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瑞希もオウキーニも学習しない第74話

翌朝────。

瑞希と大輔は魚の焼ける良い匂いで目が醒める。

正確に表現すると目が醒めたのは大輔であり、隣で間抜け面を晒しながら爆睡している瑞希を叩き起こした。

匂いに誘われるようにリビングへと向かう2人。

瑞希は未だ眠たそうに眼を擦っている。

「起きたニャ?今、起こしに行こうと思うとったところニャ」

オウキーニは朝から食欲旺盛でガツガツと食事を胃袋に納めながら瑞希たちに声を掛ける。

しかし、オウキーニの言動は一致していないように思える。

恐らく起こしに行こうとしていたのはオウキーニではなくオウキーニ夫人だろう。

ボーッと立ち尽くしているとオウキーニ夫人が台所から顔を出し2人に席に座るように促す。

「今、食事をお持ちしますね」

「ワイにもおかわりニャ」

オウキーニの食欲に大輔は苦笑いを浮かべる。

と言うのもオウキーニの眼前には完食された皿しか残っていない。

オウキーニの言う「おかわり」がご飯のみとは到底考えられなかったからだ。

オウキーニの声が聞こえているのかは不明だが、オウキーニ夫人は瑞希と大輔の分の食事を配膳し、一旦台所へと姿を消す。

暫くするとオウキーニのおかわり分の食事を持って戻って来た。

但し、量は瑞希たちの分に比べ6~7割程度と言ったところだ。

「食べ過ぎには注意してくださいね」

「商人は体が資本ニャ」

オウキーニの身体を気遣う夫人。

そして、尤もらしい事を言うオウキーニ。

……だが、オウキーニが動く作業を人任せにする事はヴァン邸で確認済みだ。

大輔は『朝からよく食えるな……』と感心しつつ、オウキーニへのツッコミは控え朝食に集中する事にした。

ごはん、みそ汁、焼き魚に卵焼き。理想的な朝食だな……。と舌鼓を打ちながら食事をしつつ、瑞希の様子も確認する。

まだ半分寝惚けているような様子だが、食事を口に運んでいるので問題は無いだろう。


手早く食事を済ませた大輔。

「ごちそうさまでした」

両手を合わせ、感謝の意を示す。

「お粗末さまでした」

タイミングを見計らった訳ではないだろうが、オウキーニ夫人が食器を下げる。

台所に戻ったかと思うと直ぐにお茶を持って戻って来た。

大輔の前にスッとお茶を差し出し、再度台所へと戻る。

大輔の食器はオウキーニの食器と一緒に下げられたのだが、オウキーニにお茶はない。

「オウキーニはお茶飲まないのか?」

「猫舌ニャ」

「まあ、猫だからな。冷たい水でも良いんじゃないか?」

「大輔、違うよ。動物は基本猫舌。野生生物は火を使わないからね。熱い食べ物に慣れてるのは人間くらいだよ」

食事をしている最中に完全に覚醒したのだろう。

瑞希が大輔に冷静な指摘をする。

……が、オウキーニ達は普通に火を使うし、野生生物でもない。

今の話の流れでは『舌の使い方が下手で熱いうちに舌の中央から奥に食べ物が当たるから猫舌に感じる』と言った方がツッコミとしてはしっくりくるが、大輔もオウキーニもそう言う話をしている訳ではない。

「さいですかー。良いから食事済ませろ。それに、オウキーニ達は野生でもなければ火も使うだろ」

案の定、大輔は全く興味の無い話題だったので、構わずにスルー。

ゆっくり会話するにせよ、次の行動に移すにせよ、食事している最中の瑞希に催促する。

とは言え、完食寸前だった瑞希。

大輔に促されるまま、残りを胃袋に流し込む。

「ごちそうさまでした」

「オウキーニ、出勤は何時ごろだ?」

瑞希が完食したのを見計らい、大輔がオウキーニに質問をした。

「まだ1時間程度は大丈夫ニャ。ワイも準備があるさけ、ここでゆっくりしときニャ」

オウキーニの返答を聞き、顔を見合わせる瑞希と大輔。

2人共思っている事は同じのようだ……。

((やる事が無い!!))

