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第26話 教会が完成した

 まだ目を覚まさないコニーを背負い、洗脳した山賊と奴隷の少女たちを引き連れて街の門をくぐる。


「……ん?」


 貧民窟の広場が見えた瞬間、目に入った異様な光景にわたしは思わず足を止めた。


 広場の中央にいたのは、首から下を地面に埋められた山賊たちだった。その数はざっと見て40人ほど。


「うぅ……痛ぇ……」


 身動き一つ取れずに苦悶の声を上げている山賊の前には、見慣れた2つの影。シャノンとネイトがいた。


「リオラ様! それに、お姉ちゃん!」


 こちらの姿に気づいたネイトが、心配そうな表情で駆け寄ってくる。わたしはゆっくりとしゃがみ、背中からコニーを降ろした。

 

 ラモーナの治療とポーションのおかげで彼女の傷は既に治り、今はすうすうと穏やかな寝息を立てている。


「大丈夫ですよ、ネイト。コニーは無事です。少し疲れて眠っているだけですから」


「よかった……。本当によかった。教祖様、お姉ちゃんを助けてくれて本当にありがとう!」


 ネイトは目に涙を浮かべながら深々と頭を下げた。そして崩れるようにその場に座り込むと、コニーを優しく抱きしめる。


「夜中に変な人たちが突然家に入ってきて……僕、いきなり殴られたんだ。目が覚めたらお姉ちゃんがいなくなってて、貧民窟の皆で探してたんだよ。そしたらリオラ様も行方不明だって聞いて、すっごく心配で……!」


 しゃくり上げながら必死に訴えるネイトの頭を優しく撫でる。すると、様子を見ていたシャノンがこちらへ近づいてきた。


「だから言ったでしょう、ネイト。彼女は必ずコニーを連れて、無事にここまで帰ってくると。貴方があまりに騒ぐものだから、私まで落ち着かなかったんですからね」


 シャノンもネイトの頭に手を置き、わたしと一緒にわしゃわしゃと撫で始める。彼女の左腕のブレスレットに目をやると、埋め込まれた宝石の7割ほどが黒く濁っていた。


 ネイトの涙が止まったのを確認し、わたしはシャノンに尋ねる。


「もしかしてシャノンは、わたしが山賊のアジトに行ったことに気づいていたんですか?」


「教祖リオラが姿を消したと聞いて、すぐにピンときました。貴女は誰にも告げずに、たった1人でコニーを助けに向かったのだと」


「そ、そうですか……」


「はい。貴女が誰かのために危険を顧みない方だということは、私が一番よく知っていますから。……弟子を助けてくださり、本当にありがとうございます」


 シャノンは熱のこもった声でそう言うと、静かに頭を下げた。



 き、気まずい……!


 彼女のまっすぐな目がわたしの心を撃ち抜いてくる。たまたま山賊のアジトを見つけて、成り行きでコニーを助けただけですとは絶対に言えない雰囲気だ。


 しかも、わたし自身はほとんど何もしてない。触手やラモーナが山賊を倒しているのをただ見ていただけだ。


 洗脳しかできないわたしは、戦闘には不向きなのだ。


 

 だがそんなわたしの内心に気づくことなく、シャノンはなおも続けた。


「私は貴女が心置きなく動けるよう、貧民窟に侵入してきた山賊たちを片付けることに専念したんです。貴女がいない間にこの街を荒らされては、たった1人で危険に身を投じた貴女に申し訳が立ちませんから」


 うぅ、もうやめて!

 これ以上わたしを美化しないで!


