体型に違わず大食漢なオウキーニの第73話
暫くすると、一同の前に次々と料理が運ばれてきた。
テーブル一杯に並べられた料理……。
「頼み過ぎじゃないか?食べきれるのか?」
大輔の率直な感想である。
注文の際は量までは推測出来ない為、『結構な品数頼むんだな』と言う思いしかなかったのだが、いざ料理が並べられると1品1品の量も結構多めである。
「問題ないニャ」
大輔の疑問にあっけらかんと答えるオウキーニ。
大輔も反論しようと考えたが、これがオウキーニのわがままボディを作り出している原因なのか。と呆れつつ、まあ何とかなるかと考え直したのであった。
無論、オウキーニの体系の事に触れる事はしない。
「お好きな物をお召し上がりになって」
オウキーニ夫人が瑞希と大輔、オウキーニに小皿を配る。
オウキーニは直ぐ様、料理を大盛りに装いガツガツと食べ始める。
瑞希は「いただきます」と手を合わせ、オウキーニが最初に手を出した料理の味見からしようと手を伸ばす。
大輔は瑞希に倣い「いただきます」と形式上呟くと自分の好きそうな料理に手を付ける。
「やっぱり肉だよな肉」
「ヴァンくんの所は野菜多めだったからね」
「それは仕方ないニャ。急な来訪に対応出来ひんかっただけニャ。定期的に注文される量も2人分ニャ」
「そっか。菜園が無かったらもっと大変だったって事か……」
オウキーニの発言を聞き、瑞希はしみじみとヴァン邸で提供された料理の数々にありがたみを感じた。
「この肉、美味いな。何の肉だ?あっさりして鶏肉っぽいけど違うよな?」
大輔はそんな話には興味が無いらしく、今、食している肉に興味津々のようだ。
「それはジャッカロープの肉ニャ」
「マジか……」
オウキーニの返答を聞いた大輔は歓喜と驚愕のあまり言葉を失い、手も止まる。
そして、食い入るように肉の観察を始めるのであった。
「ジャッカロープ?何それ」
大輔とは対照的に瑞希はオウキーニの発言が理解出来ず、頭に疑問符を浮かべている。
「角の生えたウサギだな」
瑞希の疑問を解消するように大輔が端的に回答する。
「あー……なるほど。あれね」
瑞希も大輔の説明で納得したようだ。
が、しかし……
「多分、瑞希が想像してるのは違うな」
直ちに大輔が瑞希の想像を否定した。
「え?角の生えたウサギでしょ」
「そうだが、多分違う。瑞希はユニコーンみたいな一角のウサギを想像してるだろ?」
「うん」
「それじゃないぞ。瑞希が想像してるのはアルミラージ。ジャッカロープはアメリカで目撃証言があったとか無かったとかって噂のウサギだ。鹿みたいな角のウサギだ。文献によって角の形は色々だが、鹿以外にもトナカイとかヘラジカの様に幅のある角の場合もあるな。まあ、何にせよ角は2本だぞ」
大輔は自分の頭の両端に開いた手を当て、角に見立てて説明をする。
「へー……。明らかに河童のミイラ並みにウサギと鹿を継ぎ合わせた創作物だよね」
大輔の説明で想像を改める事に成功はしたのだが、想像した生物は紛い物のキメラとしか思えない姿だった。
「元はそうかもしれんが、実際、今目の前にあるからな」
「あるって言っても加工後じゃん。元の姿は見てないでしょ」
「その可能性は0ではないが、こっちに到着してからの事を思えば偶然名前が一致しただけとは思えんな」
そこから暫く、食材の話に花を咲かせるのであった。
説明によると、この食堂で提供されている野菜の一部はヴァン邸で育てている野菜が使用されているとの事だ。
とは言え、オウキーニ夫人が説明の主を務めており、オウキーニは食事に集中して時折説明に補足を入れる程度のものだった。
ある程度食べ進めたところでオウキーニは箸を置きお茶を啜り始める。
食事に満足したのかと思いきや、時々料理に手を出しては口に運んでいる。
恐らく、満足はしているのだが、他の3名が食事中で手持無沙汰と言うか口寂しいのだろう。
そして、このような行動がオウキーニの体系をより膨よかにする原因の一端を担っている事に本人は気が付いていない。
……いや、気が付いてはいるが自制が出来ないだけなのかもしれない。
そんな折、オウキーニの手が止まるのを見計らっていたのか話題が変化した。
「そう言えば、この世界ってギルドとかないのか?」
「ギルド……?組合かニャ?組合ならあるニャ。ワイの所属しとる商会も商業組合ニャ」
「そうじゃなくて冒険者ギルド。魔物の盗伐をしたり、他の町に行くときの護衛をしたり、薬草採取したりするギルド」
「ないニャ」
「え?マジ?異世界なのに?」
「当たり前ニャ。何故魔物を討伐するニャ?他の町?各自勝手に行けば良いニャ。薬草採取?自生する薬草使わんでも育てれば良いニャ」
「だって、ほら、人間に害をなし町に攻め入ろうとする魔物とか魔獣が居たらヤバイじゃん」
「大輔はんがどんな世界に生きとったかは知らんがそれはないニャ。せやけど、この世界では領地拡大や食糧確保、自衛、種族間抗争などの理由で他種族を襲う事はあっても、意味もなく他者に攻め入る者は極々少数ニャ。野生の生き物が迷い込んだ場合も街中のいざこざの為の自警団で十分事足りるニャ。意味も無く他種族を襲うのは不利益しかないニャ。特にここの様な多種族の村を襲えばここに暮らす全種族を敵に回す事になるニャ。100%無いとは言い切れへんが、その時は個人間の問題であって集落や群単位での暴走は稀ニャ。伊達や酔狂で殺しをする者も稀も稀ニャ」
「……お、おぅ」
「……。そう言えば、昨日は話が進んじゃって聞く機会が無かったんだけど、この世界に来た他の人たちって何処から来たのかな?」
大輔とオウキーニの会話を見守っていた瑞希だが、大輔が完全論破され、気まずいそうな雰囲気を察知して再度話題がてら疑問を口にする。
「日本からじゃないか?俺たちと同じように。同じ日本でも並行世界の日本で実は歴史が違うとかって話か?そうなると普通に帰っても元の世界じゃなかったりしてな」
「そうじゃなくて、商会長さんの話だと僕たちが乗って来た列車って初耳って事でしょ。調査隊送るって事だし。だから、他の人たちは何経由でこの世界に辿り着いて、この世界のどの場所が出発地点なのかなって話」
瑞希の疑問から始まった新たな会話。
確かに瑞希の指摘通り、商会長の口振りからは瑞希たちの乗った列車の事も到着した駅の事も初耳と言った感じの反応だった。
「なるほど。オウキーニは何か知ってるか?」
「知らないニャ」
「オウキーニにマタタビとかカリカリくれた人は?」
「出自は知らないニャ。そもそも客のプライベートを深く詮索しないのは商人としての鉄則で嗜みニャ」
「そうか?商品売る為には情報収集必要じゃないか?」
「程度によるニャ。だから深く詮索と言うたニャ。問題なのは距離感ニャ」
瑞希の希望とは裏腹にオウキーニは何の情報も持ち合わせていなかった。
そして、話が終わる頃にはオウキーニを除く3名の食事も終わろうとしていた。
そんな折、オウキーニが手を振りウエイターを呼んだ。
「食後のデザート頼むニャ」
「まだ食う気かよ……」
呆れる大輔であったが、オウキーニに「皆はいらないニャ?」と問われ、3名とも誘惑には抗えず、デザートを注文する事になったのであった────。