無論、そんな事を口に出来るはずも無く、朝の支度で忙しそうなオウキーニや食事の後片付けなどの家事に追われるオウキーニ夫人に声を掛ける訳にも行かない。

とは言え、忙しそうな2人を横目にリビングで寛ぐのも気が引ける。

「僕たちも荷物纏めたり片付けしたりしようか」

瑞希が部屋へ戻る為の口実として適当な理由を大輔に告げる。

昨日は荷物を置いて食事に向かい、帰宅して寝るだけだった。

荷物を広げる事も無ければ部屋を汚す事も無い。

大輔もそれを理解した上で瑞希の意見に同意する。


部屋に戻った2人は取り敢えず布団を綺麗に畳む。

……が、他にやる事が無い。

2人でゆっくりと雑談でもして時間を潰そうかとも考えたのだが、忙しそうにしていたオウキーニ達の姿を見ていが故、罪悪感からなのか落ち着かない。

「皿洗いか何か手伝える事があるかもしれないし、荷物持って戻ろうか」

「そうだな」

瑞希の提案に大輔も異論はない。

荷物に至ってだが、大輔はスマホと財布があるのを確認するのみで荷物らしい荷物を持っているのは瑞希のみだ。

最後に部屋を出る前に忘れ物が無いかの確認をする。

これも形式上の話で瑞希も昨晩はバッグの中身を広げていないので軽く室内を見渡し、落とし物が無いか程度の確認で終わった。


リビングに戻った2人。

オウキーニ夫人がせわしなく動き回っているのが確認出来るのみでオウキーニの姿は確認出来ない。

「やる事が無くて暇なので何かお手伝いします。何か手伝える事はありませんか?」

示し合わせた訳ではないのだが、瑞希が率先して声を掛けた。

「そうね~。じゃあ……」

オウキーニ夫人が指示を出そうとしたその時……。

「イテッ」

瑞希の脛に痛みが走る。

「おい、色目を使うなと昨日も忠告したニャ。本当に油断も隙も無い男ニャ。痛い目見ないと分からんニャ?」

オウキーニが瑞希の脛を蹴り、脛を抑える為に屈んだ瑞希の首に鋭く尖った爪を首筋に当て、ドスの利いた声で脅すように話しかけた。

「だから、そんなんじゃないってば。暇だから手伝いを買って出ようとしただけだよ」

瑞希に下心はない。

だが、弁解する他ない。

「怪しいニャ」

「じゃあ、そう言う事なのでお二人ともゆっくり座って待ってくださるかしら。あなたも物騒な事を言わずに準備を済ませてください」

「チッ……。命拾いしたニャ。さっさと準備を整えて早めに出勤する事にするから大人しく待っとるニャ。……くれぐれも変な真似はするニャ。次は容赦しないニャ」

オウキーニ夫人の事となると豹変するオウキーニ。

瑞希としてもオウキーニのみならず、オウキーニ夫人にまでも窘められてしまったので引き下がる他ない。

ずと大輔の下へ戻る瑞希。

瑞希を大輔が励ますように慰めたものの、瑞希の精神的ダメージは大きいらしく、シュンとしている。

下手に動くとオウキーニに危害を加えられそうな2人は大人しく座ってオウキーニの支度が整うのを待つ事となった。


暫くして、オウキーニがリビングに戻って来た。

「待たせたニャ。行ってくるニャ」

「はい。いってらっしゃいませ」

オウキーニは「待たせた」と言ってはいるが、瑞希を脅しつけてから30分弱程度の時間しか経っていない。

そして、瑞希も大輔も言葉にはしていないが、オウキーニが何を準備したのか不明なほど先程までと変化している箇所は少ない。

身支度を整えたのだろうが、目に見える変化と言えば服装の変化のみで、着替えだけでは時間が掛かりすぎているように感じる。

だが、そんなオウキーニの外見の変化よりも、瑞希と大輔としてはオウキーニの機嫌が元に戻っている事に安心した。


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