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幕間 666の悪魔(スカイ視点)

 久しぶりの勝ち戦の夜。むつみあった後、レベッカがすでに隣で寝息を立てている。俺はぼんやりと自身の手を見る。手は物理的には汚れていない。だが、分かる。俺の手はもう血まみれだ。


  今日までに数百人、死んだ。名前も、顔も、全部覚えてる。


 ある子は敵に撃たれ、ある子は爆撃でバラバラになり、また、ある子は逃げようとして督戦隊に撃たれた。


 俺自身の手で、死刑判決を……懲罰部隊に放り込んで最前線で使いつぶした子もいる。


  けど……泣くのは全て終わってからにしよう。俺が泣いたら部隊が崩れる。


 俺に着いてきた奴だけが、生き残ってる。


  それは偶然じゃない。俺に従順で、有能で、周囲との和を乱さない利口な奴を優先して生かしてきた。


 可愛いだけで、反抗的だったりやる気の無い連中を生き延びさせられる程、俺の能力は高くない。


 ……今残っている彼女達は俺に従うという『正解』を選んだ。だから、俺はこれからも『正解』でなきゃいけない。


「全員は救えない」


 ぽつりと呟く。


  これは戦争じゃない。この世の地獄だ。女子中高生の学徒兵部隊。そんなものが誰も反対しない、出来ないで公然と採用されてしまう時点で、この国はもう全員狂ってる。


  そんな狂った大人達によって作られた鳥篭の中に入れられた、一個大隊約1000人の少女達を全員を生き残らせることなんて出来るわけがない。だから、最初に戦死者が出た時、選んだんだ。


 ――守る順番を。……低い順に切り捨てていった。


 レベッカ。横で眠る最愛の幼馴染。


  お前だけは、絶対に守る。


  お前の笑顔がなきゃ、この大隊は軍じゃなく地獄になる。


  ……俺も、まだ人間でいられる。


 …………その分、苦労と悲しみばかり背負わせている。


 なんとまぁ自分勝手な男だろう。……だが、彼女に甘えっぱなしな事は俺自身が一番分かっている。


 アリス。


  正直、お前が一番危ない。俺の弱さに気づいてる。獣性を知って肯定してくる。


 お前の企み……俺がレベッカを捨てたら、しれっと自分がその位置につこうとしてる事くらい分かっているぞ?


 そうはさせない。それに、そんな気の長さがあるんだ。お望み通り、死ぬまで俺のわがままに付き合わせてやるよ。


 ――序列第一位と第二位。お前達だけは死んでも守り切る。


***


 この世界は、俺達に優しくなんてしてくれない。


  でも、だからこそ、そんな中で俺を選んだ連中にだけは――せめて、報いたい。……お前たちは必ず生かす。


 いっそ、生き残ったのがレベッカと、アリスだけとかなら、ここまで重い決意する必要もなかったんだがな。……まぁ、自分に都合の良い人間ばかり優遇してきた事への報いみたいなものだ。こちらも、覚悟を決める。


 彼女達の俺に対する気持ちが「好き」だろうが「利用」だろうと関係ない。抱いてほしいなら抱いてやる。責任とって結婚して欲しいなら、全部終わった後でしてやる。


 宗教家の先生方は美辞麗句で自己犠牲を煽るだけ。自分達は前線になんて絶対来やしない。


 神様には何度も「この地獄から救ってくれ」と願ったが、ついぞ救ってくれる事は無かった。


 無条件で救ってくれる神様とやらは頼りにならん。


 神が職務放棄してるんじゃ、俺が、彼らの代わりになるしかないじゃないか。


  だから。俺は誰よりも冷酷に、誰よりも優しく、彼女たちのために「666」の数字を背負った悪魔になる。


 ……どんな汚い手を使ってでも、どんな残虐な手段を用いても、この大隊だけは守る。例え、それが悪魔に落ちる道だろうが。


 悪魔にでもならなきゃ、誰も守れない。これがこの世界の現実だ。


 夜が明ける。


 ふと思い出すのは、あの元・貴族令嬢。――名前はアンナ・ライトニング。


 クズ婚約者に婚約破棄された事に腹を立てて、引っぱたいた結果、こんなところまで送り込まれてきたはねっかえり娘。


 どうせ王都でぬくぬくとしていた貴族の娘なんてすぐに死ぬと思っていたが、これが中々腕が良くて、気づけば666の準エースくらいの立ち位置になっている。


 ……そして、俺への視線が熱っぽい事も。


「さて……どうしたものか」


 自分が女たらしのクズな事くらい分かっている。これ以上のおいたはレベッカに悪い……とはいえ、かくいう俺も、少し興味が湧いてしまっているのは事実だ。


「……ひとまず、このままの距離感を保つか。あまり『正室』を泣かせるのも良くない……。さて、王都はあと何日もつだろうか。中央のクソ貴族共が何人死のうが知った事ではないが、アンナ達、『覚悟を決めた本物の貴族』まで死なせるのはあまりにも惜しい……一人でも多く生き延びさせなければ」


 そのまま、上げたままだった手を下ろす。


「……諸君、『生き残る』ぞ」


 そう、独り言をぽつりと呟いた。 

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