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毛先を整えた程度の違いなど分からないと思う第75話

瑞希、大輔、オウキーニの3人は外へ出て商会を目指す。

道中、会話も無く黙々と歩いていた3人だが、沈黙に耐え切れなかったのか、瑞希が口を開いた。

「ねえ、オウキーニ。準備って何してたの?リビングから出る前と後で何も変わってなかったと思うんだけど」

瑞希の質問を聞き、オウキーニはわざとらしく「はぁ……」と溜息を吐いた後、瑞希を諭すように続けた。

「瑞希はんは恋人の変化とかにも鈍そうニャ。瑞希はん、将来の為にも細かい変化に気が付くようにするべきニャ」

「それは言えてるな。瑞希の場合、彼女にいつもとどこが違うか質問されても『太った?』とか平気で言いそうだからな」

長年の付き合いだからこそ言える辛辣な評価である。

「僕も流石にそこまではデリカシーがないって事はないよ。言って良い事と悪い事の区別くらいつくよ」

瑞希としても大輔の評価は不満だったらしく、反論をする。

「じゃあ、オウキーニの変化も分かるよな?」

「…………。……大輔は分かるの?」

暫くオウキーニを観察しては見たものの、全く見当もつかず、瑞希は大輔に回答を求めるかのように質問をした。

「あー……。今日も良い天気だなー。初仕事って何任されるんだろう。楽しみだなー」

……どうやら大輔もオウキーニの変化に気が付けなかったようだ。

わざとらしく伸びをしながら誰に話し掛ける訳でもなく、独り言にしては大きい声を出し瑞希の質問を無視している。

「ねぇ大輔、オウキーニの何処が変わったの?」

「初日だから頑張らないとなー」

瑞希の質問を無視しての大輔の独り言は続く。

「大輔も分かってないじゃん……」

瑞希の囁くようなツッコミ。

正面から相手をしても大輔に無視されるのは火を見るよりも明らかだったので不満を呟いただけと言う形になってしまっている。

「この見事に整えられ、艶やかになった毛並みの変化に気付かんとは瑞希はんの目は節穴ニャ」

「グルーミングしたって事?元々、整ってたと思うけどね。毛並みも綺麗だよね。トラ柄の模様も綺麗に出てるしね」

「褒められると照れるニャ。日頃の手入れの成果ニャ……と言いたいところだが、身だしなみに気を遣うのは当然ニャ」

「グルーミングって要は毛繕いだろ?女の子の『毛先整えたの』並に些細な変化過ぎて分からん。まあ、猫は全身毛で覆われてるから時間が掛かるのは納得だな」

「やっぱり分かってなかったんじゃん……」

瑞希が冷静にツッコミを入れるものの、大輔は口笛を吹き、瑞希のツッコミを聞こえないフリをして無視している。

瑞希としてもこれ以上大輔を追求した所で会話が広がる事が無いと理解しているので必要以上の言及はしない。


そんなこんなで他愛のない雑談をしていると商会前に到着した。

「二人は姐御の所に行くニャ」

「オウキーニは来ないの?」

「……ワイはスタッフルームに行くニャ。色々とやる事があるニャ」

「でも、今日は早めに家を出たんでしょ?時間あるんじゃないの?」

「…………あー、今日は忙しいニャ。準備する事が多くて忙しいニャー!!」

そう言い残すとオウキーニは小走りに何処かへと向かって行ってしまった。

オウキーニの言っていた事が真実だとするならスタッフルームなのだろう。

「逃げたな」

「確実に逃げたよね。商会長と不仲なのかな?」

「上司に対して苦手意識あるんじゃないか?俺たちだって教師とか講師に多かれ少なかれ苦手意識あるだろ」

「そうかもね。考えてもオウキーニの考えてる事が理解出来るわけじゃないし、商会長の部屋場所は分かってる事だし行こうか」

「だな」

2人はオウキーニと別れ、商会長の下へと向かう事となった。


商会長の部屋の前に到着した瑞希と大輔。

ドアを軽くノックすると中から返事があった。

「誰だ」

「中埜瑞希と青柳大輔です」

瑞希が代表して返答をする。

「お前らか。入れ」

「失礼します」

ゆっくりとドアを開け、何故か恐縮した様子で中に入る瑞希。

それに比べ、瑞希の後ろに居る大輔は堂々とした様子である。

恐らく、場数の問題なのだろう。

