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誰がどう聞いても前振りにしか聞こえない第83話

「お部屋へご案内します」

ミクを見送った支配人が瑞希と大輔に声を掛ける。

支配人の後に続き暫く歩き、2人の宿泊する部屋へと到着した。

瑞希と大輔の部屋は別々に用意されていて、2人の部屋は向かい合っている。

「ご利用方法の説明をさせていただきます」

軽く鍵の使い方や室内の設備についての説明を受ける。

鍵については宿舎と同様の仕様だったので難なく受け入れられた。

室内の設備についても照明や金庫など元居た世界の知識と然程変わらなかった。

瑞希と大輔が少し驚いたのは和室だった事だ。

但し、瑞希たちが見慣れた畳とは少し違っていた。

恐らくイ草とは違う物が材料として使用されているのだろう。

畳み独特の香りも感じられない。

そんな些細な違いはあったものの無事鍵の受け渡しも完了した。

「お食事はどうなさいますか?」

「どっちかの部屋で一緒にとか別々にとか?」

「申し訳ございません。言葉足らずでした。そう言ったご要望もお受けできますし、宴会場での食事も可能です。それと朝食と夕食のご用意も承っております。時間帯の指定なども可能でございます。但し、事前にご予約いただけない場合は提供をお断りさせていただく場合がございます」

