周知している事を熱弁するのは羞恥な事だと思う第89話
第四倉庫────。
午前中、全てではないものの、倉庫内を見て回っていた2人。まずはめぼしい商品の下へと移動する事となった。
第四倉庫前に到着をした際、ベッド、テーブル、椅子又はソファの3点は最低限必要な物として共通認識があった。
他にも第四倉庫を巡った後の話になるが、滞在が長期になるにせよ短期になるにせよ着替えは必要になるだろう。との事で、第三倉庫にて衣類も見て回る事となっている。
その都合上、チェストかハンガーラックの様な物も探す予定である。
その他、必要そうな物が思いついた際は2人で相談した上で本当に必要な物かどうかを判断すると取り決めてある。
最初に訪れたのはベッド類の置き場。
「寝返りが打ちやすいようにダブルかセミダブルくらいのサイズが良いよな。……あ、これなんか下に収納スペースあるし、チェスト買わなくて良いじゃん」
「僕は寝相良い方って言われるし、シングルで十分かな。収納は良いけど、服は畳むとシワがね。出来ればハンガーラックに掛けたいかな」
「寝相は良くても朝起きねーけどな」
あれやこれやと雑談を交わしながらベッドを見て回る。
サイズや収納の有無、金額などを考慮した上で2人ともベッドを決定。
瑞希は足つきのシンプルなセミダブルベッド。大輔は収納付きのセミダブルベッドを選択。各々のベッドの近くにある番号をスマホにメモとして残して次の商品の場所へと移動を開始する。
「何だかんだ言ってた癖に瑞希もセミダブル選んだな」
「だって、値段は然程変わらないなら快適そうな方が良いでしょ」
「瑞希の場合、セミシングルとかの小さいベッドを使って寝返り打つとベッドから落ちる。みたいな状況の方が朝起きられるんじゃないか?」
冗談を交えつつ雑談をしながら移動をしていると、あっという間にテーブルの置き場へと到着した。
都合の良い事に椅子やソファなどの置き場と隣接している。
「瑞希、テーブルとイスどうする?」
「んー……、テーブルは背の低いのが良いかな。イスは最悪無くても良いけど、座布団とかクッションってあるのかな?あー……でも、背もたれは欲しいよね。壁でも良いけど垂直なのと固いのが問題なんだよね。となるとイスよりソファが良いかな?」
「確かに足伸ばして寛げる感じのテーブルの方が良いな。……それより、午前回った時にも思ってたんだけどベッドにせよテーブルにせよサイズ多くね?」
「あれじゃない?亜人の人たちって種族も多いから種類が必要なんじゃない?部屋は大きい人に合わせて広くしてるみたいだけど、僕たちが使うサイズをオウキーニとかヴァンくんの家に手伝いに来たコロボックルが使うには不便なんじゃない?逆もまた然りって感じで。考え方によっては細かくサイズ選べて良いじゃん」
「まあ、それもそっか。種類が豊富で不便な事はない……くもないな」
「どっち?」
「選ぶ手間が増える点だけは不便だな」
「確かに」
「それは良いとして、形は?」
「四角いのが良いかな。背が低くて四角いテーブル」
「へー……以外だな。瑞希の事だから丸いテーブル選ぶのかと思った。ちゃぶ台みたいな」
「僕、常々思ってた事があるんだけど……」
神妙な面持ちで意味あり気な発言を始める瑞希。
「何だ急に」
瑞希の真面目そうな発言に大輔も興味津々である。
「丸って効率悪い気がするんだよね。お盆とお皿も丸いのとか四角いのとかあるでしょ」
「あるな」
「丸いお盆に丸いお皿でも隙間多く出来ちゃうし、丸いお盆と四角いお皿でも、四角いお盆に丸いお皿でも角の所に隙間出来るでしょ。だから、四角に四角が一番安定するし、効率よく物を置ける気がするんだよね。丸って弧の部分の効率の悪さと不安定さは異常だと思うの。だからテーブルも四角い方が良いかなって。世の中四角い物の方が多いしね」
「お、おぅ……」
期待して損をした……。大輔の率直な感想である。
