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第29話 錬金術師

 翌日。ギルドマスターであるオルジフの案内に従い、わたし達は街の東側へと向かった。


 病人たちが集められていたのは、かつて聖導教の教会として使われていた、大きな建物だった。


 扉を開けると、むわっとした熱気と、かすかな呻き声が聞こえてくる。ずらりと並べられた簡素な寝台の上で、およそ300人ほどの人々が苦しげに身をよじっていた。


「想像以上に感染者が多いですね……」


 思わず漏れたわたしの声に、オルジフが悔しそうに顔を歪めた。


「ああ、2週間以上苦しんでる奴もいる。完治したって奴は、まだいないな」


 これは早くなんとかしなければ。



 すると、ラモーナが白い布と水桶を持って病人の前に歩み寄った。


「『浄化(クリーン)』! よし……。体、拭くね?」


「ああ、すまない……」


 彼女は浄化魔法をかけた布を水桶に浸し、病人の体を拭き始める。コニーはその傍らで病人の体を優しく支え、ラモーナの補助をしているようだ。


 一方、シャノンはオルジフから受け取ったポーションを持参した機器で分析し始めた。


 おそらくは領主お抱えの錬金術師が作ったという、この風邪に唯一効くとされているポーションだろう。彼女は真剣な眼差しで緑色の液体を覗き込んでいる。



 わたしも自分にできることをしないとな。病人の1人に近づき、声をかける。


「今からわたしのスキルで、あなたを治療します。少しだけ協力していただけませんか?」


 男は虚ろな目でわたしを見上げた。


「協力……? ゴホッ、この病気が治るなら嬉しいが……。何をすればいい? 俺でもできることか?」


「ええ、難しいことではありません。『病気に負けない丈夫な身体になりたい』と願ってください。それだけで構いません」


「ああ、丈夫な身体だな。病気に負けない……ゲホッ、健康な身体……」


 途切れ途切れに言葉を紡ぐ男の手を握る。すると、彼の体から金色の光が溢れ出した。



 男の顔色が目に見えて良くなっていく。そして、今まで寝ていた男がむくりと身を起こした。


 ……成功した?

 


「教祖様、ありがとうございます……! 身体が、嘘のように軽い……! ゲホッ、ゴホッ」


「あれ? 治ってないですか?」


 勢いよく咳をする男の額に触れると、その体は焼けるように熱かった。咳も一向に止まる気配はない。


 生命力が強化されただけで、病気自体は治ってない……という感じか。



 その後もわたしは1人ずつ洗脳し、300人全員を信者にして強化した。結果は皆同じ。起き上がれるようになり、軽めのご飯を食べることができる程度には回復したが、熱と咳は治る気配がない。


「ゲホッ。でも、だいぶ体は楽になりました。教祖様、ありがとうございます」


 病人たちは口々に感謝してくれるけど、わたしは少し落胆していた。


 これでは根本的な解決にならない。いつ症状が悪化するかも分からないし、病気の原因を突き止めてちゃんと治したいな。



「……分かりました」


 持参した機器を片付けながら、不意にシャノンが呟いた。いつの間にかポーションの分析を終えていたようだ。


 わたし達は全員で集まり、シャノンの話を聞いた。


「このポーションですが、病気を治す薬ではありません。毒の効果を一時的に抑制するためのものです」


「毒……!?」


 室内に緊張が走る。


「ここにいる人は病気ではなく、毒によって苦しんでいたということですか?」


 わたしの質問に、シャノンはこくりと頷いた。


「その可能性が高いですね。ポーションの成分と、症状の進行が緩やかなことを考えると、蓄積性のある毒を少しずつ摂取させられたと見て間違いないでしょう」


「でも、誰がそんな酷いことを……?」


 ラモーナの体がぶるりと震える。一方のコニーは表情一つ変えずに、鋭い口調で言い放った。


「毒を飲ませて得をする人、と考えると領主お抱えの錬金術師が怪しいわよね。ポーションを独占販売して大儲けしているわけだから」


 確かに、現状では錬金術師くらいしか候補がいない。自分で毒を飲ませて、それに効果があるポーションを売り出す。マッチポンプというやつだろうか。


「シャノン、解毒薬は作れますか?」


「難しいと思います。一般的なポーションなら作れますが……薬学は専門ではないので」


 じゃあ、錬金術師を洗脳して解毒薬を作ってもらうしかないか。


「その錬金術師はどこに住んでいるのでしょうか。やはり、領主の屋敷ですか?」


「いや、あの錬金術師は領主のお抱えとはいっても、領主の屋敷に住んでいるわけではないんだ。資金提供を受けているだけでな」


 オルジフは残念そうに首を振った。


「錬金術師はどこからともなくやって来て、市場でポーションを売り、またどこかへ去っていく。いつもフードで顔を深く覆っているから素顔を見た者もいない、謎の人物だ」


 怪しすぎる……。絶対犯人でしょ。

 皆と顔を見合わせ、頷き合う。全員同じ意見のようだ。


「それならまずは、その錬金術師の拠点を見つけ出す必要があるわね」


 錬金術師がいつ市場に現れるかも分からない。コニーの言う通り、まずは居場所を突き止める必要があるだろう。


「手分けして情報を集めましょう。街の中に、錬金術師の居場所を知ってる人がいるかもしれません」


 シャノンが淡々と言った。


 うーん……。できることなら皆で一緒に行動したかったけど、300人の命がかかっているし、仕方ないね。


 わたしは少し悩んでから口を開いた。


「では、今から聞き込みを開始して、14時にここに戻ってきましょう。オルジフは病人たちの様子を見ていてあげてください」


「ああ、分かった。俺も何か分かったら連絡する」


 こうして錬金術師の正体を暴くため、一時的に解散することになった。

お読みいただきありがとうございます!

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