番外編?ヴァン外編?ヴァン案外変?(2/2)
食事(?)を終え、再び廊下に戻ったヴァンは館内の清掃をすべく、清掃道具を持ち地下へと進む。
まずは地下に降りる為の階段の清掃。
続いて書庫への扉を開いた。
「最近は瑞希が使用していたからな。とは言え、埃を落とす程度で問題なかろう」
ヴァンははたきを手にし、1つ1つの棚の誇りを丁寧に落としていく。
個人の書庫とは言え、少し大きめの学校の図書館程度の広さはある。
そんな広さの書庫に所狭しと置かれている棚の全ての掃除はそれだけで一苦労である。
1時間弱の時間を掛け、全ての棚の清掃を終えたヴァンは最後に軽く箒で埃を集め、書庫の清掃を完了した。
「地下の使用頻度は低いからのぅ。他の部屋はどうするべきか……」
館の地下は以前、ヴァンの父親が生前に使用していた部屋が大半である。
ワインセラーや音楽鑑賞用の部屋など。ワインセラーはワイン以外の酒も保存されていたが、今ではキャビネットが置かれているのみで酒は1本も残っていない。
ヴァンは全ての部屋を軽く開け、中の確認をしただけで清掃はしない事にした。
最後に地下の廊下のモップ掛けをし、館内の清掃作業は完了した。
「さて、次は……。馬骨の世話か……。とは言え何処に居るか分からん。……いや、今は爺が使用しているから爺の所に居るか。それなら馬骨の世話は必要ないな。となると、畑の様子でも見に行くか」
外灯の明かりを頼りにヴァンは畑へと向かう。
ここ数日はエレノアに任せっきりではあったものの、それ以前はヴァンも手入れはしていたので今までの作業に比べれば勝手は理解している。
「うむ。良く育っておるな。エレノアに任せて正解のようだ」
生っている実や葉、茎などの様子を観察し、エレノアの管理体制を褒める。
畑に問題が無いと理解したヴァンは敷地内の見回りをする事にした。
……とは言え、稀に外のゾンビが侵入する程度の事があるのみで他の脅威はない。
ゾンビに至っても簡単に追い払うことが出来る。
暇を持て余したように意味も無く外周の柵に破損箇所の確認作業をしながらの見回り。
しかし、ヴァンもスチュワートも日頃から目に入っている。
言うまでも無く、破損している場所など1か所も無い。
それどころかスチュワートの手入れが行き届いているおかげで錆の1つすらも見当たらない。
敷地を1周したが、特に変わった様子も無い。
敷地内の確認を完了したヴァンは次に敷地の外へ出て墓地へと向かう。
俳諧しているゾンビを無視し、墓地の最深部へ。
そこには他の簡素な墓と違い、立派で尚且つ手入れが行き届いている墓が2つ。
ヴァンは墓の前で暫し黙祷をする────。
ゆっくりと目を開けたヴァンは無言のまま来た道を引き返す。
途中、力尽きたように横たわる1体のゾンビを発見。
ヴァンは丁重にゾンビを適当な穴に入れる。
「もう夜が明ける時間か……」
ヴァンは物置小屋からシャベルを持ち出し、行動不能に陥ったゾンビ達を次々と穴へと放り込む。
放り込むと言っても雑に投げ入れるわけではなく1体1体丁寧に収納するような感じだ。
そしてゾンビの入った穴に土を被せ次々と埋めて行く。
とは言え、ヴァンが穴に入れてやるゾンビは少なく、大抵のゾンビは自力で各々穴へと帰還していたので穴を埋める作業が大半を占めていた。
ゾンビの入った穴から順に土を被せ、全ての穴を埋め終わる頃には東の空は白んでいた。
シャベルを片付け、軽くシャワーを浴び全身の汚れを落とす。
「余もそろそろ就寝するか……。とその前に瑞希たちの使用していたシーツなどの洗濯をしておくか」
ヴァンはリネンを洗い、庭先に干す。
全てのリネンを干し終わったヴァンは満足そうに就寝するのであった────。
ヴァンが起床したのは昼過ぎ。
何とも健康的な8時間睡眠である。
目を覚ましたヴァンは着替えを済ませ、畑に水をやり、敷地内の散歩をする。
ここで、お腹が空いている事に気が付き、食堂で血液を1本呷る。
「本格的な食事は爺が帰還してからで良いだろう」
