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昼食事情と謎肉。蘊蓄で貴重な休憩時間を無駄にしたくない第87話

第一倉庫と他倉庫との往復を繰り返していると、第一倉庫に戻ったタイミングで責任者(?)の亜人に声を掛けられた。

「休憩、入れ。食事、行け」

「休憩時間はどの程度だ?」

「1時間。少し遅れる、大丈夫」

そう言うと亜人は何処かへと行ってしまった。

亜人の言葉を聞き、瑞希がスマホで時間の確認をする。

スマホの時計は11時52分と表示されている。

休憩のタイミングも休憩時間もアバウトなようだ……。

「了解。瑞希、ミクの所に行くぞ」

既に亜人は少し離れた位置に行ってしまっていたが、大輔は一応の返答をし、瑞希へと話しかけた。

「何で?食堂は?」

「その食堂が問題なんだよ。文字が読めないんだからどうにもならんだろ。この町で日本語が使える知り合いがミクかオウキーニ、オウキーニの奥さん、オウキーニと一緒に行った食堂の関係者しかいないんだし、ミクに頼るほかないだろ。オウキーニの居場所が分からんし、他は顔見知り以下。出会っても頼れないだろ」

「そっか。仕事教えてくれた人も何処か行っちゃったし、それしかないか……」

「いや、あの亜人に頼るのは片言過ぎて不安しかないだろ」

大輔の意見に納得をした瑞希。

瑞希と大輔はミクの部屋へと向かう事となった。


瑞希と大輔はミクの部屋の前に到着。

いつもは締まっている部屋の扉だが、今は完全に開け放たれている。

廊下から室内の様子を覗き見る瑞希と大輔。

何やら作業をしている様子のミクが確認出来る。

話し掛けても良いのか2人で話し合おうとしたその時……。

「何だ、お前たち。仕事を辞めたくなったか?」

2人の存在に気が付いたミクが資料に目を通しながら2人に声を掛けてきた。

「いえ、違います。休憩時間になったのですが、こっちの言葉が理解出来なくて、昼食の注文が出来ないのでミクさんに協力してもらおうと思って」

「よく考えたら金も持ってねーしな」

この場に到着するまで気が付いていなかったが、瑞希も大輔も初日で所持金は0の状態だ。

ヴァンの資金を使用可能と言われているが、使い方も分かっていない。

「そうか。普通に会話が成立するのでお前たちが言葉や文字を理解していない事を失念していた。すまんな、暫し待て」

ミクはそう言うと持っていた資料に一通り目を通した後、サインをして目も前の箱に資料を投げ入れる。

「待たせたな。では行くとしよう」

待たせたと言っても1~2分程度。

瑞希と大輔としても待ったと言う気持ちはない。

単なる社交辞令的な物である。


ミクに続き歩く瑞希と大輔。

暫く無言で歩いていた3人だが、ミクが唐突に話しかけてきた。

「昨日と同じ場所で問題ないか?」

昨日と同じ場所。すなわち社食である。

「はい。大丈夫です」

「俺も問題ない」

ミクの提案を快諾する瑞希と大輔。

社食以外の選択肢。つまり、他の食堂の事情を知らない2人にとって、これ以外の返答は持ち合わせていないと言うのが本音だ。

それならば、ラーメンや中華、牛丼、寿司など具体例を出せば解決する可能性もあるが、異世界に瑞希たちの世界の食べ物があるとも限らない。

事実、異世界に来てから口にした物の中には瑞希たちの知らない食べ物も相当数存在している。

焼くだけなどの簡単な調理法は別として、具体的な料理名を出したとしても希望が叶う可能性は低いと考えるのが妥当だろう。


昨日同様、食堂で並ぶ3人。

