69話の次に2話挟んだけどアレは番外編なので時系列的にこれが第70話
スチュワートと別れた瑞希たちは再度商会に戻り、オウキーニの案内でエレノアの下へ向かう。
「オウキーニ、エレノアが何処に居るかって分かる?」
「恐らく地下の研究室ニャ」
オウキーニに先導を頼み、瑞希と大輔はオウキーニの後に続く。
関係者専用出入り口から入り、地下へと続く階段を下りる。
階段を下りている途中、何処からともなくエレノアの声が聞こえてきた。
『いやよ。話だけって言ったじゃない』
聞こえてくるのはエレノアの念話のみなので相手が何を言っているのかは把握出来ない。
だが、お世辞にも良い雰囲気とは思えない発言であるのは間違いないだろう。
とある一室の扉の前で止まっていたオウキーニが意を決し扉へと手を掛ける。
恐らくここがエレノアとファーシャの居る部屋なのだろう。
「何を揉めてるニャ」
オウキーニが扉を開き、問いかける。
『丁度良いところに……。瑞希、助けなさい』
「その前に状況の説明をしてもらえない事には助けようもないんだけど……」
入室すると同時にエレノアに飛びつかれた挙句、助けを求められる瑞希。
瑞希の言うように状況を理解出来ていない以上、瑞希は疎か大輔もオウキーニですらも険悪なムードに注意を促すこと以外不可能である。
エレノアの話ではファーシャが実験ばかりしようとして一向に話を聞く気配が無いとの事。
エレノアの説明中、ファーシャが反論しない所を見るにエレノアの言っている事は真実らしい。
「それはファーシャはんが悪いニャ。エレノアはんの許諾なしには毛の1本も採取しない約束ニャ」
「許可得れば可能」
「せやけどちゃうニャ。エレノアはんから話を聞く事が主体ニャ。その他のオマケ部分は交渉可能ニャ。ファーシャはんの場合は実験が主目的になっとるニャ。それは契約違反ニャ」
「……」
「どうやらエレノアの寝床を持ってきたのは無駄骨だったようだな」
「でも、そうするとエレノアって今日何処で一晩過ごすの?スチュワートさんの所?馬車に戻る?」
「……待って。謝罪する。話、聞くます。実験ダメ、理解。約束する」
瑞希たちが合流して以降、口を閉ざしていたファーシャが謝罪を口にした。
エレノアの説明を聞いて以降、皆がエレノアの味方をしている。
勿論、ファーシャに非があるのでそれは致し方ない。
だが、それが理由でエレノアに帰られてしまうのはファーシャとしても看過出来ない事態である。
ファーシャは自分の実験の進行の為、色々な物を天秤にかけた結果、謝罪するのが最善策だと考え、謝罪に至った。
『……本当?』
此処に到着してからのファーシャの行動を知るエレノアとしては疑わしさが残る。
「誓う。信用無い。3人、誰か一緒、良い」
第三者を立ち会わせても良いと瑞希たちに視線を送る。
しかし、瑞希、大輔、オウキーニの全員が同じ認識である。
(((絶対に立ち会いたくない)))
そう、全員がゆっくり休みたいのである。
更に補足すると、本日はオウキーニの家に宿泊予定なので立会人としてオウキーニは必然的に除外させる。
オウキーニが居なくなると案内人が不在になる為だ。
そうなると瑞希と大輔との間で立会人の押し付け合いになる。
押し付け合いが泥沼化すれば2人とも残されてオウキーニのみが帰還する可能性も出てくる。
しかし、正直に今の気持ちを口にするものはいない。
口にした途端、エレノアからの罵倒は避けられないだろう。
それに加え、他の者からの好感度が下がる可能性も高い。
結果、視線を送られた3人とファーシャはエレノアの返答を待つ事にしたのだった。
もし、3人が同じ認識だと言う事が共有出来ていたなら他の選択肢もあったかもしれない……。
『そうね。それじゃあ、誰にしようかs……』
エレノアが品定めをするように瑞希、大輔、オウキーニの3人に視線を送る。
一斉に3人がエレノアと目が合わないようにサッと顔を背ける。
口には出さないが、態度には出てしまっている。
『ちょっと!アンタたちも協力しなさいよ!!』
3人の態度にキレるエレノア。
「ワイは2人の案内を任されてとるから無理ニャ。残るんは瑞希はんか大輔はんニャ」
「あっ、1人だけズリーぞ。俺だって明日から働くように言われてるから瑞希が適任だ。行こうぜオウキーニ」
オウキーニの背中に手を回し、出口へと180度方向転換をしようする大輔。
「ちょっと大輔!僕も働くように言われてるの知ってるでしょ」
大輔に続き逃げようとする瑞希。
だが、ファーシャが逃がすまいと瑞希の腕を掴む。
このままでは自分だけが取り残されると悟った瑞希は咄嗟に大輔の腕を掴む。
瑞希としては大輔に助けを求めた以上の理由はない。
しかし、腕を掴まれた大輔としては「逃げられないなら道連れだ」と言う瑞希の意思表示のように感じてしまったのだった……。
そして、ここから数分、瑞希と大輔の押し付け合いと言う名の醜い言い争いが続くのであった────。
77話まで1日1話連日投稿予定(更新は恐らく20時)