バイトなどをした経験も無い瑞希は目上の者と接する機会が少なかったので対応方法が分からず困惑しているとも言えるだろう。

そんな瑞希の感覚からすると一番近いのが職員室に入る感覚。

緊張しているのでずして見えるのも致し方ない。

但し、昨日は普通に対応出来ていたのに何故か今日は緊張している。その原因は謎である。

「早かったな。ヤツはどうした?」

瑞希の態度を気にする様子も無く、商会長は質問をする。

『ヤツ』とはオウキーニの事だろう。

しかし、緊張しきっっている瑞希には商会長の質問が右から左へ抜けてしまい、質問の意図を理解出来ていなかった。

「オウキーニなら正面の入り口の所で別れましたよ。一緒に来ないのか質問しましたが、何か準備が忙しいって」

ガチガチに緊張している瑞希とは対照的に程よく力の抜けた感じの大輔が商会長の質問に対応する。

商会長から逃げたように感じたが、詳細を説明しなかったのは大輔なりの気遣いなのだろう。

商会長は「はぁ……」と軽く溜息を吐き、続けて「本当にアイツは……」と呆れたように呟いた。

「まあ良い。今はお前らの業務と待遇について話をする事にしよう……と言いたいところなのだが、実は何も決まって無くてな。それと無理に丁寧な言葉を使用する必要はないし、それで処遇どうこう言うつもりもないから緊張する必要はない」

呆気にとられる瑞希と大輔。

そんな2人の反応を知ってか知らずか商会長は話を続ける。

「何せ、お前らの適正も不明。給与面についても適正が分からん。お前らの世界での相場はどの程度だ?こちらの基準で不満を持たれても困るからな」

場の空気に慣れてきたのか、商会長の言葉の効果か少し緊張のほぐれた瑞希が返答する。

「1000円~1500円くらいです」

「いや、それじゃ分からんやろ。えーっと……だいたい1時間働いて1食分。住み込みの場合は寮や社宅の費用が30時間~50時間って所っすね。寮については自分たちの住んでいるアパート基準なんで適当に言ってるが、一般に貸し出されてるアパートよりは安めに設定されていて、部屋の広さや数で増減する感じだな」

その後も商会長との面談は続く……。

言語、学力面、体力面、仕事の経験etc...


「なるほど……。分かったが、分からん」

「何がですか?」

「ここで働く者は一長一短と言うか何かしらの得意分野に特化している者や明確な希望のある者が多いのだが、お前らは何と言うか器用貧乏と言うべきか、無難と言うべきか……」

「仕事が無いって事か?」

「いや、逆だ。寧ろ仕事の幅がありすぎる。商品の開発、加工、品出しに在庫管理、会計……営業は日本語以外に難はあるが、どの仕事でも任せられそうだから何処に配属すべきかが悩みどころだ。最終的には適材適所になるが、希望があれば今のうちに聞いておく」

「希望か……。俺は単純作業が苦手だからそれ以外なら。瑞希は何かあるか?」

「えーっと……。僕、バイトとかも含めて働いた事ないから分からないんだよね」

「そう言われると俺も高校の時に1年間のコンビニバイトと今の居酒屋のホール数か月だからな。接客と品出し以外は見当もつかないな。開発とかは面白そうだけどな。某コンビニの上げ底容器の開発とか」

大輔は瑞希の意見に同調する。

大輔は冗談めかして笑いながら話していたが、最後の話はボケなのか本気なのか判断が難しい。

だが、そんな大輔の普段と変わりない態度のおかげで瑞希の緊張も解れてきたようだった。

「そう言う事なら寄宿舎などの施設の見学も兼ねて妾が直々に案内しよう。興味がある仕事や疑問点があれば都度答えよう。賃金等については諸々見終わってからでも構わんだろう」

「はい。よろしくお願いします」

「少し片付ける仕事があるからそこに座って待っていろ」

瑞希と大輔は商会長の指示に従い座って待つ事となった。

その間、商会長は何かの資料に目を通し、部屋を訪れた幾人かの亜人から報告を受けたり、亜人に指示を出したりしていた。


雑談をしたりスマホのアプリで遊んだりする訳にもいかず、大人しく待つ事1時間弱……。

「待たせたな。では、行くとしよう」

斯く言う瑞希たちは商会長の案内の下、施設の見学に向かうのであった────。


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