何か尤もらしい事……もとい、新たな発見をしたかの様に力説しているが、デッドスペースや丸テーブルの端に手をついて倒れるなどのデメリットは周知の事実であり、何を今更と言った感じである。
だが、午後の作業を終了した時に瑞希が謝罪をしてきた事が脳裏を過る。
(あー……俺が妖怪の話を力説してる時もこんな感じなのかな……。もう少し短くまとめる努力も必要だな)
虚無に近い瑞希の意見に対する感想の中に自身の妖怪話の改善点を見つけ反省する大輔なのであった……。
瑞希の下らない熱弁も終わり、テーブルの選定も完了。
ソファについては後日お金が貯まってから各自必要に応じて購入する事となった。
「ソファは無いにしてもクッションは欲しいよね。流石に床に直に座るのはお尻痛くなっちゃうしね」
「そうだな。クッション類は何処にあるんだろうな」
辺りをキョロキョロと見渡す2人。
見える範囲内には無さそうである。
第四倉庫で働いていそうな亜人はチラホラと見受けられるのだが、如何せん言葉の壁が瑞希たちの前に立ちはだかる。
「午前中に回り切れなかった場所にあるかもね」
「頑張って探すしかなさそうだな」
結局、付近に居た亜人に声を掛ける事はせず、自分たちの力で探す事にした。
その後は必要な物が無いかを検討しつつ、午前中に回り切れなかった箇所に行く事になったものの、結局クッションは見つからず……。
仕方がないので2人はベッドとソファの注文だけでもしておこうと倉庫入口へと引き返す事にした。
入り口付近に到着した瑞希と大輔。
倉庫の外に見知った顔を見つける。
「あ、オウキーニ」
そこまで大きい声を出してはいなかったものの、オウキーニの耳に届くには十分な声量だったようだ。
瑞希の声に反応をしたオウキーニは辺りを見渡し、瑞希と大輔の姿を確認するや否や、足早にその場を立ち去ろうとした。
「あ、逃げた」
瑞希が言うよりも早く大輔が反応をし、オウキーニの前に立ちはだかる。
「何も逃げる事ないだろ。ちょっと協力してほしい事があってな」
「めんd……、厄介事の気配を察知したニャ」
腐っても猫。野生の勘が働いたのだろうか?
「まぁまぁ、そんな事言わずに。本当にちょっと困ってた所にオウキーニを見つけただけだよ。少しだけ手伝ってほしいんだよね」
大輔に追いついた瑞希がオウキーニの背後から声を掛ける。
「……何ニャ?」
訝しげな表情を浮かべるオウキーニ。
前後から挟まれる形になり、逃げる事が不可能だと判断をし、話だけは聞く事を決意。
隙あらば逃げる構えである。
瑞希たちとしてはオウキーニを囲う意思はない。
大輔はオウキーニが逃げたから反射的に追いかけただけであり、瑞希に至っては大輔の後を追っただけだ。
よって、大輔がオウキーニも前に立ちはだかってからの一連の言動がカツアゲの場面に思えたのはオウキーニの誤解である。
「クッションって何処に置いてあるか分かる?座布団でも良いよ」
「何だ、そんな事かニャ。寝具……布団とか枕とかの近くニャ」
「そう言えば、ベッドは決めたけど、布団とかって買ってなかったね。大輔戻ろう」
「おう、そうだな。サンキューなオウキーニ」
「本当にそれだけニャ?」
「そうだけど?」
瑞希の返答を聞き、胸を撫で下ろすオウキーニ。
「何だ、そんなに手伝いたかったのか。丁度日本語が使える知り合いが居て助かったぜ。……って事でオウキーニ、よろしく頼むぜ」
胸を撫で下ろしたのも束の間、大輔がオウキーニと肩を組む形で腕を伸ばし、強制的に第四倉庫内へと引きずり込む。
「ちょっと待つニャ。ハニーの下に一刻も早く戻りたいニャー」
オウキーニの訴えが空しく響く。
「なーに、オウキーニが協力的ならそんなに時間は取らせねーって」
瑞希としてはオウキーニを返しても良いのだが、協力してくれるなら助かるのである。
結果として、苦笑いを浮かべながら大輔に連れていかれるオウキーニを見守りつつ、2人の後に続くのであった。