 結果的にはちゃんと助かったんだから、別に良いよね? うん。これでこの話はおしまい。

 


 罪悪感に胸を痛めつつ、わたしは曖昧な笑みを浮かべて話題を変えた。


「それにしても、シャノンが待っていてくれて嬉しいです」


 数時間離れていただけなのに、シャノンと会えない時間がとても長く感じた。少し遠くまで出かけると、待ってくれている人のことを思い浮かべてしまうな。


「べ、別に貴女を心配して待っていたわけじゃありませんよ。山賊を引き渡すために待っていただけです」


 早口でまくしたてる彼女の頬がほんのりと赤くなっている。


「ふふ。でも、日が昇るまでずっと待っててくれたんでしょう?」

 

 わたしが微笑んでいると、シャノンは照れ隠しのようにぷいっと顔を逸らした。


「……貴女がいないと、調子が狂ってしまいますから。……だから、その。貴女が無事に帰ってきてくれたのは……嬉しい、です」


 最後は消え入りそうな声で、それでも彼女は幸せそうに言った。


「お帰りなさい、リオラさん」


「ええ。ただいま戻りました、シャノン」


                 △▼△▼△▼△

 

 そしてわたし達はまた、日常へと戻った。シャノンが捕まえてくれた人も合わせて、山賊の数は120人ほど。


 彼らは邪神の森の地理に詳しく、これまで誰も知らなかった山菜の群生地や美味しい木の実がなる場所を次々と教えてくれた。


 さっそく収穫した食材で炊き出しを行うと、長蛇の列ができるほどの大好評だった。

 

 信者が増えたことで最近は活動の規模も大きくなり、貧民窟だけでなくバロミアの街の中心部も含めた合計5箇所で炊き出しを行っている。


 新エリアでの洗脳も順調に進み、この街の全住民がノクヴァル教の信者になる日もそう遠くはないだろう。



 そして更に嬉しい驚きもあった。山賊の親分、アルフが教団のためにとずっしりと重い革袋を差し出してきたのだ。


「教祖様。先日畑の野菜を商人に売ったところ、これだけの儲けが出ました。どうぞお納めください」


 革袋の中には、目も眩むような金貨の山。本当に野菜を売っただけでこんな額になるのか?と疑いたくなるような量だった。


「いつの間にか畑の野菜が無くなってるとは思っていましたが……アルフが売ってくれてたんですね。ありがとうございます」


 わたしの知らないところでこんな気の利いたことをしてくれるとは、親分というだけあって頼りになるなあ。


 山賊たちが善良な信者になったことで、これまで彼らに襲われ街に入れなかった商人たちもこの街を訪れるようになった。


 そのおかげで、街は以前とは比べ物にならないほど活気づいている。


 人が増え、物が流れ、そしてお金が動く。このタイミングで纏まったお金が手に入ったのは、これ以上ない幸運だった。


 さて、まずは何を買おうかな。

 ここ最近パンが食べられてなかったから小麦を買いたいし、セロリやメロンの種を買って畑を充実させるのも良い。


 あれこれと思いを巡らせるのは、とても楽しい時間だ。


 


 そんな日々が続いていた、ある晴れた日のこと。

 ついにノクヴァル教の教会が完成した!!


「おお……!」


「なんという荘厳さだ!!」


 わたしの後ろにはいつの間にか集まった信者たちがずらりと並び、目を輝かせながら教会を見つめている。


 貧民窟の中心にどっしりと構えるその教会は純白の大理石で形造られ、太陽の光を浴びて宝石のように美しく輝いていた。


「皆さん。今日からここが、わたし達の拠点です。何か心配事や相談があったときは、この教会で気軽に声をかけてくださいね」


 集まってくれた皆に微笑みかけると、地鳴りのような歓声が上がった。


「教祖様、こちらへ! 中をご覧ください!」


 建築に携わった信者たちに促され、教会の中へと足を踏み入れる。


 案内されるままにいくつかの部屋を見て回ると、大人数で食事ができる食堂や集会所、懺悔室、果ては大浴場まで完備されていた。


 どの部屋も美しい装飾が施され、華やかさと同時に温かみのある雰囲気が漂っている。そして2階に用意されたわたしの私室は、息をのむほど贅沢な空間だった。

 

 床一面にふわりと柔らかな絨毯が敷かれ、中央には天蓋付きの大きなベッド。その上には真っ白な羽毛布団が重ねられている。


 さらに繊細な彫刻が施された机や、巨大な鏡のついたドレッサーなどが並び、貴族の令嬢の部屋かと見間違えるほどの優雅さだ。


「こんな素敵な部屋にわたしが住んでいいんですか?」


「もちろんでございます、教祖様! あなたにこそ相応しい部屋です!」


 胸の奥からじわりと熱いものが込み上げてくる。数ヶ月の野宿生活を乗り越え、ついに自分の部屋を手に入れることができた!



