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誤解と和解の第88話

食事を終え、食堂を後にする3人。

「じゃあ、買い物は倉庫入口の関係者に言えば購入可能って事だな?」

ミクとはここで別れる予定になっており、別れる前に最終確認を兼ねて大輔が質問をする。

「そう伝えているから問題ないはずだ。何かあれば妾に報告してくれ」

「買った物って何処に運んで貰えば良いんですか?」

「そう言えば、部屋がまだだったな。部屋自体は決まっているのだが、お前たちがどちらの部屋に住むか決めておらんからな。……購入手続きだけを済ませて、搬入は後日と言う事にさせてくれ。購入の際、何がどちらの購入分か判別出来るようにしてくれると助かる」

「了解。じゃあ、午後の仕事に行くぞ瑞希」

「あ、そうだ。1つ言い忘れていた。明日の朝も妾の部屋に来るように」

「時間は?」

「9時~9時半の間で良いだろう。早い分には文句は言わぬ。あまり時間に捕らわれ過ぎぬよう適度な時間で良いぞ」

「了解。瑞希の寝起き次第だな」

こうして瑞希と大輔はミクと別れ午後の作業を行う為、倉庫へと向かう。


第一倉庫に到着すると直ぐに声が掛けられた。

「早いな。すぐ働くか?」

瑞希がスマホを取り出し、時間を確認する。

時刻は12時38分。

時間を確認した瑞希はスマホの画面を大輔に向ける。

「確かに少し早いな。食後すぐに動きたくないし、もう少し休憩だな」

「働くなる、また来い」

そう言い残すと責任者(?)の亜人は自分の仕事へと戻っていった。

大輔はあたりをキョロキョロと見渡し、瑞希に声を掛け、邪魔にならなそうな場所へと移動をする。

倉庫の壁を背もたれにする形で腰かける。

瑞希も大輔の横に座る。

瑞希が座るまでの間に大輔は自身のスマホを取り出すと15分のタイマーをセットした。

「今日のお昼ご飯も美味しかったね」

大輔は15分の仮眠を取るか悩んだが、瑞希の雑談に付き合う事にした。

「そうだな。異世界はやっぱり夢があるよな。バハムートとかも居るなら見てみたいよな」

昼食時に話しそびれたバハムートの話。

深く掘り下げても良いのだが、瑞希に話を逸らされる可能性が高い。

万が一話が逸らされなかったとしても15分と言う短い時間では話しきれない事ばかりである。

冷静に考えた結果、一言の返答でこの話題を切り上げる事にした。

あとは瑞希との会話の流れ次第。

午後の作業に支障(特に時間的な問題)が出ないように考えるだけだ。

「夢か……。こっちに来てから空想上の生き物ばかり目にしてきたけど、大輔は何と会ってみたい?」

これまた話に熱が入りそうな話題を振って来た瑞希。

意図してそのような話題を振ってきているのではないのだろうか?と勘繰りたくなる。

とは言え、休憩時間は限られている。

「んー、バハムートにエルフに妖精、サラマンダー、ノーム……居るなら全部見てみたいけど、強いて1匹あげるならドラゴンだな」

「ドラゴンかー。良いね。僕も見てみたい。大輔はどんなタイプのドラゴンが好き?」

大輔が食いつきそうな話題を振っているのだが、食いつきが悪い。

大輔の気も知らず、瑞希はどんどんと話題を掘り下げようとする。

「どんなタイプって?火竜とか水龍って話か?」

「ドラ〇ンボールに出てくる蛇みたいなタイプとか恐竜みたいなタイプとか四足歩行みたいな見た目の話が良いかな」

「見た目か……。ワイバーンみたいなTheドラゴン!って感じのも良いけど、やっぱりポケ〇ンのカイ〇ューみたいな2足歩行出来そうで尚且つ羽があるのが良いな。やっぱりドラゴンたるもの空を飛んで何ぼだよな。それでいて愛敬のあるのが良いな。出来ればペットにしてみたい。カ〇リューだとサイズ的にペットにするのは難しいだろうけど、あのタイプのちっさいのが居るなら飼ってみたいな。50cmくらいのやつ」

