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第19話 無限キュウリ

 数分後、目の前の畑には色とりどりの野菜が実っていた。キュウリにパプリカ、トマト、ナスなどその種類は多岐に及ぶ。


 流石に野菜が意識を持って動き出すようなことはなかったが、目の前で野菜がぐんぐんと育っていく光景は、あまりにも異様だった。


 ただ一つ気になることは――。


「これ、食べれるんでしょうか? 見た目は普通の野菜ですが……」


 スキルで育った野菜、食べるのがちょっと怖いんだよね。


 わたしのスキルは信者の能力を劇的に強化するが、その中には力が強くなったりスリの腕が上達したりなど、平和的とは言いきれないようなものも多い。


「もし、野菜の中に含まれていた僅かな毒素まで強化されていたら、大変なことになってしまいます」


 考え込むわたしを見て、シャノンは不思議そうに首を傾げた。


「心配する気持ちも分かりますが、別にただの野菜でしょう? そこまで神経質にならなくても大丈夫だと思いますが」


「それはそうなんですが、万が一ということもあります。わたしのせいで信者の方が毒に苦しんだりしたら……」


 ジャガイモの中に含まれるソラニンやトマトに含まれるトマチンなど、毒となる成分が微量に含まれている野菜は意外と多い。

 

 わたしのスキルで強化されたら、取り返しのつかないことになる可能性もあるのだ。


「では、私が毒味役を務めましょう。真理の探究に犠牲はつきものですし、まずは食べてみないことには始まりません」


 シャノンはトマトをプチっともぎ取り、何の躊躇いもなく口に入れた。


 ぶーちゃんのことはあんなに怖がってたのに、毒味は平気なのか……。


「……っ!」


 もぐもぐとトマトを咀嚼していた彼女の動きが、ピタリと止まる。その美しい水色の瞳がカッと見開かれた。


「こ、これは……っ! 私の知っているトマトではありません!」

 

 まさか、本当に毒が……? わたしの悪い想像が当たってしまったのだろうか。


「シャノン、大丈夫ですか!? 今すぐ吐き出してください!」


「いえ、そんなことできません……! これは私が今まで食べてきたトマトの中で、一番美味しいです!!」


 

「……え?」


「信じられないほどの甘みとほのかな酸味、そして瑞々しさです! まるで果物のようですよ!」


 シャノンは興奮気味に次のトマトを収穫し、頬張り始める。どうやらわたしの心配は杞憂に終わったようだ。


 とはいえ、全ての野菜が安全だとも限らない。信者の皆に食べてもらう前に、自分で食べて確かめたほうが良いだろう。


 わたしは意を決してキュウリをもぎ取ると、ガブリと齧り付いた。


「――――っ!」


 ザクッという歯応えと共に爽やかな風味が口の中いっぱいに広がった。さっぱりしていて、瑞々しくて……。


「とても美味しいですね!」


「はい、驚きました。こんな短時間でこれほど美味しい野菜を作るとは……。貴女のスキルは本当に規格外です」


 安堵と嬉しさが混ざり合って、目が合った瞬間に2人して笑ってしまう。


 それからわたし達は次々と野菜を収穫し、その場で味わった。ぶーちゃんも前足で土を掘り、丸々と太ったジャガイモを食べ始める。



 一通り味見を終えた頃、わたしはシャノンに尋ねた。


「シャノンは、何か好きな野菜はありますか?」


「私ですか? そうですね……。ここにはありませんが、セロリが好きです」


「セロリですか。少し珍しいですね」


 どちらかというと、苦手な人が多いイメージだ。シャノンはこくりと頷き、恥ずかしそうに答える。


「あの独特な風味とシャキシャキとした食感が好きで……。子どもの頃は、セロリしか受け付けない時期もあったほどです」


「ふむ。それはかなりの偏食ですね」


「はい。カレーに入っているニンジンをこっそりセロリと交換したり、誕生日ケーキの苺の代わりにセロリを載せてほしいとお願いして先代の指導者を困らせたり……。今思えばどうかしていました」


「それはもう、セロリの妖精か何かに取り憑かれていたのでは……?」


 微笑ましいエピソードにくすくすと笑っていると、ふと視界の端に赤い色が映る。トマトだ。先ほどわたし達が食べ尽くしたはずのトマトが、また実っていた。


「あれ? このトマト、シャノンが収穫したはずですよね」


 まさかと思ってキュウリに目をやると、蔓の先から新しい実がニョキニョキと生えてくるところだった。


 何が起きているのか分からず、わたしはもう一度そのキュウリを蔓からちぎった。すると、まるで時間が巻き戻るかのように瑞々しいキュウリが一瞬で実った。念のためもう一度収穫する。また生えてくる。


 シャノンが信じられないといった様子で口を開いた。


「まさか……もぎ取った瞬間にまた生えてくる……? これでは、無限に収穫できるのでは……?」


「これなら、皆にお腹いっぱい食べてもらえますね!」


 笑顔になるわたしに、シャノンはどこか引きつったような表情で首を振った。


「そういう次元の話じゃないです! これは一国の食糧事情を根底から覆せる、とんでもないことですよ」


 難しいことは分からないが、美味しい野菜が沢山食べられれば、世界から争いが減ることは確かだ。


 次はシャノンのためのセロリと……それからメロンを植えよう。

 わたしが食べたいわけじゃないよ。

お読みいただきありがとうございます!

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