り殺した。


「馬鹿馬鹿しい。ただの噂だ。15歳の小娘が、神話に出てくるような怪物を100匹も倒せるものか」


 口ではそう吐き捨てたが、嫌な汗が背中を伝う。流石に誇張しているはずだ。だが、話半分に聞いたとしても50匹は殺したということになる。


 王国軍ですら全滅しかねない数のヒュドラを、たった1人で? どんな化け物だ、クソッ。


 

 いや、それよりも不可解なことがある。あの錬金術師が拠点にしていた工場には、高度な隠蔽魔法がかかっていた。


 ヒュドラがいかに強力な魔物といえど、隠蔽魔法を破って工場の存在に気づくことはできないはずだ。


「まさか……あの錬金術師もノクヴァル教の教祖に消されたのか……? ヒュドラを討伐するついでに……?」


 ――バゴオォォォン!!


 俺は怒りに震える拳で机を殴りつけた。重厚な木の机が真っ二つに割れ、破片が床に飛び散る。


「どこまで俺の邪魔をする気だ……忌々しい女狐め……!!」


 奴らの妨害はこれだけではない。街の住民を誘拐し奴隷として売り飛ばす計画も、ノクヴァル教の信者になった山賊どもに何度も妨害されている。


 最初は奴隷商人につける護衛の兵士を増やし、計画を続行しようと試みた。だが状況は好転するどころかむしろ悪化の一途を辿るばかり。


 あろうことか、山賊に捕まった兵士たちが裏切り、俺の部下である奴隷商人を襲い始めたのだ。


 兵士を増やせば増やすほど敵の戦力が増えていく。これでは勝てるわけがない。


 今や俺が自由に動かせる兵士の数は以前の6割にまで減っている。これ以上計画を続行しても、教団に寝返る兵士の数が増えるだけだ。


「明らかにおかしいだろ……ッ。人の心でも操っているのか?」


 ノクヴァル教の内情を探らせるために腕利きの兵士を何人も教会に送り込んだが、誰一人として帰ってくることはなかった。


 誰よりも金に汚い部下に税金を取り立てに行かせたが、結果は最悪。数日後に辞表を持ってきた彼は別人のように高潔な人物になっており、溜め込んでいた金を全て教団に寄付していた。


 背筋がゾッとする。奴らは人の心を弄ぶ悪魔。この国のため、街のために身を粉にして働く俺を陥れようとする悪の教団だ。



「俺はずっとこの街に尽くしてきた……! それなのに何故だ……なぜ俺を狙う……」


 この街の住民が貧困に喘いでいるのは、20年前の戦争が原因だ。


 商人から成り上がり、貴族の地位を手に入れこの街の領主になった俺は、前領主の無能な政治の尻拭いで戦争に巻き込まれ、屈辱的な敗北を味わった。


 俺の采配が劣っていたわけではない。ただ運がなかった。それだけだ。


 結果、領地こそ奪われなかったものの、20年もの間賠償金を払い続けるはめになった。

 

 重税のせいで民は次々と街を離れ、残った愚民どもからは無能と罵られる。


「それでも何とか街を存続させ、賠償金を払い終えることができた。俺の手腕のおかげだろうが」


 役立たずの人間を捕らえ、奴隷として売っていたのも、疲弊したこの街を救うために必要な正義の行いだ。


 それを、どこから湧いてきたのかも分からんカルト宗教の分際で邪魔をするなど……!

 もはや我慢の限界だ。俺がどれだけ我慢したと思っている。


「りょ、領主様。いかがいたしましょう……?」


 部下が俺の顔色を伺いながら尋ねる。


「いかがする、だと? 黙って突っ立ってるだけの無能にできることなど無いだろうが!!」


 そうだ、元はといえば、こいつが無能だったせいでこうなったのだ。こいつの報告が遅かったせいで俺の完璧な計画に綻びが生じた。


 

 俺は自分の体から1()2()()()()()()()を伸ばし、部下の体を絡め取った。


「ひっ……! お、おやめください、領主様!」


「こうなっては、お前のような穀潰しを養っておく余裕はない。死ね、無能が」


 男が悲鳴を上げる間もなく、触手は彼の四股をバラバラの方向に引きちぎった。風船が破裂するような音と共に、人間の形を失った血まみれの肉塊が床に散乱する。



 1人きりになった執務室で、窓の外に広がる街並みを見下ろした。街の至る所に少女の銅像が建てられている。


 誰に許可を取ってこんなことを……。


「教祖リオラを捕らえ、信者どもの眼前で処刑する。貴様ら悪の教団を根絶やしにしてやる……!」

 

 慎重に事を運んだつもりが、かえって状況を悪化させてしまった。これ以上時間をかければこちらの戦力は奴らに奪われ続ける。あのポーションは未だ不完全だが……戦力に大きく差がある以上、使わざるを得ないだろう。

お読みいただきありがとうございます!

もし少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、下にある「⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎」マークから作品の評価や、ブックマークをしていただけるとすごく嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