大輔的には冷静に且つ端的にまとめたつもりだが、危うく熱くなりそうになった所為もあり、少し冗長ではある。

「羽生えてないタイプのドラゴンも良いけど、空飛ぶタイプのドラゴンなら僕は乗ってみたい」

先程まで淡々と返答をしていた大輔とは打って変わり、ドラゴンの話題で少しではあるが普段の調子を大輔が取り戻した気がして嬉しくなった瑞希。

瑞希としては昼食時にバハムートの話を中断させて移行、大輔の気を悪くさせてしまったのではないかと気がかりだったのだ。

無論、それは瑞希の勘違いであり、大輔としては仕事に支障をきたしたくないだけだ。

そうとは知らない瑞希。大輔がそこまで器が小さいとは思ってはいないが、ここぞとばかりにグイグイとドラゴンのあれこれについての話を続けるのであった────。


そうこうしているうちに大輔のスマホのアラームが鳴る。

「はい、雑談終了。午後の仕事すんぞ」

ドラゴンの話で盛り上がっていたのに淡泊な様子で話を切り上げる大輔。

大輔としては仕事に対し、真っ当に向き合っているだけなのだが、いつもと様子の違う大輔を見て瑞希の心中は穏やかではない。

やっぱり昼食の時の事、怒っているのではないか?と疑念を抱かせる。

どうすればこれ以上、大輔の気分を害さないかと見当違いな思考を巡らせた結果、「うん」と短く返答をし、大輔の後に続き、先程亜人と別れた場所へと戻るのであった。


亜人と合流し、午後の作業の指示を受けた瑞希と大輔。

やる事は午前と同じ内容。

亜人からの指示も「コレ、運ぶ。朝、同じ」との事だった。

任された仕事を寡黙に熟す大輔。口数の少ない大輔を見て未だに勘違いをし続けている瑞希。


瑞希たちの今日の予定は15時まで。

午後の作業を2時間程続け、第一倉庫へ帰還したタイミングで責任者(?)の亜人に声を掛けられた。

「時間。今日、終わり。帰れ」

「了解。おつかれさまでした。お先に失礼します。」

「お疲れさまでした」

仕事の終わりを告げられ、慣れた様子で挨拶をする大輔。

それに倣い、瑞希も挨拶を返す。

瑞希と大輔は帰還時に引いていたカゴ台車を所定の位置に戻し、第一倉庫を後にする。


「大輔、ごめん!」

第一倉庫を出た瞬間、唐突に瑞希から謝罪を受ける大輔。

「え?何が?何かミスした?」

心当たりが無く困惑する大輔。

瑞希が作業中に何かミスをして隠蔽したのではないか。と心配になる。

「え?怒ってないの?」

「だから、何が?」

「えーっと……。お昼の事?」

「お昼?何かあったか?」

「昼食の時にモンスターの話聞かなかった事怒ってるんじゃないの?」

「あ?バハムートの事か?何でそんなんで怒るんだよ。瑞希が話聞かないのはいつもの事だろ」

「だって、倉庫に戻って休憩した時も午後の作業中も会話したくなさそうだったし……」

「休憩時間は休むもんだろ。仮眠とろうか悩んでただけだ。それに、仕事中は私語厳禁だろ。口動かす暇があったら手を動かせってやつだ。まあ、ミクを含めここで働いてる人たちは色々とガバガバだけど、真面目にやって損はないだろ」

「……なんだ。心配して損した。休憩中から大輔怒ってないかずっとビクビクしてたのに」

真相を知り、安堵した瑞希。

「そう言う事ならもう少し反省させるべきだったな……。あー……そう言えば、瑞希が俺の話を聞かなくて激おこだったー。もっと俺の妖怪話を親身になって聞くべきだー」

相好を崩す瑞希を見て少し思う所があったのだろう。

冗談めかした言い方ではあるものの、2割~3割程度は本心である。

実際、話足りずに会話を切られる事は多々ある。

慣れてはいるものの、時間があるなら聞いてほしいと言うのが本音なのだろう。

「いや、完全に棒読みだし」

「チッ」

元々自分の意見が通るなどとは微塵も思っていなかった。

業とらしい舌打ちをする大輔。

「でも、時間に余裕がある時なら」

「本当か?」

「み、短くまとめてくれるなら」

「善処しよう」

「偉そう」

こうして瑞希の誤解も解け、仲直り(?)をした2人は談笑しながら仲良く第四倉庫へと向かうのであった────。


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