社員証の作成と軽いレクチャーを受ける第94話
カードに登録したい指を置くように指示を受ける。
ミクが両手の親指と人差し指の登録を推奨していたので、2人はそれに従う事にした。
同時に複数本の登録が可能との事なので、まず初めに瑞希がカードに両手の親指と人差し指を置くとミクが短い祝詞や呪文詠唱の様なものを唱えるとカードが一瞬発光。
大輔はカードが発行した時に「ファンタジーって感じだな」と感心をしていたが、大輔の些細な感想は無視され、大輔の登録に移る。
瑞希が4本一度に登録するのは少し窮屈だと言い、ミクが複数回での登録も可能だと言ったが、わざわざ手間を増やす必要はないと大輔は1度で4本の指紋の登録をした。
これで瑞希と大輔、各々のカードと指紋の紐付けが完了したとの事だった。
指4本分の指紋を登録したが、使用する場合はいずれかの指紋が認証されれば良いとの事だ。
次にカードの使用方法だが要約すると、基本的にはカードを利用する場面では所定の位置にカードをかざすだけ。
例外として、身分証明痔や所持金などの確認をする場合はカード左下にあるマークが描かれている部分を3秒間長押しすると情報の確認画面が空中に表示されるとの事だった。
因みに、声紋認証をしている場合は『情報確認』など任意に好きな言葉を登録する事も出来るらしい。
試しに2人も現在の情報を確認してみる事にした。
カードの左端を暫く触れているとカード情報が空中に表示された。
それはまるでホログラムや空中ディスプレイ、もしくはアニメや漫画、ゲームなどでステータスを確認する時の様に表示されている。
あとは詳細を確認したい部分を振れれば良いとの事で、瑞希と大輔も試しに残高の部分をタッチしてみた。
「少し入ってるね」
「俺の方にも入ってる」
「それは昨日働いた分だ。それと、使用上の注意だが、支払いや施錠、開錠に使用する際は登録した指紋や声紋が必要になる。縁の部分では反応しないので面の部分を触れながら提示するように」
「面の部分ならどこでも大丈夫なのか?」
「端の方を意図して持たない限りは問題ないだろう」
「あー……だから両手の親指と人差し指だったんですね」
「確かに理にかなってるな。この2本、と言うか親指なら水戸黄門が印籠を見せつけるような持ち方をしない限り触れるな。人差し指は各種操作用って所か」
「印籠出すのは基本的に格さんだよ」
「……んなこたぁどうでも良いんだよ。ニュアンスが伝わるかが問題なんだよ。ってか何で無駄に詳しいんだよ」
相変わらず一般人とは少しズレのある瑞希のツッコミ。
大輔の指摘も尤もである。
「曽祖父ちゃんが時代劇好きで小さい頃に一緒に見てたからね」
「コホンッ……。話を続けても良いか?」
脱線し続ける瑞希たちの会話に業を煮やしたミク。
軽く咳ばらいをし、本題であるカードの使用についての話に戻そうとする。
「すみません。続けてください」
瑞希は自分の発言から脱線した自覚があるのだろう。
軽く謝罪をしてからミクに説明の続きを促す。
「まあ、続きと言っても大した事ではない。町の外に出る場合は必ず相手から確認しやすい場所に提示しておく事。首からぶら下げておくか腕の部分に付けておくのを推奨している。それと当たり前だが紛失しない事。退職時は返却する事。以上だ」
「外に何かあるのか?」
「あると言うか、野盗に襲われにくくなるだけだな。部族によっては見知らぬ者を見つけ次第排除しようとする輩もいる。そのような者からすれば武装していない余所者など鴨葱。ましてや取引などで大量の荷物を持っていれば尚の事だ。万が一襲われそうになった場合でも直ぐに掲げられるようにだな」
「取引相手なら取引停止される可能性が出てくるって事か。交易している品物によっては命にかかわる可能性があるから襲われないって事だな。でも、それって馬車の幌とかに分かるようにしておけば良いんじゃないか?」
「無論だ。だが、生物に直接乗る場合、不可能と言うか荷物で隠れてしまう場面もある。それに複数人で行動した場合、移動手段に使用している乗り物から離れる場面も無いとは言えんからな。それと、ある程度の安全は確保されるが過信は禁物だ。部族の事などお構いなしに襲い掛かって来る者や遊び半分でちょっかいを出してくる輩も居るからな」
「なるほどな。2つ疑問があるんだが、万が一、カードを無くした場合どうなるんだ?」
「どうなると言うか、全て番号管理されていて位置情報の確認も可能だ。紛失時は速やかに報告する事。報告が早ければ発見も早い。不慮の事故などがあった場合も最悪死体は回収してやるから安心しろ……2つ目の疑問は?」
「それは安心して良いのか……?まあ、良いや。退職時、カードを返却する際に金が残っていた場合はどうするんだ?」
「残金分の商品と交換するか、残高のみの情報を写した物を作成するかだな。好きな方を選択可能だ。他に何かあるか?」
「俺は無いな」
「僕も」
「そうか。使用していて疑問に思う点が出た場合は気兼ねなく聞くが良い」
こうしてミクの社員証講座は終了。
瑞希と大輔は仕事へ向かう事にしたがミクに呼び止められた。
何事かと思ったが「明日は休みだが気が向いた時に来るよう」にと言われただけだった。
瑞希と大輔はその場で相談をし、今日と同じくらいの時間に来る事をミクと約束をし、改めて仕事場へと向かうのであった────。
次回投稿
7月1日(20時予定)です。