「なるほど、そう言う事ね。大輔どうする?」

「そうだな……。朝食は付けてほしいな。因みに今日の夕食は出るのか?」

「藻様からは提供するようにと承っておりますが、最終判断はお二方の判断にお任せするともおっしゃられておりました」

「……ちょっと2人で相談するから後で受付に言いに行っても大丈夫か?」

「問題ございません。何かお困りの際はお申し出ください。それでは失礼いたします。」

支配人は一礼をすると部屋を後にするのであった。


瑞希は部屋の隅に荷物を置く。

大輔は手ぶらある。

特に2人で話し合った訳ではないが、瑞希が荷物を置いた時点で2人の中では今居る部屋が瑞希の使用する部屋なのだろう。と暗黙の了解が成り立っている。

「どうする?」

「食事の話だよね?今日と明日の朝は確定として、バイト代がいつ出るかだよね」

「だな。でも、日当だとしても生活に必要な物は揃える必要も出てくるだろうし、ここで食える分はここで食った方が得策だと思うんだよな」

「そうだね。あとは食事してから決める?」

「まあ、そうだな。味次第な所はあるからな」

「とりあえず今日の夕食食べてから明日の夕食以降の事を再度話し合う事にしようか」

「で、夕食はどうする?すぐ食べるのか?」

「もう少し遅くても良いけど、準備とかあると思うし、今から食べるって言って丁度良い時間かもね」

「よし、そうと決まれば言いに行くか。どうせだし、宴会場で食おうぜ」

大輔の提案を受け入れた瑞希。

2人は早速受付へと向かう事にした。


「すみませーん。ちょっと良いっすか?」

「どうかされましたか?」

受付に居たのは支配人とは別の亜人。

少し不安ではあったものの、無事日本語が通じるようだ。

「今日の夕食の事なんですが────」

先程2人で決めた事を受付に居た仲居(?)の亜人に伝える。

「畏まりました。では、宴会場へご案内いたします」


受付に居た亜人に案内され、宴会場へと到着。

宴会場も宿泊部屋と同様、畳が敷き詰められている。

正確には数えていないが、瑞希たちが中学の修学旅行時に使用した旅館での宴会場よりも格段に広い。

恐らく300畳程度の広さである。

仲居は「しばらくお待ちください」と瑞希たちに伝えると宴会場を出て行ってしまった。

取り残され部屋の真ん中でポツンと立ち尽くす瑞希と大輔。

暫く待つと先程の仲居が座布団とお膳を持って戻って来た。

お膳と座布団を瑞希たちの目の前にセットする。

「お料理をお持ちします。今しばらくお待ちください」

「え?あ……はい」

宴会場の広さに呆気にと垂れていた瑞希は何とも言えない微妙な返事を返してしまっていた。


仲居が去った後、2人は仕方なく用意された座布団の上に座る。

「すごく広いね」

「あぁ広いな」

広々とした宴会場のど真ん中にポツンと2人だけ。

異様な光景とも言えよう。

広すぎて落ち着かないのか何か会話をしようとするものの、宴会場の広さに圧倒されてなのか語彙力が著しく低下してしまっている。


その後、特に話す事も無く沈黙したまま時間だけが過ぎる……。


暫くすると仲居たちが料理を運んできた。

「お待たせしました」

「あのー……、一つお聞きしたいのですが、他に宿泊している方は居ないのでしょうか?」

多少憚った質問だと思いつつ、聞かずにはいられなかった。

「数名宿泊されている方はおりますが、皆さま自室でのお食事か外食を希望されています。ここは基本的に団体のお客様しかご使用を希望されませんので」

瑞希の質問の意図を汲んだ仲居が回答をしてくれた。

瑞希も仲居の回答で納得は出来た。

そして、次回以降は自分たちも部屋での食事にしようと心に決めるのである。

そんな雑談を交わしているうちに配膳を終えた仲居たち。

瑞希たちに一礼をし、宴会場を後にする。

再び広い宴会場で2人きりになってしまった瑞希と大輔。

「とりあえず、いただこうか」

「だな。いただきます」

「はい。いただきます」

いつもは雑談を交えながらの食事なのだが、未だに宴会場の広さに慣れず落ち着かない。

2人は無言で食事を勧める。

当初懸念していた味に問題は無い。

だが、宴会場の雰囲気に飲まれ緊張している所為なのか味が分からない。

……が、緊張していなければ美味しいのだろうと予想は出来る。


そんなこんなで黙々と食事を続けた瑞希たち。

「「ごちそうさまでした」」

「……次からは部屋で食べよっか」

瑞希は先程決意した事を改めて口にした。

「だな」

大輔も瑞希の意見に賛成のようだ。

食事も終え、そそくさと宴会場を後にする瑞希と大輔。

念の為に受付に居た仲居に食事を終えた事を伝え、翌日の朝食の件も伝えておく。

その際、朝食の時間を聞かれたものの、この世界の時間の概念を理解していなかった2人は困惑してしまう。

「因みに、今って何時ですか?」

「午後8時前です。正確なお時間をご所望でしょうか?」

「いや、大丈夫だ。1時間は60分で間違いないか?」

「はい」

「1分は60秒で1日は24時間?」

「仰る通りでございます」

瑞希と大輔は仲居の返答を聞き、スマホの時間を確認する。

「日付はともかく5~6時間のズレってところだな」

「だね。1日も24時間だし時間については何とかなりそう。我儘を言えばズレるなら12時間ズレてくれれば色々と楽だったんだけどね。……すみません、やっぱり正確な時刻を教えてもらっても良いですか?」

瑞希はスマホの時計をこの世界の時刻に合わせる為、仲居に正確な時刻の確認を行う。

仲居は「畏まりました」と一言言うと受付の裏へ引っ込んでしまった。

十秒も経たないうちに仲居は受付に戻り、現在の正確な時刻を瑞希に伝える。

瑞希は教えられた時刻に時計をセットする。

「ありがとうございました」

「時間も分かった事だし、明日の朝食は7時で良いか?」

「早くない?」

「と言われてもミクからは来いとしか言われてないからな……。それに、早くても遅くても瑞希が一人で起きないから瑞希を起こす時間も考慮して早い方が良いだろ」

「う゛っ……」

大輔の一言が正論過ぎて反論の余地がない。

「決まりだな。じゃあ、明日の朝食は7時で頼むぜ。それと、持ってくるのは俺の部屋……こっから向かって左手側の部屋にまとめて持ってきてほしいのと、瑞希が起きるか不安だから合鍵とかあれば念の為にコイツの部屋の鍵も持ってきてもらうって事は可能か?」

「時間などについては了承いたしました。鍵についてですが、事前にお客様のご了承を頂いていれば可能です」

そう言うと仲居は瑞希の方を向く。

瑞希からの返答待ちなのだろう。

「まあ、起きるから問題ないけど、万が一ね。万が一起きない場合もあるからその時は大輔に入ってもらっても問題ないよ」

瑞希は本気で自力での起床が可能だと言っているのだろう。

しかし、瑞希の話し方からしてフリにしか聞こえない。


受付に用件を伝えた2人は部屋へと戻る。

「明日の朝は絶対に起きろよな」

「信用無いなー」

「こっちに来てからの朝の行動で信用出来る要素が1つもねーよ。ってかそれで一人暮らし出来てたのが謎過ぎる。大学とか通えてたのが不思議なくらいだよ」

「実を言うと1限目の講義って遅刻する事も多かったんだよね。来年からは必修以外極力1限目に入れないようにしようって考えたりして」

「いや、大学の1限なんて中高より遅いだろ」

「だよねー。高校までは普通に通えてたのに不思議だねー」

「それは親が起こしてたからだろ」

「なるほどー」

(駄目だこりゃ……)

収支緊張感も無く笑みを浮かべながら話す瑞希の姿に呆れ果て、頭を抱えたくなる大輔であった────。


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