第6話 狂ってる。でも、この中では一番まとも
その日、私は静かに笑っていた。
自分でも、よく分からない種類の笑みだった。
「八股、ねぇ……」
口の中で転がすようにその言葉を呟き、軽く吐き捨てる。
スカイ・キャリアベース。
第666特別大隊、大隊長。貧民街生まれの異端の王子。部隊を率い、戦場を制し、仲間を守るカリスマ。
――そして、とんでもない浮気性だった男。
「八股ってお前……八股って……」
私は倒した敵兵の死体を、アサルトライフルの先に差した銃剣で突き刺して死亡確認しながら、独り言をつぶやいていた。
最近の戦況では珍しい勝ち戦。だが、アフシャンに聞かされた“衝撃の事実”が、頭から離れない。
レベッカ、アリス、グレイシー、マリー、マルタ、フローラ、エレナ、……レベッカとアリスとは交友があるし、残りも顔くらいは知ってる。だから余計きつい。
確認されているだけで八股。しかも全員部隊内。もはやハーレムを通り越してカルトに近い。
「……どうかしてる」
そう思っている。間違いなく。
――なのに。
「……私、まだあの人のこと、嫌いになれてないんだよね」
呟くと、苦笑がこぼれる。
おかしい。あの夜会で、クソ婚約者に浮気されて、婚約破棄されたとき。
あの時。感じた怒り、屈辱、悲しみ。
浮気という行為に、誰よりも嫌悪を持っていたはずの自分がーー
「なんで、まだ隊長って呼ぶとき、胸がきゅってなるんだろうな……」
彼は、卑怯な人じゃない。
どの相手にも、真摯だった。……悪い意味で。
母親が陛下に弄ばれて捨てられた事への反動か、その場しのぎで誰かに優しくするんじゃなく、ちゃんと、抱きしめた相手には一生分の、それもとてつもなく重い愛情を注ぐ覚悟で向き合っているのが分かる。
そしてそれが、タチの悪いところだった。
『 誰にでも優しい』んじゃない。『誰にでも本気』で『誰にでも執着する』んだ。
「そんなんされたらさ……離れられないじゃん」
私は、自嘲気味に鼻を鳴らす。
八股を知ったその夜、ベッドの中で何度も自分に問いかけた。
「離れよう」と思った。
「他にまともな男はいないのか」と探そうとした。
だが……。
元婚約者に頭下げて元鞘? ありえない
王都の貴族連中? 反政府軍が王都目前まで来てるのに、いまだに呑気に踊ってる奴らと恋愛しろと?
政府軍の軍人? 奴ら今日も私達を置いて、「後方に前進」していったよ。ヤドカリの方がマシだな、ありゃ。
反政府軍? 私には強姦魔と付き合う趣味はない。
…………参ったねぇ。一番マシなのが八股男じゃないか。
結局、この世界で、自分を見捨てなかった人はスカイだけだった。
王都にいたとき、誰も自分の味方をしてくれなかった。
父も、元婚約者も、社交界の友人たちも。
けれど、スカイは違った。
あの日の初陣で、命を救ってくれた。あの時、隊長が『大隊が君の家族だ』って言った声、まだ耳から離れない。それ以来、半年という短い間だが、共に地獄をくぐり抜けてくれた。
自分の居場所がどこにも無いと嘆いた時、「ここにある」と言ってくれた。
「たぶん、私は恋人にはなれないんだろうな」
私は、死んだ敵兵に突き刺した銃剣を抜きながら、静かに言った。
「レベッカやアリスみたいには、なれない」
自分の立ち位置は、なんとなく分かっていた。
彼女たちは、長くスカイと共にあった。
恋人としての時間、信頼、共有した死線の数。
自分は、そこに並べるほどの何かを、まだ持っていない。
……でも。 「せめて、戦友にはなりたいな」
それだけは、本心だった。
誰よりも、スカイの作る戦場が面白いと思っている。
あの人の采配に、自分の命を預けられると思っている。
そして何より、あの人の隣でなら、地獄すら笑って歩ける気がしている。
「……ほんと、どうしようもない人」
でも、自分も同じくらい、どうしようもない。
だって、全部分かってて――まだ、あの人の名前を呼んでいる。
アサルトライフルを構え直した。 戦況は絶望的。今日の勝利だって、所詮、局地的なものだ。
でも、自分はきっとまた、笑ってこう言うだろう。
「隊長、命令を」
それが、恋じゃなくても。
たとえ手に入らなくても。
それでも、あの人の隣で生きていくと決めたのだ。
大隊長 スカイ・キャリアベース 裏設定☆
画像生成AI novelAIで作成
・我らが王子様。女子中高生の大隊を率いて1年間戦い抜いた控えめに言って化け物。
・現在8股中。たちの悪いことに「浮気性の癖に愛が重くてめちゃくちゃ依存気質」なタイプの為、抱いた女は使い捨てしない。情が移る。で、「一線を越えたら一生守る」スイッチが勝手に入る。割り切れないくせに、割り切れるフリをする。そのせいで周りの子が「切り捨てられた」と思えずに、全員全力でスカイに縋る構図になる。カルト集団出来た!!
・何でこんな思考になったかというと、スカイくん自身が王様にヤリ捨てされた女の子供なので、ろくな支援も無く苦労する母を間近で見てきた事を考えると「抱いた女は捨てない。一生俺の女。一生逃さないけど一生守る」って思考になるのは仕方ないとこある。じゃあ浮気するなって話だが、血は争えない(彼の父=国王は好色家であり、他にも多数の異母きょうだいがいる)。
・その他面倒くさい思想として、生まれも育ちも貧民街という事もあり、自分達から税や労役(徴兵含む)を搾取していたくせにクソ無能だった王族貴族に対して根っこの部分で反骨心がある。一方、有能だったり覚悟を示した王族貴族(令嬢含む)には一種のギャップ萌えも相まって好感度が急上昇する。
・ぶっちゃけ政治思想的には国や王族貴族の腐敗には心底失望しつつ、愛国心自体は非常に強い『反転アンチ型王党派』とかいう面倒くささ。故に王制と国家自体の破壊を掲げる反政府軍は容赦なくぶっ殺しにいく。「自分達下っ端に犠牲強いるんならせめてその分、上の人達にはシブくてかっこよくあって欲しい」という感じ。