心なしか昨日よりも込み合っている気がする。

時間帯の問題なのか、曜日の問題なのか、将又今日だけが特別なのかは不明である。

順番待ちをしている途中、注文についての話になった。

「明日からの事もあるし、注文について話しておこう」

「そうだな。毎日ミクの所に行くのも面倒だしな」

「よろしくお願いします」

「メニューについてはカウンター上部に書かれている物が全てだ」

「それが読めれば苦労しないんだがな」

「読めても発音出来ないと意味ないよね?」

「まあ、焦るな。話の途中だ。瑞希の言う事も一理ある。そこでお前らには便利な言葉を教えておこう」

「「便利な言葉?」」

合わせたつもりはなかったが、2人の声が揃ってしまった。

「「……」」

思いがけず、声が揃ってしまった2人は気まずそうに顔を見合わせる。

「なんだそれ」

一瞬、沈黙した瑞希と大輔だったが、仕切り直しと言わんばかりに大輔がミクへと質問をし直す。

「fiuzp」

「ふぃうずぷ?ふゅーずぷ?ふぃゆーずぷ?」

ミクの発言を真似して何度か瑞希が口遊むように真似をする。

「中々上手いぞ。『fiu』は『ふぃ』と『ふゅ』の中間音だな。『zp』については最後の『ぷ』を完全に発音しない感じだ。まあ、発音については正確でなくても十分通じるだろう。意味としては『任せる』と言った感じだ。この社員食堂の場合、日替わり定食が提供される」

「ふぃゅーずっ────」

ミクの指摘を受け、独り言のように何度か発音してみる瑞希。

「次に支払いについてだが……」

そんな瑞希を他所にミクは支払いの説明に移った。

「瑞希の発音練習の100万倍は重要だな。……ってか、倉庫に家具を見に行ったは良いが、購入方法が分からなくて見学だけで終わったぞ」

「倉庫の者についてはお前たちが来た時は坊やの資金から出すので何を購入したかだけ報告するように言っておいたのだが……」

「それを俺たちに言わねーと意味ねーだろ」

「言ってなかったか?」

「聞いてなかったです」

「あぁ、聞いてねーな」

発声練習を諦めたのか、満足したのか、瑞希も会話に参加し始めた。

「それはすまなかった。倉庫についてはそう言う事だ。当分は倉庫入口の者へ希望商品を伝えるが良い」

「どうやってですか?」

「入口まで持って行くも良し、運べそうにない物の場合は商品の番号を伝えれば良い。家具については部屋の準備が整い次第配達や搬入させる様に手配しておく。無論、持って帰れるからと言って無理に持って帰る必要もない。小物でも配達かのだ」

「それは助かるな。瑞希、午後の仕事が終わり次第、再度第四倉庫に潜入するぞ」

「それは良いけど、潜入とか言い回しが少し不穏じゃない?」

「細けーこたぁ良いんだよ」

「……で、話を元に戻すが、支払いについてはこのカードを使用する。お前たちの分は作成中なので明日渡す事にしよう。このカードは色々な物に紐づけられている。明日お前たちに配布する予定のカードには資金の他に部屋の鍵と社員番号も登録予定だ。他にも希望すれば色々と紐づけられるが、その説明は後々(のちのち)で良いだろう」

「まあ、一気に教えられても覚えられる自信も無いし妥当だな。で、そのカードをどう使うんだ?」

「機械にかざすだけだ。部屋の案内をした時のドアの鍵を開けるのと同じ要領だな」

「残高が不足していた場合はどうなりますか?」

「警告音が鳴って知らせてもらえるぞ。残高が気になる場合はその場で確認も出来る。今、妾のカードで見せてやっても良いのだが、妾の懐事情を周囲の者に見られる恐れがあるのでな。カード配布時にそれも説明しよう」

