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食事中の他愛ない会話と午後の予定が決まる第79話

「注文は決まっているのか?」

唐突に昼食の話に戻る商会長。

戸惑う瑞希と大輔。

注文と言われても何も決まっていないし、そもそも何があるのかも理解していない。

「何があるのかすら分かってねーよ」

率直な意見を大輔が述べる。

「そこに書いてあるだろう。好きな物にして良いぞ」

商会長の指差す方向……カウンターで注文を受けている上方にメニュー表らしきものがある。

「読めません」

しかし、確実に日本語ではない。

瑞希と大輔には読めない。

それを伝えると商会長はヤレヤレと言った感じの反応を見せた後、1つ1つの説明を始める。

「先ずは1番左上の────」

「ちょっと待て」

「何だ?」

説明を開始して直ぐ、大輔が商会長の説明を遮る。

商会長も少し困惑している様子だ。

「全部説明する気か?」

「無論」

似たような文字列も存在する事から似たような料理もあるのは想像出来るが、それでも優に50以上の品数が確認出来る。

説明する方も大変だとは思うが、聞く方も大変である。

「あのー……僕は虫が入って無ければ商会長さんと同じ物で大丈夫です」

どうらや瑞希も大輔と同じ考えだったらしく、商会長の説明を放棄し商会長と同じものを所望した。

「だな。あと生ものは危険かもしれないから、野菜以外は生禁止で。あっ、それと存在するかは不明だが野菜でもエレノアみたいに意思をもって勝手に動く野菜も生禁止で」

大輔も瑞希の意見に賛同しつつ、瑞希の主張で足りなかった部分を補足する。

サラッとエレノアを野菜呼ばわりしている事は聞かなかった事にする瑞希。

「承知した。それと、商会長と呼ばれるのはあまり慣れて無くてな。出来れば他の呼び方にしてもらえると助かる」

「何て呼べば良いですか?」

「オウキーニなどからは姐さんと呼ばれているが、正直あまり好かん。名前から”ミク”とかどうだ?」

「ミクさんで良いですか?」

「もっと親しみを込めてミクちゃんでも良いぞ」

「幼女姿の時ならまだしも今の姿でちゃん付けは双方色々な意味でキツイ……ってか痛いやろ」

「そうか。ならばミクさんで妥協しよう。呼び捨てでも構わんぞ」

無事、商会長の呼び方が決まった時、丁度食堂の店員の前に到着し、注文を聞かれる所だった。

商会長元いミクが瑞希と大輔が先程まで述べた注文内容を考慮しつつ、同様の物を3つ注文した。

店員から引換券を受け取り、席の確保に向かう。

席と言っても人が8人ほど座れる長めのテーブルと大小様々な丸椅子が乱雑に並べられているだけであり、グループ毎のテーブル席が用意されている訳ではない。

そして食堂は広く、現在店内にいる客の1.5倍以上の席は用意されている。

今以上に混雑するのかは不明だが、今程度の混み具合なら1テーブル1グループでもある程度は問題なさそうではある。

なので、探すまでも無く余裕で席を確保出来、テーブルの中央付近にミク。ミクの対面に大輔。大輔の左側に瑞希が着席する形となった。


着席してからも暫時雑談をしていたのだが、雑談を始めて数分で引換券から音が鳴った。

「どうやら出来上がったようだ」

食事を取りに行く間にミクが引換券の説明をしていた。

以前は声かけで知らせていたのだが、食堂の広さと言語理解能力の無い者など料理が出来上がってからも放置される事例が多く、社員食堂の引換券は音と振動で知らせる事となったらしい。

瑞希と大輔は一応「へぇー」と感心した様子を見せているが、フードコートなどでは音で知らせる事は普通にあるので斬新さは感じない。

寧ろ某チェーン店のテイクアウトの注文などの様に液晶画面に番号を載せれば良いのでは?と言う疑問も抱いたが、よくよく考えると識字率の観点からも音と振動で知らせた方が確実なのだろうと自己完結出来た事で疑問を口にしなかった。

序でに補足すると番号表示の場合、食堂内の広さも相まって至る所にモニターなどを設置しないと番号が見える位置が限られてしまう弊害も出てくる。

結果として音と振動で知らせるシステムが最適解なのかもしれない。


ミクに倣い瑞希と大輔もカウンターで昼食をもらう。

そして確保していた席に戻り、食事を開始。

食事を開始して直ぐ、ミクが話を振って来た。

「午前中回った限りで疑問点などはあるか?どんな些細な事でも可能な限り答えるぞ。多少気になった程度の事でも今後の改善などで役に立つ可能性もあるから忌憚なく意見するが良い」

「気になった点とかではないんですが、移動が多かったので少し歩き疲れました。移動が多いなら自転車とか何か乗り物があれば良いなって……」

多かったと言っても寄宿舎までの往復に倉庫までの距離を足した程度で1時間強である。

歩き疲れと言うよりは部屋の内覧や倉庫見学で座ったり休憩したりする事が少なかった事が疲れの原因だろう。

「なるほど、乗り物か……。あるにはあるが……。そうだ、午後は妾に乗って移動でもするか?」

瑞希の意見を聞いたミクが暫時思考した後、真面目な顔で答える。

「ブハッ……ゲホッゲホッ」

ミクの返答を瑞希の隣で聞いていた大輔がミクに負ぶられている姿を想像し、爆笑しかけたのだが、食事中だったのがわざわいして食べ物が気管に入り咳き込む結果となったのであった。

瑞希は「もう、汚いな……」と文句を言いながら大輔の背中をさすりながら、水を差し出す。

1つ訂正しておく事があるのだが、ミクは大輔が想像しているような事をしようとはしていない。

九尾の姿になって瑞希と大輔を背中に乗せて運ぶと言いたかったのだ。

そんな事とは露知らず、いらぬ想像で爆笑しかけむせている大輔。

だが、そんな3人の会話を聞いていた(または聞こえていた)周囲の亜人の中の幾人かが瑞希と大輔を睨みつける。

恐らく日本語が理解出来る亜人が瑞希たちに反応したのだろう。

一瞬周囲の空気がピリつく。一触即発と言った雰囲気である。

「落ち着け、冗談だ。午後からは研究室などが主でこの周辺が多い。移動は少ない」

これは瑞希と大輔に向けた言葉なのか、周囲の亜人に向けた言葉なのかは不明である。

しかし、ミクの説明により、張り詰めていた空気が少し緩んだ。

推測になるが、日本語を理解していた一部の亜人たちは瑞希たちがミクに乗る事を良く思わなかったのだろう。

そして、大輔が誤解をして咽ず、瑞希がミクに対し下手な返答をしていたらどうなっていた事やら……。

その光景を想像しただけで身の毛もよだつ。

そんな神回避をした瑞希は大輔に最大限の感謝をしても罰は当たらなそうだ。

……だが、大輔の介抱をしていた瑞希のみならず、咽ていた大輔自身もそんな小さな奇跡が起きていた事すら知る由かった。

そんな周りの気配に疎い2人だからこそ心霊スポットに行っても霊感0の0能力者(れいのうりょくしゃ)だからと笑って心霊スポット巡りを趣味に出来ていたのかもしれない。

まあ、その鈍感さと楽観的過ぎる性格が原因で異世界転移してしまっているのだが……。

その後、大輔の様子が落ち着くと普段通り何事も無かったかのようにミクとの雑談に戻るのであった────。


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