探し物とは必要な時には見つからず、不要になってから見つかる事が多いと感じる第8話
駐車場に戻り、目的地へ向け車を走らせる。
病院探索やダムでの時間潰しの甲斐あって現時刻は1時前。
瑞希の計画通り次の目的地への到着時間は丑三つ時(午前2時)前後になるだろう。
日を跨いだ時間帯だけあって、道路を走る車は疎らだ。
都会とは違い元々人が少ない所為もあるかもしれないが、この交通量なら予定よりも早く目的地に到着するかもしれない。
「大輔、コンビニあったら寄って。トイレ行きたい」
「了解。次、トイレに行けるのが何時になるか分からないし、尿意は無いけど俺もトイレ行っとく」
ガラ空きの道路で退屈なドライブ。尚且つ時間も時間だけに多少の眠気があった大輔は眠気覚ましも兼ね丁度良いタイミングだと感じた。
しかし、必要な時に限ってコンビニが見当たらない。
反対車線側ではいくつか見かけたのだが、中央分離帯を跨いでUターンするのが面倒だったのでスルーしていた。
「結構限界近い感じ?」
「そんな事ないよ。でも、本当に反対側にしかコンビニないねー」
声の調子からも余裕が感じられる。瑞希も反対車線のコンビニは認識していたようだ。
だが、瑞希の申告通り切羽詰まった状態ではないようだ。
瑞希の申告を信じ、大輔は車を走らせ続ける。
余裕をもってコンビニを探していた大輔だったが、中央分離帯の切れ目近くでUターンし易そうなコンビニを反対車線側で発見した事で併行車線でのコンビニを諦め、発見したコンビニへ入る事を決める。
「瑞希、ちょっと先に行ってて」
スマホを手にし、何かを操作するフリをしながら大輔は瑞希に促す。
一緒にコンビニに入っても良いのだが、2人の主目的はトイレの使用。
コンビニのトイレは1つしか設置されていない事も多く、2人同時に入ると順番待ちになる可能性が高い。
先に買いものを済ませて待っていても良いのだが、商品を持ってトイレに入るのを嫌ったのだ。
買った商品を瑞希に預けるのも瑞希が買い物をするとしたら邪魔になる可能性もあるし、商品をカゴに入れて会計前に瑞希に渡して2人分の商品をトイレの後に会計しても良かったのだが、瑞希が気を利かせて会計を済ませてしまう可能性も十分に考えられる。
ここまで散々食事をご馳走になっているのでこれ以上瑞希に甘えるのは気が引ける。
そういう考えの結果、何か作業をするフリをして少し時間を潰し、瑞希がトイレを済ませそうなタイミングで入店しようと思い至ったのだった。
大輔は2~3分適当にSNSなどをチェックしてから車を降り、コンビニに入店する。
店内を見渡したものの、瑞希の姿は無い。
恐らくまだトイレの中なのだろう。
雑誌コーナーに近づき何か読もうと手に取ろうとしたが、ビニール紐で立ち読み対策がされていた。
中学生頃まではコンビニ側も立ち読みには寛大だったのにな……。などと物思いにふけながら商品を選ぶフリをして瑞希がトイレから出てくるのを待つ。
程無くして瑞希がトイレから出てきたので入れ替わりでトイレに入る。
トイレから出た瑞希は近くにあった買い物カゴを手に取り、商品を物色する。
大学に入学して以降、心霊スポットに行く機会もなく、バッグの管理を怠っていた。
飲食物は賞味期限が切れないように時々買い足しては古いものを消費していたが、近頃は消費したきりで買い足すのを忘れていた。
そして、ボールペンは長期間放置していた所為か掠れて書く事が儘ならなかった。
そう言った諸々の手が行き届いていなかった物のうち、コンビニで購入可能な物は今のうちに補充しておこうと言う魂胆だ。
携行食やメモ帳、ボールペンなど思い至ったものを彼や此れやと手当り次第にカゴに放り込む。
懐中電灯用に予備の乾電池を購入しようか悩んでいる時、大輔がトイレから出てきた。
「電池の予備って必要だと思う?」
「急に何の話?」
「せっかくの機会だから、ついでにバックの中身の補充をしようと思ってたんだけど、電池どうしようかなって思って。充電式の電池使ってるから使い捨てって事は無いんだけど、電池切れの時用に予備の電池を持ってた方が良いのかなって思って」
「あーなるほど。正直どっちでも良い。不安なら買っておけば良いし、使い捨ての電池が勿体無いなら充電式の電池を充電して何か入れ物に入れて保管しておけば良いんじゃないか。今のご時世スマホは必需品だし、スマホにライトは普通についてるから懐中電灯は不要。災害用にスマホのバッテリーを抑えたいからスマホとは別に光源として懐中電灯が欲しいって言うなら話は別だな」
「それもそうだね」
大輔の意見に同意しつつ、手に持っていた使い捨ての乾電池をカゴに放り込む。
瑞希は昔から人に意見を求めておきながら意見を参考にしない節がある。
結局は自分の意見の一部でも良いから同調してほしいだけなのだろう。
大輔もその点は理解している。
昔はツッコミを入れていたのだが、現在では慣れと諦めから瑞希の行動にツッコミを入れる事はしない。
意見を求めておきながら何か言うと反論してくる女性と話してるみたいだな。と心の中で思いながら少し呆れるのみだ。
話を聞いてくれれば良い系の女性とは違い、自分の意見を主張しても文句を言われない分、瑞希の方が面倒事は少ない。瑞希の思っている事の数%でも良いから意見が合えばよいからだ。
つまり、瑞希は何らかの反応が欲しくて話しかけているだけ。ほんの少し、指先1本で触れた程度でも良いから後押ししてほしいだけなのだ。
そんな瑞希を尻目に大輔は飲み物を選びに行く。
少し悩み飲み物を取るといつの間にか横に来ていた瑞希が大輔の方へカゴを突き出している。
恐らく飲み物を入れろと言う意思表示だろう。
「えー……。いいよ。ここは自分で払うって」
「良いから良いから。飲み物1つ増えたってそんなに値段変わらないから気にしないで良いよ」
瑞希に奢らせる気は一切なかった大輔だが、瑞希の返答を聞きカゴをチラ見する。
心の中で「確かに……」と納得してしまう量の商品が詰められている。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
飲み物1つで押し問答をするのも面倒だと考えた大輔は瑞希の意見を素直に受け入れ、飲み物をカゴに入れる。
瑞希は大輔がカゴに商品を入れるのを横目に自分用の飲み物を選びカゴに入れる。
「他に買うものない?」
「俺は大丈夫」
明らかに必要以上の量の商品をカゴに詰めた瑞希は大輔の返事を聞きレジへと向かう。
会計を無事済ませ、車に乗り込む2人。
乗車早々、瑞希はレジ袋の中身をゴソゴソと漁り飲み物を取り出す。
「はい。大輔の飲みもの」
「ありがとう。ごちになります」
飲み物を受け取った大輔はドリンクホルダーにペットボトルを置き、エンジンを掛ける。
コンビニに入った時と同様の場所からUターンをする感じで目的地方向の車線に合流。
少し進むと併行車線側にコンビニを発見した。
「「あっ……」」
2人の声がハモる。
「まあ、そう言う事もあるよね」
瑞希が大輔を労うような言葉を呟く。
諦めて妥協したあとに元々の条件に合致するものが見つかる。よくある事だ。
良くも悪くもこれが世の常とも言えよう……。