ミクから説明を受けているうちに列は順調に進み続け、瑞希たちの注文の順番が回って来た。

「瑞希、先程まで練習していたのだ。試しに頼んでみよ。大輔も同じ物で構わんだろ?」

「どうせ分かんねーからな」

「えーっと……。ふぃゅーずゅっ?」

「ftou」

瑞希の注文の後にミクが付け足す。

指を3本立てているので恐らく同じ物を3つと言う意味なのだろう。

注文を受けた亜人が近くにあった機械に促すような動作をした。

たどたどしい発音ではあったものの、瑞希の注文は無事に通ったようだ。

「ここもお前たちが来た時は後で料金を伝えるよう言っておいたのだが、お前らへの伝達不足や準備不足は妾の落ち度だ。今日の昼食代も妾が持とう」

そう言うとミクは先程まで説明に使用していた自分のカードを機械にかざす。

「やりぃ♪ごちになりやす」

「ごちそうさまです」

ミクに軽く礼を言いう瑞希と大輔。

ミクはそんな2人に軽く手を上げ「()()い」と応答をし、亜人から引換券を受け取る。

昨日よりは人が多いものの、空席が見つからないほどではない。

適当に3人が座れる席を見つけ着席。

「色々と不手際が多くてすまんな」

開口一番ミクが謝罪をする。

「いえいえ、こちらも急に押しかけて働かせてくださいと言っている立場なので文句はありません。寧ろ、宿の手配から何から何までお手数おかけしています」

形式的なのか何なのか、瑞希が丁寧に受け答えをしている。

だが、日頃から使い慣れていないのだろう。敬語が所々たどたどしい。

そんな瑞希の言葉遣いを気にするでもなく、淡々と雑談に近い話は続き、十分も経たず、注文が出来たと合図の音が引換券から聞こえてきた。

「相変わらず早いな」

昨日に引き続き、着席してから雑談らしい雑談をする間もなく注文が出来上がる。

自ら料理を取りに行かないといけないのは手間だが、料理の出来上がるスピードと引き換えなら安いものだ。

学食や社食などの場合、注文から受け取りまでの間、列をなして待つ事もざらなので数分の間でも席の確保が可能で、行列も捌けやすく不要な場所に密集する事が無いのは利点の1つだろう。

そんな社食での料理の提供の早さに感心しつつ、料理を取りに行く。


本日のメニューはパンとハンバーグっぽい何か、スープとサラダだ。

各自料理を受け取り席へと戻る。

着席をし「いただきます」と瑞希が手を合わせる。

大輔も形式的に「いただきます」と口にする。

これは言わないと瑞希が五月蠅いからであり、日頃から習慣的に行っていたものではない。

ミクはそんな2人を気にするでもなくパンを手に取り、ナイフで器用に半分に割った。

そして、割ったパンの間にサラダの野菜を少々、更にハンバーグを挟む。

「ハンバーガー的な感じか、なるほど。俺もその食べ方にしよう」

大輔はミクに倣いパンにナイフを入れ、2つに割り、パンの間に食材を入れ、一口頬張る。

「うっっっま。完全にハンバーガーだ!マヨネーズとかオーロラソースがあれば完璧だけど、下味がしっかりしてるから無くても十分美味い」

「コレ何の肉ですか?」

瑞希も2人に倣い、パンにナイフを入れている途中だったが、パテに使用している肉が気になったようだ。

「妾は料理に疎くて詳しく聞かれても答えられぬ事が多いが、肉については『畑の肉』を加工した物を使用している」

「畑の肉……?大豆?」

「そうだ。以前知り合った人間たちも『畑の肉』と教えた時に『ダイズ(にく)』やら『ダイズミート』、『ダイタイ肉』と言っておったな。最後の『ダイタイ肉』については、ほぼ肉と変わらんの意での『大体』なのか、肉の代わりとの意での『代替』なのかは聞きそびれたから分からん」

瑞希と大輔もテレビなどで聞き覚えがある程度認識で、実際に大豆ミートなどの代替肉を食した事はない。

「代替については肉の代わりって意味だな。それはそうと、てっきりドラゴンの肉とか魚ならバハムートの肉とか出てくるのかと思ったぜ」

「バハムートってドラゴンじゃないの?」

某有名RPGのバハムートが竜の姿をしていた事を思い出した瑞希が疑問を口にする。

「何言ってんだ。バハムートと言えば魚かクジラだろ。そもそもバハムートってのはだな……」

「あーはいはい。バハムートは魚。魚です」

大輔の冗長なモンスター蘊蓄うんちくが始まる気配を察知した瑞希は速攻で話を無かった事にする。

貴重な昼休み。大輔の蘊蓄うんちくが始まるとその大半を消費する恐れがあった。

そう感じた瑞希の英断。

恐らく、瑞希の想像通り、あのまま話を続けていたのなら大輔は食事をする事を忘れ、バハムートの話を続けていただろう。

そして、最悪の場合、食後もバハムートの話で持ち切りだったかもしれない……。

一方の大輔は瑞希に話の腰を折られ、やり場のないモヤモヤとした気持ちを抱え、不完全燃焼さを食べる事で発散するのであった。


94話まで1日1話連日投稿予定(更新は20時設定済)

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