 そして最後に案内されたのが、教会の中心となる礼拝堂だった。


 職人たちが丹精込めて作った重厚な両開きの扉を開くと、目に飛び込んできたのは壁一面に嵌め込まれたステンドガラスが放つ幻想的な輝きだった。


 降り注ぐ光が色とりどりのガラスを通過して、大理石の床に七色の模様を描き出している。


 だが。


「……え?」


 わたしは凍りつき、その場で足を止める。

 

 四方を囲む巨大なステンドガラスに描かれているのは、桃色の髪と赤い瞳を持つ、修道服の少女――紛れもない、わたし自身の姿だった。


 さらに視線をずらすと、礼拝堂の至る所に大小様々なわたしの像がこれでもかと置かれている。


 祈りを捧げるわたし、本を読みながら難しそうな顔をするわたし、気持ちよさそうに昼寝するわたし、微笑みながら手を差し伸べるわたし……。


 そして極めつけは正面の祭壇に鎮座している、天井に届きそうなほど巨大なわたしの像だった。


「こ、これは一体……何ですか……?」


 めまいを覚えながら尋ねるわたしとは対照的に、信者たちはうっとりとした表情でわたしの像を見つめ、祈りを捧げている。


「ああ、なんと美しい……」


「これぞ我らが救世主。なんと神々しいお姿だ……!」


 

 羞恥心で顔から火が出そうになる。360度、どこを向いても自分。こんな状況で落ち着けるわけがない。


 

 というか、そもそもおかしい。ここはノクヴァル教の教会のはずなのに、なぜ邪神ノクヴァルの姿がどこにも見当たらないのだろうか。


 ノクヴァルの姿を知っているのはわたしだけだから、作りようがなかったのかもしれないが……言ってくれたら教えたんだけどな。


 邪神ノクヴァルは、黒髪ロングのロリ美少女だよ。



 しかし、やはりこの異様な状況に異を唱える者もいるようだ。山賊たちが不満そうに声を張り上げた。


「おい、何か足りねえと思わないか?」


「ああ、一番大事なものがねえじゃねえか」


 そうだそうだ、言ってやれ。ノクヴァル像が足りてないぞ。


「俺たちを完膚なきまでに打ちのめし、そして新たな道を示してくださった、『全身から禍々しい触手を出す教祖様』の像が足りてねえだろうがよぉ!」


「その通りだ! あの触手こそが、教祖様の力の本質のはず!!」



 ……え?

 聞き間違いだろうか。


 山賊たちの言葉に、他の信者たちも困惑し始める。


「しょ、触手……とは何だ? 我々は存じ上げないのだが……」


「だったら教えてやる。教祖様はな、修道服から6本の触手を出し、それを自在に操る力を持っているんだ。その触手に殴られて気絶し、次に目を覚ましたとき、俺は教祖様に忠誠を誓っていた!」


「な、なんと……教祖様にそのような力が……! よし分かった。さっそく製作に取り掛かろう。その触手の具体的な形状を教えてくれるか?」


「おう、もちろんだ! 最高の教祖様像にするぞ!!」


 信者たちはあっという間に意気投合し、触手のデザインについて熱く語り合い始めた。どうやら彼らの製作意欲に火がついてしまったようだ。


 まあ、山賊たちが他の信者と馴染めたようで何より……なのかな?


 無理やり自分を納得させていると、大聖堂の扉からゾロゾロと新しい一団が入って来た。


 その顔ぶれには、シャノンや山賊たちと……それから見覚えのない人も混ざっていた。


 一体誰だろう?

お読みいただきありがとうございます!

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