実際に魔法を使用してみる第81話
ものの数分で先程の亜人が箱を持って戻って来た。
ミクは亜人から箱を受け取る。
「移動するぞ」
移動と言っても隣の実験室である。
先程までの見学の際にミクが説明をしていたので瑞希と大輔は理解している。
ミクは1つの木偶の前まで移動をすると瑞希と大輔に箱の中から紙を取り出し瑞希と大輔に各1枚ずつ渡し、今から使用する魔道具についての説明を開始した。
「説明の前に1つ忠告だが、説明が終わるまで言葉を発するな」
「何故ですか?」
「暴発する恐れがある」
「分かりました」
「了解」
「それは狐火を模した炎を出せる護符だ。色々書いてある方が表だな。使用方法だが、火を飛ばしたい方向へ護符の表面を向け『狐火』と唱えるだけだ。試しに妾が手本を見せよう」
そう言うとミクは箱から自分が使用する分のお札を取り出し、木偶に護符を向け「狐火」と一言唱える。
次の瞬間、護符から炎が飛び出し、見事木偶へと命中した。
炎は木偶に命中した途端に拡散して消えた。
威力はあまりないようだ。
ミクの手元では使用した護符の先端が燃え始めている。
ミクは燃える護符を地面に投げ捨てる。
瞬く間に炎は護符全体に広がり、護符は燃え尽きてしまった。
「まあ、こんな感じだ。護符は使い捨てで護符に触れている者が決められた言葉を口にすると発動する。お前らに渡した護符も狐火だ。くれぐれも護符を持った状態で『狐火』と口にしないように。以上だ何か質問は?」
瑞希と大輔はまじまじとミクから渡されていた護符を見つめる。
最初にミクからの注意が無ければ確実に「狐火か」などと感想を口にして護符が暴発していただろう。
と同時にそんな危険な代物なら説明後に渡せとも思った2人である……。
「思ったより威力はないんだな」
「そうだな。今の段階では子供の遊び道具か火を起こす時の種火用が関の山だな。説明前に注意しておかなければ暴発する恐れもあるし改善が必要な品ではある」
「子供の遊びにしては危険すぎる気が……。僕たちもやってみても良いんですか?」
「構わんぞ。その為に護符を渡したのだからな」
ミクの返事を聞いた瑞希はミクが手本を見せたように護符を木偶に向け「狐火」と口にした。
そして、問題なく瑞希の出した狐火も木偶へと命中した。
しかし、感動のあまり護符が燃え尽きる事を失念していた瑞希。
「あっつ!」
持ったまま燃える護符の熱さに耐え切れず、護符を投げ捨て手をブンブンと振り熱を冷ます。
狐火を出すまでは様になっていたのだが、何とも間抜けな終わり方となった。
瑞希は種火にするなら狐火よりも使用後の護符の方が適正なのでは……?などと関係のない事を考えながら燃える護符を見つめるのであった。
次は大輔の番である。
「あの単語以外の言葉足しても発動するか?」
「問題なく発動する。『狐火』と言う単語にだけ反応するようになっているからな」
「やりぃ♪なら……」
ミクの返答を聞き何やら上機嫌な様子の大輔。
「燃え盛る焔の煌きよ、我が前に顕現せよ。狐火!!」
魔法詠唱もどきである。
詠唱を終え、狐火を飛ばした大輔に抜け目はない。
払うような手つきで護符を投げ捨てる。
護符は燃えながら綺麗な放物線を描き地面に落ちる。
事前のイメージトレーニングに抜かりの無かった大輔。
イメージ通りの動きが出来た大輔は心の中で『決まったな……』とガッツポーズを取る。
「魔法詠唱?カッコイイけど厨二臭いね。あと強そうな詠唱のわりに威力がショボい」
上手く魔法を発動出来、感動の余韻に浸っていた大輔に水を差す一言。
「瑞希ちゃんは分かってねーな。厨二っぽいのが良いんだよ。魔法詠唱はロマンだよ。ロ・マ・ン。漫画とかアニメで戦闘中の魔法詠唱とか燃えるだろ。それと威力については俺の責任じゃない」
「戦闘中なら尚更詠唱するより即痔発動の方が良いだろう。効率的ではないな」
漫画やアニメ特有の『待ってくれる敵』の存在を知らないミクが無慈悲な意見で大輔の発言を一蹴してしまう。
「いーんだよ。そう言うもんなの」
反論の余地がなかったのでこう言うしかなかった大輔。
「でも、狐火の1単語で発動すると暴発する危険性が高くないですか?」
「確かに一理あるな。大輔の詠唱を参考にしつつ後程改善するように提言する事にしよう」
「それはそれで何か恥ずかしいな」
「他に気になった点はないか?」
「そんな素人の俺たちに意見求めて良いのか?」
「素人だから良い。使用するのは素人だ。素人なりの観点は重要になる」
「そんなものなのか?」
「じゃあ、何で紙を使用してるんですか?鉄とか他の燃え尽きない素材の方が良いと思います」
「それについては魔法回路が焼き切れる程に熱を帯びる故、他の素材だと使用者が火傷する恐れがある。……いや、実際火傷した者が居る。その事から使い捨ての紙でと言う話になった。紙が燃え尽きるのも魔法回路の異常な発熱の所為だ。これについては魔法回路を効率化して焼き切れない様にするなど行く行く改善したいとは考えている。今は試作段階で紙を使用していると言う事だな。中々良い着眼点だったぞ」
最後に色々と護符の改善点などの話し合いをし、何だかんだで楽しんだ一行は実験室を後にし、社内見学に戻るのであった────。