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三十六計逃げるに如かずな第71話

「ぜぇぜぇ……。だから誰かが残らないといけないんだから諦めろ」

「はぁはぁ……。大輔が残ってよ。今なら『ここは俺に任せてお前らは先に行け』って一生に1度は使ってみたいカッコイイ言葉使えるよ」

数分間に及ぶ舌戦で既に息が切れかかっている2人。

「こう言う時に安売りされたカッコイイ台詞はノーサンキューなので、瑞希さんにお譲りしますよ。俺は定価で売られたタイミングで購入しますので遠慮なく。ささっどーぞどーぞ。気兼ねなくお使いください」

「ぐぬぬ……」

『もう良いわよ。今回だけはファーシャを信用するわ。……但し、そこの化け猫、こいつ等が寝泊まりする場所は教えていきなさい。ファーシャが約束破ったらそこに逃げ込むことにするわ』

瑞希と大輔の醜い言い争いに嫌気がさしたエレノアは自分なりの解決策を提示する。

「化け猫?誰の事ニャ」

白々しく周りを見渡し確認するフリをするオウキーニ。

『アンタよ、アンタ』

「プリチイなワイを捕まえて化け猫とは失礼な植物ニャ。でも、今回は大目に見るニャ。ここからの地図を描くからファーシャはんが契約違反した場合はワイの家に来ると良いニャ」

そう言うとオウキーニは簡易的な地図を描き始めた。

「信用、ない?」

「当然ニャ。信用を失うのは一瞬、信用を築くのは一生ニャ。あんさんはエレノアはんを一度裏切ったニャ。一度失った信用を再構築せなあかんニャ。0からのスタートじゃなくマイナスからのスタートニャ。しかし幸か不幸かエレノアはんと出会って間もないし、傷も浅いニャ。まだ巻き返しは簡単な部類ニャ。頑張って名誉挽回するニャ」

自分の信用のされていない事に少ししょんぼりとした表情を見せるファーシャ。

それを然も当然かのように窘め、同時にファーシャを励ます。

そして、その間に書き上げた地図をエレノアに渡す。

「ほな、ワイらはこれで失礼するニャ」

エレノアに地図を渡したオウキーニは素早く瑞希と大輔の手を取るとエレノアやファーシャの返答も聞かず、足早に部屋を後にするのであった────。


「しっかりしてほしいニャ。ああ言う時は後先考えず逃げるのが最善ニャ。2人で言い争う暇はなかったニャ」

部屋を出て他の者には目もくれず、一心不乱に商会を後にした3人。

商会から少し離れた位置で立ち止まるとオウキーニの小言が始まった。

瑞希と大輔も反省する点が多く、今回はオウキーニに助けられた部分は多い。

2人は素直に謝罪をし、オウキーニに感謝の意を伝える。

「分かれば良いニャ」

オウキーニは短く一言言い、オウキーニの自宅へ向け再び歩き始めた。


歩き続ける事十数分。

1つの建物の前でオウキーニが立ち止まる。

「ここニャ」

どうやらオウキーニの自宅に到着したようだ。

「……ちっさ」

建物の大きさも然る事だが、大輔が反応したのは入り口のドアの大きさである。

瑞希や大輔の身長と然程変わりない高さ。

下手をすれば瑞希たちよりも少し低いかもしれない。

「仕方ないニャ。ワイらはそこまで大きくならないニャ。他者を呼ぶ機会も無いからこれで十分ニャ」

「そうだよね。猫って段ボールとか狭いところ好きだし、これでも大きい方なんじゃない?段ボール重ねただけの段ボールハウスじゃないだけ感謝しないとね」

瑞希の感想を聞き流しながら玄関に近づいたオウキーニは扉を開ける。

「ハニー帰ったニャ」

「「ハニー!」」

まさかの呼び方に驚愕すると同時に噴き出す瑞希と大輔。

そんな2人を冷めた目付きで見るオウキーニ。

暫くすると家の奥から1匹の猫人が姿を現した。

正確に言うと猫又なのか猫人なのか将又、化け猫なのかは判断出来ない。

只、オウキーニと同じように2足歩行する大きい猫が歩いてきたのが確認出来ただけである。

「おかえりなさい。あら?そちらの方たちは?」

玄関までオウキーニを迎えに来た猫人。

その口振りからオウキーニの嫁である事が推測出来る。

そして、早々に瑞希たちの存在に気が付いたようだった。

「姐御に頼まれたニャ。1泊させてほしいニャ」

「あら~そうだったんですか。どうぞおあがりください」

瑞希と大輔は頭がぶつからないよう少し腰を屈め玄関を潜る。

「お邪魔します。オウキーニの奥さん美人猫さんだね」

「あらあら、お上手です事」

「おい、色目を使うニャ」

瑞希の発言を聞き、オウキーニが瑞希をキッと睨みつける。

動揺のあまり「使うなニャ」と言うべき所で最後の「な」が「ニャ」に吸収されてしまっている事に気が付かないほどだ。

「別に色目なんて使ってないよ。率直な感想。僕個人の感想だけど、鼻筋?って言うか目頭?の部分から口元にかけて三角形って言うかドラ〇エのスライムみたいな形に白い模様が綺麗に出ている猫は雄でも雌でも整って見えるってだけの話だよ。まあ、綺麗に模様が出てなくても猫ってだけで愛敬があって可愛いんだけどね」

瑞希は自分の顔を指でなぞりながら持論を述べる。

オウキーニ夫人は三毛猫で斑模様ではあるものの、瑞希の言うように鼻から顎にかけては白い毛のみとなっている。

それに加え、オウキーニとは違い痩身である。

猫好きな人間(げぼく)が評価するならば、全員が美人猫であると評価するのは間違いないだろう。

そして、言わずもがなオウキーニが危惧するような事は一切考えていない。

あくまでも愛玩動物に対する評価として「美人」と形容しているだけなのだ。

「変な事考えたら追い出すから覚悟するニャ」

「だから誤解だって。単純に第一印象を言っただけ。色目なんて使ってないってば」

「今はそう言う事にしておくニャ」

瑞希がいくら弁解してもオウキーニの疑念が晴れる事はなさそうである。


玄関での多少のいざこざはあったが、オウキーニの許しも無事(?)得られ、一行はリビングに移動する事となった。


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