昨日置いた空き瓶の横に今飲み干した空き瓶を並べ食堂を後にする。
庭先に干したシーツの確認や魔高炉の確認、昨日切り落とした枝葉の感想具合など昨日の進捗や自分の日課を熟していると門の方から蹄の音が聞こえてきた。
どうやらスチュワートが戻ったようだ。
ヴァンが門に近づくとスチュワートが乗った馬骨の馬車が敷地内に入ってくる所だった。
「ただいま戻りました」
ヴァンの姿に気が付いたスチュワートが声を掛ける。
「うむ」
ヴァンはスチュワートに短く返事を返す。
スチュワートは手早く馬車を片付けるとヴァンの下へ足早に近づく。
「何か変化はございましたか?」
「特には無い。爺の仕事も多少だが熟しておいたぞ」
「ありがとうございます。因みに何をなさっていただけたのでしょうか?」
「うむ。庭木の剪定、館内の清掃、後は瑞希たちの使用していたシーツなども洗濯、外の者も埋めておいたぞ。それと、爺の仕事と言う訳ではないが昨晩と数時間前に軽食も済ませておる」
「……左様でございますか。お手数おかけしました」
スチュワートはこの時、瑞希たちの部屋のリネンの交換は済ませていた事は黙っていた。
ヴァンに恥をかかせないためだ。
そして、スチュワートは館内に戻り驚愕する。
乾拭きが甘く、目地に残る水分。窓には拭き残しからの乾いた水の痕。食堂は荒らされ、シンクには空き瓶が3つ。
不安を覚えたスチュワートは外も確認する。
そこには碌なシワ伸ばしもされず適当に干されたリネン。
止めは何の計画性も無く適当に切られた庭木。
「爺の仕事はやはり多すぎるな。何か対策を考えた方がよさそうだ」
呆然と立ち尽くしていたスチュワートの後ろからヴァンが声を掛けてきた。
「お気遣い感謝いたします。私奴は今のままで十分満足です」
「うむ。人手が足らん時は余に相談するのだぞ。……あ、そうだ。1つ言い忘れておった。切った枝木は焼却炉に入れておる。まだ乾燥しておらぬから火はつけておらぬぞ」
「……了解しました。ありがとうございます」
ヴァンを貶める様な発言は決して口にしない。
ヴァンがスチュワートの仕事を増やしたなど死んでも口に出来ない。
スチュワートは頭を抱えたくなるのを必死で堪え、多少引き攣った笑顔でヴァンにお礼を告げるのであった。
(庭木は育つのを待つほかありませんね。枝木も乾燥するのを素直に待ちましょう。リネンは後程アイロンを掛ければ問題なし。問題なのは廊下の水気と窓の汚れですね。まずはそこから……)
仕事の優先順位を決定し、ヴァンと別れたスチュワートは早速作業に取り掛かる。
廊下の目地に残った水分を綺麗に拭き取り、窓の清掃も完了させる。
時間を見計らい、ヴァンの食事を作り運ぶ。
「坊ちゃま、1つ申しておかなければならない事がありまして……」
食事中のヴァンに神妙な面持ちのスチュワートが声を掛ける。
「どうしたのだ?申してみよ」
「坊ちゃまが軽食と称し消費された血液についてですが……」
「爺も勿体ぶらず出せば良かったものを……」
「いえ、今までのペースでお出ししておりますと、次回商人様が訪れるまで持ちません。ですので、明日より量を減らすか回数を減らさせていただきます」
スチュワートの言葉を聞いたヴァンは口に運ぼうとしていたフォークを落とす。
それほどまでに衝撃的な言葉。
「嘘……だろ……?」
「いえ、真実でございます」
「あんなにあったのだぞ?」
「商人様が訪れる間隔が多少前後にズレる可能性がございますので少しの蓄えはございましたが、それを上回る量を坊ちゃまが消費されていましたので……。量または回数を減らされるかイチかバチか商人様が早く来るのに賭けるかは坊ちゃまの判断にお任せします」
申し訳なさそうに進言するスチュワートだが、完全にヴァンの自業自得である。
「ぬぉーー!!!」
ヴァンの悲痛な叫びが館内に響き渡る。
普段とは別の意味でオウキーニの来訪を願い、心待ちにするヴァンなのであった────。
次回投稿
4月1日(20時予定)です。