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行動を共にしていると話題作りに困る第92話

「ふぅ……。何とかついた」

「倉庫からあまり遠くない場所で良かったよね」

朝と夜とでは見える景色も変わってくる。

倉庫からの帰り道、少しだけ道に迷いながらも帰館に成功した瑞希と大輔。

瑞希が徐にスマホを取り出し、時間を確認すると19時を過ぎている。

鍵は受付の亜人に渡してあるし、門限の話も聞かされていない。

恐らくは問題ないと思いながらもソロリソロリと周囲の様子を窺いながら旅館の入口へと向かい、扉を潜る。

「お帰りなさいませ。お食事はどうなさいますか?」

瑞希と大輔の姿を確認した受付の亜人に声を掛けられ、少しビクッと反応をする大輔。

瑞希は入口の戸を閉めようとしていたので特に何の反応も見せていない。

「大輔、どうする?」

いきなり話しかけられ、硬直していた大輔に向かい瑞希が再度問う。

「流石に宴会場はこりごりだな。一緒にどっちかの部屋で食うか別々に食うかだな」

「せっかくだし一緒に食べようよ。スマホも使えないし、テレビとかも無いから食事するだけだと味気ないからね。せめて雑談しながらの方が良いでしょ」

「それもそうだな。じゃあ、瑞希の部屋で食事するので2人分よろしく」

「かしこまりました。食事の準備が出来次第お持ちして問題ないでしょうか?」

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

夕飯の予約も終え、受付から鍵を受け取り、部屋へと向かう瑞希と大輔。


「荷物置いたらすぐそっち行く」

「うん。鍵は開けておくから勝手に入って」

荷物と言っても購入した服のみだ。

ドアを開け、適当に部屋の片隅に投げると大輔は瑞希の部屋へと向かう。

瑞希の了承は得てあるので、軽くノックをした後、瑞希の反応を待たずに戸を開ける。

瑞希は購入した服を丁寧に畳んでいる最中だった。

「2人分の食事スペース確保しようと思ったんだけど、朝のままで十分だった」

大輔からの指摘などは何もなかったが、勝手に瑞希が話し始めた。

大輔としても瑞希の話に対しての異論はない。

極論、2人が座れるスペースと食事を置くスペースがあれば問題は無い。

そして、瑞希と大輔が考えている以上にスペースの余裕がある。

全体的に部屋が広いのが原因だろう。

大輔は瑞希の話に対し適当に相槌を打ちつつ、床に座る。

普段ならゲーム、漫画、スマホなどで空いた時間を潰すのだが、この世界には存在しない。

スマホは所持しているが電波が届いていないので一部のゲーム以外、ネットやSNSなど適度な暇つぶし手段が存在しない。

どうにも手持ち無沙汰感が否めない。

どうやら瑞希も同じようだ。()うに服も畳み終わっているのにもかかわらず一向に座ろうとせず、室内をウロウロとしている。

雑談をしようにも話題が無い。

今日一日、共に行動する中で大抵の事は話し終えている。

直近の話をしようにも直近の事と言えば異世界に迷い込んでからの話。

それすらもほぼ行動を共にしているので話す内容は粗方把握をしているし、報告等も終えている。

かと言って元の世界の思い出などをしたところで虚しくなるだけだ。

両者とも考えている事は同じ。

瑞希は片付けをしている風を装い部屋中をウロウロ。大輔は足を延ばし両手を後ろで床に付き天井を見上げる。

そんな何とも言えない雰囲気の中、過ごす事数分……。

突如部屋のドアがノックされる。

瑞希が「はーい」と返事をし、対応に当たる。

大輔の位置からは訪問者の姿を確認は出来なかったものの、瑞希の対応と相手の声で料理が届いた事を察する。

ただ座って待つのも気が引けるので料理を運び入れるのを手伝う。

手伝うと言っても一品一品運ぶ訳でもない。料理をお膳ごと受け取り、座っていた場所付近に置くだけである。

瑞希は瑞希で自分の分は自分で運ぶ。1往復で終わる作業。

そして、朝食時と同様の説明を瑞希にすると仲居は去っていった。

これまた例の如く、瑞希の先導により「いただきます」の挨拶をして食事を開始する。

「最後何て言ってた?食器類の話か?」

会話の取っ掛かりとして質問をしているだけで、実はすべて聞こえていたし、理解もしている。

「あー……。うん。朝食と同じ。廊下に出しておいてだって」

返答までの一瞬の間。

大輔の意としている事は理解出来る。

瑞希としてもどうにか会話を広げる事が出来ないかと考えたが、特に広がるような内容でもなかったので無難に返答のみをしたのだった。

「そっか……」

暫しの沈黙……。

沈黙をした事で2人の間に流れる微妙な雰囲気。

食器やカトラリーの当たる小さな物音すら大きく感じる。

双方、話し始め難い雰囲気を醸し出してしまっている。


その後は料理の味や材料についてなど当たり障りのない会話を交わしつつ、食事も終了。

大輔が退室時に食器類を廊下に出すと言い解散の流れとなった。


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